4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 3.
王城の奥の会議室で、私たちはチュレア様の超大型災害緊急対策会議を、かれこれ2時間ぐらい続けていた。
「……ですから、未だフューネリー女公爵様の現在位置はつかめておりません。索敵能力の範囲が広い者で最大2山。現在は湖水地方全体が破壊されて可視範囲が広がっておりますが、何も見つからなかったという報告が上がっております。また同行者数名の安否も不明で、生還者もまだ発見されていない、という状況です」
ピシッと立って報告をするセンチネル・ゼンダーさんは、いかにも軍人上がりって感じの雰囲気で、ぐだぐだな会議の参加者たちも心なしかピリッとなっている。
「なるほど、変化なしということだな……ご苦労であった、下がってよい」
「はっ」
戦争大臣が場を辞すると、寝付けないとかで途中参加してた王様が、深いため息をついて疲れ切った顔を私に向ける。
「以上がこれまでの経緯だ。火山の問題に助力できなかったのは、こういう訳でな……」
「あ、た、大変でしたね……すみません、お忙しいときに連絡なんかしちゃって」
「よいよい、ミドヴェルトは我が妹たるチュレアと懇意であったな。最近の妹について、何か気づいたことはなかったか?」
「えーっと……キシュテムさんと久しぶりにお会いできるとのことで、ご機嫌も麗しく……あ、その、キシュテムさんにお会いするための準備ができていないと、ご心配されていました」
「それは、先ほど話に出た錬金術博士の薬の件か?」
「はあ……チュレア様は、なぜか私に受け取りのご依頼をされまして……えー、アトリエに行ったところ、ロンゲラップさんが火山に行ったと聞かされたので、それで……」
「噴火に巻き込まれたという訳だな。ふむ……では、そちらはやはり別件か……」
「別件……?」
私がよく分からないままに首を捻ると、王様と一緒に起きてきた黒い棒みたいな大臣が説明してくれた。
「我々は、これがチュレア様の癇癪ではないと思っているのです。一連の事件は仕組まれたものであると推測していましてな」
「え、クーデターですか!?」
それ以上の説明はなかったので、私はとりあえず黙って様子をみた。
とりあえず、アイテールちゃんが設置した王都の『妖精塚』は無事らしく、ロプノール大司教やヒュパティアさんたちが保護されているらしい。
西の森ホテルは、結界が機能してて無傷で、通常営業で上級貴族の避難場所になっている。コロッセオのほうも無事で、攻撃当時にイベントが開催されていたため、かなりの数の魔国民たちが生存しているようだ。ほかに、天使妻が住まう人間族専用の城も無事っぽい。
一応、状況は落ち着いているので、まずはアイテールちゃんに保護された皆さんをお迎えに行くってことになった。
すっかり忘れていたけど、スマホ魔法で連絡をすると、フツーに繋がってホッとする。
「あ! アイテ……妖精王女様! 聞きましたよ、大変でしたね!」
『ふむ、やっと、われのことをおもいだしたか……きょういくしゃどのよ』
「す、すみません……まさか、こんなことになってるとは思わなくて……」
『よいわ。われも、あえてふせておったのだ……どうにも、しんじがたくてな』
アイテールちゃんは、王都が攻撃されるということについて、いろいろと時期を調べていたみたい。未来視は、必ずしも具体的な日時がわかるわけではなくて、周囲の状況で推測するんだとか。ヒュパティアさんの様子を見ようと王都に出たところで、出店の配置や何かから攻撃のタイミングを察知して、間一髪で皆んなを妖精塚に保護してくれたらしい。
「本当に助かりました〜! はい……ええ、はい! ありがとうございました! ではすぐに〜!」
電話を切ると、お誕生日席から軽いため息が聞こえた。
「余はすでに魔道具での勅令は済ませてある。追撃が無いとは言えぬので、早めに迎えに行ってやれ」
あきれたような王様の言葉に、私は気まずい感じでスマホをしまい込んだ。
うう……どうせダメ人間ですよ……すぐ電話する発想なくてゴメンね。
たしかに現実世界でも「全然連絡くれない!」って怒られた気がするような……しないような。
「妖精巫女様の祠が無事っていうのは、意外なご利益でしたね……」
会議室の壁際にヤーちゃんのベッドを出しながら、マーヤークさんがテキパキと具体的な準備をしていく。私はアイテールちゃんの配慮に感謝しながら、隣に立ったベアトゥス様に話しかけた。
妖精塚は、普通の土や粘土で形を作るんだけど、そこに妖精巫女の分身体であるちびっ子アイテールちゃんが入ると、なんかエメラルドグリーンに光って起動するのだ。だからそんなに防御力が高いとは思わなかったけど、考えてみたら妖精の結界は魔法無効化とかあった気がする。
とはいえ、チュレア様の超大型火魔法を防御できるとなると、かなりの硬さだ。
重ね掛けされた王都の結界も機能したんだろうけど、結果的に被害は出ちゃってるし、アイテールちゃんが居なかったらご懐妊中のヒュパティアさんがどうなっていたことか……
チラリと勇者様の顔色を窺うと、憮然とした表情でどこかを見ている。
妹さんの安否確認を忘れてた私にお怒りなのかもしれない……と思ったけど、変に言い訳しても墓穴掘るだけだろうし、私は開き直って気づかないふりがベストだと判断してスルーした。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
王都の妖精塚は、公園の片隅に植えられたドウダンツツジの奥に隠れるように設置されていた。
「こんなところにあったんですね……」
近づいてみると、急に引っ張られる感覚があって、次の瞬間、私はエメラルドグリーンの世界に立っていた。
「ひさしいの、きょういくがかりどのよ」
妖精塚の外見は小さめの灯籠ぐらいの大きさだったのに、中は大聖堂のような広々とした空間で、光が溢れて清浄な雰囲気がある。
私の後に続いて、勇者様とマーヤークさん、王子殿下が瞬間移動みたいに現れた。
「中に入れるなんて知りませんでした……」
「ムー!」
「われが、まねいたものにかぎる。じかんは、きちんとけいかする。いきものも、しゅうのうかのうじゃ」
アイテールちゃんの言い方から察するに、ここはインベントリか何かなのかな?
私は、自分がアイテムになったような気分で周囲を見渡す。
ほとんど何も無い空間だけど、中央にちょこっと応接セットが置いてあって、ヒュパティアさんが寝そべっていた。その周囲には、疲れ切ったように身を寄せ合って座り込む避難民の方々が見える。
「ヒュパティア、大丈夫か?」
「お兄様……よくぞご無事で」
メガラニカ公妃であるヒュパティアさんは、現在妊娠3ヶ月とちょっと。大変な時期に大災害に巻き込まれて、母体への影響が心配だ。
でも見た感じ、そこまで具合が悪そうではなくて、少し安心する。
「しっかり眠れていますか? 何か欲しいものがあれば出しますよ」
「まあ、ご親切に……ではミドヴェルトお義姉様、オレンジジュースとチョコレートをお願いしてもいいですか?」
「はい、少々お待ちいただけますか?」
私が振り向くと、後ろに控えていたマーヤークさんが心得たとばかりに、緑色の足がついたヴィンテージグラスみたいなのと、細かい絵が焼き込まれた陶器の皿を、縁に飾りのついた銀のトレイに乗せて運んできた。
いかがですか? とばかりに薄く悪魔笑いを浮かべる執事悪魔に、私はちょっとウグッとなる。
というのも、このお皿……私が現実世界で狙ってた超お高いやつなのだ。
お気に入りに追加だけして、ずっとネット上で眺めてるだけだったんだけど……何故わかった?
どうもマーヤークさんは、私から生命力を吸い取るときに、記憶もちょっと見てる気がするんだよね……
そうじゃなきゃ、こんなに私好みのドンピシャなラインナップ出して来ないんじゃない?
それとも、こういうのが悪魔の能力ってやつなのかな?
獲物の心の隙を的確に狙うために……とか?
複雑な気持ちでオレンジジュースとシンプルなチョコを出し、私は笑顔で言った。
「せっかくですから、少し休憩しませんか? 皆さんもどうぞ」
「うむ……われは、はなびらちょこを、しょもうするぞ」
「はい」
「ムー!」
「フワフワちゃんはアイスが挟まった板チョコだね」
実は水魔法を習得したついでに、ジュース魔法のラインナップも増やしてみたのだ。
その結果、高校の時に作ったクリアなイチゴジュースと蜂蜜レモンジュース、大好きだったグレープフルーツジュースが出せるようになった。
一気にワイワイ騒がしくなって、避難民の皆さんもホッとしたような表情だ。
ふと見ると、メガラニカ公が甲斐甲斐しくヒュパティアさんのお世話をしている。
ベアトゥス様はといえば、意外なところに避難していた厨房のおばちゃんと話し込んでいる。
おばちゃん……無事だった!
なんでも、足りない材料を買い出しに来ていたところに、妖精巫女の分身様がやってきたのだとか。
余裕そうにしているアイテールちゃんだけど、だいぶ頑張ってくれたみたいだ。
「ふふふ、王女様。お口の周りがベッタベタですよ」
私がチョコまみれのちっちゃなお口を拭こうとすると、ちょっと嫌がりながらもアイテールちゃんは大人しくされるがままになっている。
気弱だったアイテールちゃんが、こんなにも大きく……ま、体は小さくなっちゃったけど……でも、こんなにたくさんの人を守れるくらいに大きな存在になってくれて、教育係冥利に尽きるってもんだよね!
「な、なんじゃ! ぐりぐりふくのはよさぬか!」
「ふふふ、ありがとうございます」
私が差し出したイチゴジュースを不審顔で受け取ると、クンクン匂いを嗅いでひと口飲んだアイテールちゃんが叫んだ。
「びみである!」
「それはよかったです」
「おぬし、せいちょうしたではないか! われが、ほめてつかわすぞ」
「光栄の至りです」
「おや、ワインかと思ったけど、ベリーなんだね」
アイテールちゃんと一緒にいたエニウェトク先生も、イチゴジュースはお口に合ったらしい。2杯目に手を伸ばしてご満悦だ。
「ミドヴェルト様、ご帰還をお迎えできず、失礼いたしました……」
「ロプノール大司教様、ご無事で何よりです」
ずっと具合が悪かったっぽいロプノール君は、可愛いウサちゃんに支えられてファンシー感がアップしている。
隣にはココノールさんが控えていて、兄妹の関係も悪くなさそう。早く元気になるといいけど……




