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4.『カフェ・ショーブランで昼食を』part 2.

「ことの次第はこうですな」



 会議室の大きなテーブルにつくと、慌てて起きてきた外交専門のセドレツ大臣が、地図を開きながら説明してくれた。


 緊急対策部で働く魔国の上層部たちは、シフト制で24時間稼働しているとのことだった。


 真偽は不明みたいだけど、婚約者候補たちと女公爵のチュレア様が、王都の南の湖水地方に出かけて行って、何らかの事件が起きたらしい。


 そこには、伝説の悪魔でチュレア様のお相手として大本命のキシュテムさんも居たようだ。


 かろうじて王城に届いた、キシュテムさんのスマホ魔法での連絡による一報で、事件の概要が判明した。


 でも、それも今は連絡がつかなくなっている。



「キー様が居たのに押さえられなかったんですね……」



 私が何気なく感想を言うと、フワフワちゃんを残してこちらに戻ってきたマーヤークさんが、納得のいかない表情で腕組みをしながら顎を押さえた。



「キシュテム様は、私に結界魔法をご教示くださった上、ご自身もかなりの使い手です。いかにチュレア様の最大出力の火魔法とはいえ、押さえられないとは到底思えませんが……」


「実際問題、押さえられていないではないか。伝説とは言っても起きたばかりだしな。隙の突きようは幾らでもある」



 厳しい顔のベアトゥス様が、やっぱり腕組みをしながら地図に目を落として言った。


 その言葉に、マーヤークさんがピクリと反応する。


 王室に仕える悪魔は、不敬に割と厳しいのだ。ついでに、大好きな育ての親ともいえるキシュテムさんを軽んじられて良い気はしないだろう。


 でも、勇者様の気持ちもわかる。


 厨房で働く仲間たちが消え去ったのだ。


 王城には、文官さんもメイドさんもいなかった。消えていたのだ。


 気配を察知できる勇者様が何も言わなかったということは、どこにも気配は無いってことなんだろうと思う。


 それでも勇者様が殺気を出さないのは、精霊女王ベリル様の姿を見て、まだ希望があると思っているからじゃないかな……?


 もしかしたら、魔道具でリセットできるかも知れないし……


 そのほかにも何かできることがあるはずだ。



「王都は全滅なんですか? 南の湖水地方はどうなってしまったかわかりますか?」



 私が質問すると、さりげなく寝起きで崩れた襟を直していたセドレツ大臣が、姿勢を正して答えた。



「む……全滅ということは……決して……湖水地方は文字通り消滅しましたが、その先の湿地帯は健在です」


「ということは、ゴッドヴァシュランズオルム卿も……」


「そうですな、先ほど無事であるという連絡が入っておりますので、ご安心を」



 従者らしき人に飲み物をもらって、セドレツ大臣は一気に飲み干した。


 それから「うっ」と顔をしかめて()()()と、口に手を当てて目を見開く。



「だ、大丈夫ですか!?」



 毒でも飲んだのかと思って、慌てた私が声をかけると、セドレツ大臣は無言のまま手で制する。



「問題ございませんぞ……気つけに栄養剤を飲んだまで。これがまた、えも言われぬ味でしてな……」


「ああ……」



 無理して仕事してる人は、みんなこういうの飲んでるのかなぁ……


 なんだか可哀想になって、マカ&ギャバ&カカオ80%みたいな全部盛りチョコを出すと、セドレツ大臣は「これはイイですな」と言いながら摘んでくれた。



「湖水地方で起きた問題が、なぜ王都に影響しているのだ?」



 セドレツ大臣が落ち着いたところに、青髪悪魔のロンゲラップさんが疑問を投げかける。


 その声のほうに顔を向けたセドレツ大臣は、レアな相手に出会ったとばかりに顔を輝かせた。たぶんだけど、今起きたな……脳が。



「おお、その声は……ロンゲラップ博士ですな、お会いできて光栄……いや、今はそんな時ではございませんな、左様(さよう)、こうなったのは、おそらくですが……」



 そう言いながら、セドレツ大臣は周囲を見回しながら声を潜めた。



「チュレア様が、()()()()()()()()()()()()()()からだと推測されております」


「は!?」



 私が思わず大声を出すと、遅れて参加した戦争大臣のセンチネルさんが詳細を説明してくれた。


 シュッとしたイケメンだけど、グイッと近づいてくると胸板が厚い。



「戦争省を統括しております、センチネル・ゼンダーです。王都に着弾した超大型火魔法は、判明している分で7発。2発は王都の魔法防御結界が防ぎ切りましたが、3発目が結界を砕き、4発目が王都の西部を焼きました。続いて東部、東南部、北西部に直撃しまして、王都はほぼ壊滅。魔法安全部による事後調査の結果、フューネリー女公爵様の魔法であると結論づけました」


「7発も……」



 あまりにも衝撃的で理解が追いつかない。


 フューネリーっていうのは、チュレア様の所領であるフューネリー地方のことだ。


 そんでもって魔法安全部っていうのは、いわゆる王家の影的な人たちのフロント部署らしい。面倒が起きたときの後処理とか、何か怪しいことがあれば事前調査したり、事件事故の分析や原因究明なんか色々やってるみたいだけど、全貌はよくわからない。


 ちなみに、マーヤークさんも、さりげなく魔法安全部に席があるらしい。執事とは一体……


 まあでも、何でも屋さんなのは、どっちも同じかもね!


 というか、マーヤークさんの結界があったら、こんな惨事は起きなかったんだろうか……



「やっぱり、私がチュレア様に薬を届けなかったから……」



 私がうっかりそう呟くと、センチネル卿は、まるで知らなかったというような顔で聞き返した。



「失礼ですが、薬とは何でしょうか? フューネリー女公爵様に関する事項でしたら、ぜひお聞きしたい」


「あ、えっと……私もよくは分からないのですが、こちらのロンゲラップ博士に、チュレア様からご依頼があった薬を引き取ってくるよう仰せつかっておりましてですね……」


「フューネリー女公爵様からのご依頼とは、どのようなものかお聞きしても?」



 戦争大臣の圧に私がうっすら引いていると、青髪悪魔大先生から助けが来た。



「ああ、それは魔力アップの薬だな」


「魔力量が増大する薬がある……と?」


「いや、魔力量は増大しない。一時的に使用できる魔力がアップする薬だ。効果は状況にもよるが半日だな」


「はぇー……半日も魔力がアップするなんてすごいですねぇ……」

 

「魔力はアップするのに魔力量は増大しない……? そんな薬飲んだら、()()()()()()()んじゃねぇか?」



 戦争大臣と王室御用達錬金術博士の会話にカットインしてきた勇者様が、当たり前のように鋭いことを言う。


 確かに……現実世界では、栄養ドリンク飲んで徹夜した後、反動がすごかったかも……


 魔力量が変わらないのに、一時的に実力以上の魔力が使えるっていうのは、明日の分を前借りみたいなことかもしれない。



「え、これ……大丈夫な薬、なんですよね……?」



 私が恐る恐る(たず)ねると、ロンゲラップ博士は淡々とした調子で答えた。



「君が言う『大丈夫』という基準はよく分からないが、少なくとも命に別状はないし、後遺症も残らないはずだ」


「はず……というのは?」



 科学者特有のはっきりしない言い方に、戦争大臣のセンチネル卿が質問を重ねる。



「薬効に問題はない。しかし、(もち)いる者の使用方法が間違っていれば、どんな安全な薬でも毒になり得るからな」


「ああ、()()()()()()()()()()()()()ってことですね」

 

「その通りだ」



 私が何気なく現実世界で聞き慣れたCMのフレーズを口走ると、ロンゲラップさんは満足そうに頷く。


 パソコンを何でもできる魔法の箱と思い込んでいる人も多いけど、薬も同じで飲みさえずれば治る、むしろ多めに飲めば早く治る……なんて思い込んでいる人は多いらしい。


 そんなわけで、そっち系の知識がないと、その気も無いのにオーバードーズしてしまったりして大変なことになるケースが多々あるとのこと。


 たぶん、この異世界で一番賢い存在であろうと思われる青髪悪魔は、他者はとんでもなく愚かな可能性があるってことに配慮があるようだ。


 それならまあ、安心か……


 



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