3.『火山の巨人イオスパイデ』part 33.
「いいですかー? 皆さんちゃんと前の人をしっかり掴んでますねー?」
帰還魔法で帰るには、帰還する全員が私と一体になる必要がある。
どんなに近くに居ても、物理的に離れていると置いてかれちゃうのだ。
だから、どうしても慎重に確認してしまうんだけど、無意識のうちに繰り返し過ぎたのか、とうとう勇者様からのツッコミが入った。
「それ、何度もやらないと駄目か?」
「点呼確認は集団行動の基本です!」
「ムー!」
「はい、王子殿下、良いお返事ですね。それでは、王都に帰りますよー!」
私が帰還魔法を発動しようとすると、起きてるほうのマーヤークさんが、遠くを見ながら私に注意をうながす。
「お待ちください、ミドヴェルト様。岩どもがやってまいりました」
「え? 落石ですか!?」
上からは何にもないけど!? と思いながら私がマーヤークさんの見ている先に目をやると、あの動く偽四角岩たちが想定外の速さで山を登ってくる。
登ってくるといっても、クライミング能力はないようで、ほぼ水平な感じで向こうの山腹から斜め上にノロノロ上がって来たのだった。
大きさもマチマチで、なんだか家族みたいな4つセットの岩も居る。
何と言うか……田舎の道端で見た、梅雨どきに大量発生したカタツムリ的な既視感……?
現実世界の母方の田舎は、結構ファンタジーなレベルで色々大量発生していて、今でも記憶に残るシーンがある。
雨の日にちょっと小さめで殻の薄いカタツムリが歩道にビッシリ大量発生したり、ちょっと大きめのカエルが大量発生して道路で轢かれまくっていたり、緑色の葦がたくさん生えている浅い川からアオハダトンボだかハグロトンボだか、よくわからない羽の黒い綺麗な糸蜻蛉が大量に飛びたったり、ばあちゃんの畑にカラフルな毛虫が大量発生したり、近所の牧場の柵に女郎蜘蛛が大量発生したり、青くてデカくて毛がモフモフのヤバい蜘蛛が出て大騒ぎしたりした。
ただ、今考えると青い蜘蛛は玄関の内側に居たから、あれは叔父さんのペットだったのかもしれない。叔父さんは当時、よくわからないけど世界を出張で飛び回るような仕事をしていて、よく海外のお土産をくれた。あと金銭感覚がバグっていて、小学生に正月でもない日に4万円ものお小遣いをくれたりした。
あんま関係ない記憶まで急に思い出してしまったけど、偽岩がいっぱい来すぎて、軽く現実逃避しちゃったよ……
「動く岩ってこんなに居たの!?」
余裕があったら、全体の生息数とか細かい生態を調べたい。
偽四角岩たちは、私たちの近くまでたどり着くと、なにやら細かく振動しはじめた。
「え!? ……地震ですか!?」
私が慌てて周囲を確認すると、地面は別に揺れてない。
すると、私のすぐ脇にいたラハールちゃんが、ぴょこっと顔を出していった。
「この子たち、回復薬が欲しいんだって……んと……一番カワイイ子が怪我しちゃったんだって言ってるよ」
「え? ラハールちゃん、岩の言葉がわかるの?」
「うん……」
この動く岩、言葉あった……
ということは、知能高い?
え? ヤバい……この岩も魔国民か? 王都に連れて行くべき??
私が動揺していると、青髪悪魔のロンゲラップさんが冷静なツッコミをしてくれた。
「食用の魔物と同等の社会性はあるようだな……ところでお前、調べたいことがある。王都に戻ったら、その子どもを連れてアトリエに顔を出してほしい」
「は、はい。わかりました……」
どうしたら良いかわからないまま、テンパってた私は、ラハールちゃんを青髪悪魔大先生に差し出すと約束してしまった。
不安げな目を向けるラハールちゃんに軽く罪悪感を覚えたものの、私のかかりつけ医でもあるロンゲラップさんは信頼できるはず。
「大丈夫だよ、健康診断みたいなことだから」
「うん……」
「安心しろ、俺も行く」
急にベアトゥス様が、ラハールちゃんを抱き上げて参加表明をした。
「うん!」
ラハールちゃんは、もうすっかりベアトゥス様と親子みたいに馴染んでいるが、設定はあくまでも『お兄ちゃん』である。
そして私も『お姉ちゃん』って設定。そこはしっかり守っていきたい。
「じゃ、せっかくだから帰りに王都でお食事して帰ろうか?」
「うん! 楽しみ!!」
なんだかんだでペアレンツ感出しちゃうけど、これはこれでイイよね。
偽岩の群れに回復薬を渡していると、向こうのほうからぴょんぴょん地面を跳ねてくる小さな光が見えた。
「ムー!! ムー!!」
「え? フワフワちゃん!?」
急に、ぴこん! と元気になって、フワフワちゃんが走り出す。
ビックリして王子殿下が向かう先を見ると、その小さな赤い火は人型で、どうやら手を振っているようだ。
「おぉーーい! おぉーーい! まってくれぇーー!」
「今度は何!?」
見ると、フワフワの王子殿下と小さい火は、仲良く一緒にぴょんぴょん飛び跳ねてて楽しそう。
ムー! ムー! と嬉しそうなフワフワちゃんの声もこっちまで届き、だいぶテンションが上がっているようだ。
「アレってもしかして……」
「ああ、火山の巨人と同じ気配だ。だいぶ小さくなっているがな……」
私の何気ない疑問に、ベアトゥス様が優しい目で答えてくれた。
やだ……好き……♡
もう、勇者様はお人がよろしいんだから、変に悪ぶらないで、そうやって素直にしてればいいのに。
そしたら、もっといろんな人がフツーに話しかけてくれると思うけど……
ま、浮気は許さんけどね!
……なんて思いながら、また遠くに目をやる。
イオスパイデさんは、フワフワちゃんの上を定位置にしたようで、ふぃーっとひと息つきながらニコニコしている。
「よかったね、フワフワちゃん!」
「ムー! ムー!」
結局、動く岩は野生動物として自然環境にそっとして置くことになって、いざという時の回復薬を少し多めにケルンに隠しておく。
「いやー、思ったよりちいちゃくなり過ぎちまってよぉー、移動に時間がかかっちまったなぁー!」
「ムー!」
フワフワちゃんの上に乗ったイオスパイデさんは、間延びした喋り方はそのままに、全体が5cmくらいになっていた。
よくわからないけど、もう溶岩の中を自由自在に動くことはできなくなったらしい。
火山の精霊として、ほとんどのパワーをヤーちゃんに吸収されてしまったので、そのまま私たちと同行し、権限の委譲など細かい手続きを王都で処理する必要があるんだとか。
さすが契約大国というかなんというか……
魔国は中央集権国家なので、どんな地方に住んでても、何かっていうと王都に行かなきゃいけない仕様だ。
ITスキルがあるメガラニカ公とかも居るんだし、早くデジタル化すればいいのにね。
まあ、魔族は弱肉強食で序列がはっきりしているとはいえ、軽く参勤交代みたいな意味もあるんだろう。
定期的に手入れをしないと、思わぬ問題が起こるかもしれないし……管理者には権限もあれば監督責任もあるということかもね。
「では、今度こそ帰還しますよー! 皆さんいいですかー? 手を離したりしていませんかー? しっかりくっ付いてくださいねー!」
「いいから、早くやれ」
帰還魔法を発動する前に、いつものように念入りに確認事項を繰り返していると、勇者様から安定のツッコミが入ってしまった。
ちょっと楽しい。
「では帰還します!」
地面に魔法陣が発生して、私たちは光に包まれた。
◇◆◇・・・◇◆◇・・・◇◆◇
目を開けると、教会内の大広間に私たちは居た。
「ふー、帰還成功っと! みなさん、手を離して大丈夫ですよー!」
「ありがとうございます、ミドヴェルト様」
「ふむ……こういった移動方法も悪くはないな」
そんなことを言いながら自由に歩き出す皆んなをよそに、ベアトゥス様が私に向き直って言った。
「悪い、ちょっと……いいか?」
「え? はあ……何でしょう?」
勇者様は珍しく周囲を気にしながら、ラハールちゃんが空気を読みながら扉の向こうに姿を消すのを見送ってから、ゆっくりと言葉を繋ぐ。
「俺は別に……話しかけられたからというだけで、お前に惚れたわけではない……!」
「え……?」
え、な、何言ってんだろ? 急に……
困惑する私をよそに、ベアトゥス様はあっちを見たりこっちを見たり、たまに私の目を射抜いたりしながら忙しなくため息をついたり「くそっ!」と言ったり舌打ちしたりしている。
ちょっと面白いけど、まだ意味はわかりません……早くしてくれ。
「理由は……上手く言えないが……」
「はい……」
一応、私的には『ゆっくり待つよ』ってアピールで微笑んでみたが、勇者様的には余裕の笑みに見えてしまったらしく、急に顔を真っ赤にして怒り出す。
「っ! いろいろあるのだ!」
「そ、そうですか……」
「あのとき、真っ先に思い浮かんだ理由がそれだった!」
「ふふふ……」
「おま!? わ、笑うなっ……!」
思わず、可愛いいが過ぎる夫に顔が綻んでしまったが、私は居住まいを正してキチンと向き直る。
「私も毎日惚れ直してます♡」
「な!?」
不意にハグすると、私の行動が予想外だったのか、勇者様は両手を浮かせて『チカンしてません』みたいな体勢をとった。
あれ……? こういうことだよね?
何があったか知らんけど、ベアトゥス様の心境に何かあったらしく、夫婦間の愛情確認がしたくなったんだろうと思う。
この繊細な筋肉勇者は、勘が良いのか悪いのか、すぐ勝手に落ち込んでしまうのだ。だから、毎日お花にお水をあげるように、プラスの言葉をかけて大きく頑丈に育ててあげないといけない。
それが、私にできるせめてもの……償い? なのかな……無理に魔国に連れてきてしまったし……泣くほど大切にしてた妹さんも勝手にホムンクルスにしてしまったし。
「お互い結婚初心者ですので、これからも頑張りましょう!」
「うむ……」
考えられる限りの大正解を満面の笑みで伝えたつもりの私に、ベアトゥス様はイマイチ納得できていない顔で曖昧に頷く。
なんかダメだった……?
ちょっと、これ以上の女子力を求められても、私には無理なんですが……
やっと、ベアトゥス様の腕が私の背中に降りてきてくれたかと思ったとき、教会の扉が勢いよく開けられた。
「大変!みんな黒い!!」
駆け込んで来たのは、怯えた顔のラハールちゃんだった。




