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3.『火山の巨人イオスパイデ』part 32.

「えぇ!? なんで!!」



 思わずデカい声で反応してしまって、私は思わず口を押さえる。


 ベアトゥス様は、正真正銘混じりっ気なしの人間族なのに、謎スキルで放射線に耐性があるらしく、クマムシ並みに頑丈だ。けど、私の物理防御結界ではアルファ線とベータ線ぐらいしか防げない。私の体内を通過してしまうエックス線や中性子線、ガンマ線なんかは、どんなにレベルアップしても結界では防げない計算になるとマーヤークさんに言われてしまった。


 完全な放射線防護ができないときは、線源からの距離をとって避けるしかないのだ。


 勇者様は私の安全に関する問題についてかなりしっかり勉強してくれてて、ファレリ島での一件以来、放射線防護の専門家みたいになっている。目に見えない脅威ということもあり、マーヤークさんをガイガーカウンター代わりにして、何やらサインを送り合っているのを何度か見たことがあった。


 今も、勇者様はマーヤークさんからの合図で瞬時に私を押さえ、飛び退いている。


 まあ最悪の場合、霊樹の蘇生薬で何とかなるんじゃないかと思うけど……


 でも、よくある落とし穴として『回復アイテムや魔法は、本来その人が持つ回復力を強化して云々』ってのがあるから、細胞の再生力が根本的に破壊されてしまう放射線障害は、この異世界でも回復不可能かもしれない。


 かもしれないし、そうじゃないかもしれない……


 そんでもって、異世界の人間族と私は、もしかしたら条件が違うかもしれない。


 いろいろ考えると、安易に「大丈夫っしょ!」とは言えなくなっちゃうわけで……


 とにかく危険はできるだけ回避したほうがイイって感じに落ち着くのだった。


 しばらくすると、ほとんど元の見た目に戻ったマーヤークさんが、ゆっくりと歩いてこちらへやって来た。



「失礼いたしました、ミドヴェルト様。あの者が発する毒は、ロンゲラップ博士が抽出し厳重に封印しましたので、今後はお近づきいただいても大丈夫です」


「あ、はい……」


「なぜ急に毒化した? 溶岩に問題はないのか?」



 ベアトゥス様が、マーヤークさんに厳しい口調で質問した。



「ええ……この山の溶岩や岩石にも微量の毒はあるようですが、ミドヴェルト様に届くほどのものではありません。周囲にある微量の毒を、あの者が集約して純度の高い毒物に錬成してしまったようですね」


「ソレってもしや……」


「ええ、()()です」



 マーヤークさんが、にこやかに手のひらをクルッとさせて指し示したのは、青髪悪魔大先生がとても大切そうに、何か丸い物体を金属製の箱に入れてインベントリに格納するところだった。


 それ、なんてデーモンコア……?


 私は軽く気が遠くなりながらも、専門家の元で安全に保管されるなら大丈夫かと思い直す。


 アレかな?


 呪われた宝具みたいな感じで、どっかに封印されたりするのかな……そんでもって、忘れた頃に誰かがうっかり封印を解いて大惨事が起こり……


 それ、なんてゴイアニア……?



「し、しっかりと管理してくださいね、ソレ! いらなくなってもその辺に捨てたりしないで、天使の皆さんに正式な手続きを踏んで譲渡してください! サリフェンリーゼさん達には、私からも話ちゃんと通しておきますんで!!」



 私が遠くから必死に訴えるのをチラリと見て、ロンゲラップさんは完全スルーした。


 なんで!? 今ゼッタイ目ぇ合ったじゃん!! 多少は(うなず)くとかしてもいいのでは!?


 譲渡先を天使さん達に指定したのは、あのオーバーテクノロジー集団なら、核物質の取り扱いも余裕だろうと踏んでのことだ。


 私の中の宇宙ドラマの記憶が確かなら、あの宇宙船の動力源かワープ航法に使うコアとかは、核物質だったような気がする……いや待て、反物質だったかも?


 まあどっちにしろ、宇宙技術を普通に持ってるサリー船長ならどうにかしてくれると信じられる。


 魔国の皆さんは、一人ひとりの魔力は高いけど、科学技術のほうは全然だ。


 核廃棄物の危険性とか、説明するのも難しいだろう。


 魔族ったって、皆んながみんな概念的存在じゃないんだし、ほとんど普通の動物みたいな魔国民だっているのだ。


 もし何か手違いが起きたら、放射線被害がどんな大惨事になってしまうのか、想像もつかない……


 まあだから、呪いってことにして、禁術指定だの封印だので対応するしかないのである。


 とりあえず、堕天使のマルパッセさんには話しとかないと……!



「も、もう大丈夫なんですよね……?」



 念のためヤーちゃんの様子を見ようとすると、心配性の勇者様がピッタリとついて来た。


 守っていただいておきながら文句は言えないけど、ほとんど生体マントになってるベアトゥス様は、パワーと筋肉の質量がデカ過ぎて軽くウザい。


 なんでずっと私の首に抱きついているんだろう、この筋肉勇者……


 また急な首絞め展開になったらイヤなので、さりげなくベアトゥス様の腕に手を置いて鎖骨の辺りに下げておく。


 ベリル様も一時期、生体マント状態でウザかったけど、命の危機までは感じなかった。


 でも、ベアトゥス様のことだから、精霊女王ベリル様と比べたりなんかしたら、拗ねちゃって後が面倒だ。


 そういえば……ベリル様は一体どこでどうしてるんだろ……?


 どうせ好き勝手にその辺を瞬間移動してるんだろうけど……ん? あれ、待てよ?


 また何か忘れているような……? でも忘れてるから思い出せないのであって、しっかり覚えてたら、そもそも忘れたことにはならないのだ。


 考えるべきことがいっぱいあり過ぎて、何だか頭が働かない……



「ミドちゃんはさあ……俺のこと()()()()()()()?」



 ふいに耳元で聞き覚えのある声がして振り向くと、ベアトゥス様越しに精霊女王ベリル様が当たり前のように立っていた。



「はぇ? ……ベリル様!? 今までどこに居たんです!?」


「んー……ちょっとねぇ……ま、俺のことは良いじゃない。それよりさぁ、王都のほうがちょっとアレなことに……っはは……」



 なんだか……いつもは自信満々で、断言しがちな話し方をするベリル様の歯切れが、異常に悪い。


 微妙に目も合わせて来ないし、いくら苦手なベアトゥス様が居るからといっても、ベリル様ならもっと強引に絡んできそうなものだが。


 私は嫌な予感がして、逃すまいと少し大げさに感動してみせた。


 

「ご無事なら良かったです! 急にお姿が見えなくなっちゃうから、心配したんですよ!?」


「え!? あ? そ、そう……? ミドちゃんが、俺を心配……?」



 心なしか機嫌良さそうに照れるベリル様の手に、そっと触れてみる。


 今日は私にも普通につかめる。コイツ、実体化してやがるな……逃さねえぜ。



「心配するに決まってるじゃないですか! また急に穴だらけになって帰ってくるんじゃないか……なんて思ったら……それに、あんな経験したことのない状況になっちゃって、もうベリル様にお会いできなくなったんじゃないかと思いましたよ! どこもお怪我はされてませんか? 大切なお体なんですから、お大事になさってくださいね?」



 心配したのは本当だ。だから嘘にはならない。


 それに、もう会えないかもしれないなーと、うっすら思っていたのもまた真実である。それに関する感想は別として。


 ベリル様が連れて来た元彼問題は、現時点でほぼ解決したけど、何でこんなことしたのか聞きたい。


 今この状況に繋がってるのも、元をただせば精霊女王ベリル様からはじまってる気がするんだよね……気のせいかも知んないけど。


 できるだけさりげなくベリル様の様子を見ていると、急に元気になった精霊女王様は、いつもの調子を取り戻したらしい。



「いやぁ〜! まさかミドちゃんが、そんなに俺を想ってくれてるなんてさぁ〜! やっぱ俺らって、精神体の繋がりが強いんじゃない? ん?」



 私に向かって囁くように言いながら、ニヤつくベリル様の目は、どう見てもあからさまに勇者様を直視している。


 その視線を真っ向から受け、ベアトゥス様は鼻で笑って軽口を叩く。



「ふん、横恋慕の精霊などというものが居たとは知らなかったな。せいぜい喜劇を演じているがよい」


「なんだと?」



 相変わらずこの二人は、顔を合わせれば喧嘩腰だ。


 勇者様に抱きつかれたままの私は、余裕ぶったベアトゥス様が、ちょっと(りき)みがちになっているのがわかってしまう。


 最近は、そこまで殺気を出さなくなってきたけど、この筋肉勇者、怒りっぽすぎだよ……


 鋭い目つきでこちらを睨み返す精霊女王様は、そんな勇者様のイラつきを察したのか、態度を緩めて満足そうにニヤリとしながら薄目になった。



「そんなことばかり言っていると、ミドちゃんに嫌われるかもしれないだろ? ん? お前の未来の姿が楽しみだなぁ?」


「……何?」



 急に未来の話をされて、ベアトゥス様が動揺した。


 考えてみたら、妖精巫女アイテールちゃんの師匠でもあり、この異世界の神的存在である精霊女王ベリル様だ。未来だって予知できる可能性が高い。


 というか、こないだ貸していただいた魔道具『インペルフェット』を使えば、本当の未来に行って状況を確認してから帰ってくることも可能では?


 やっぱ、なんか知ってんな。この精霊女王……


 私は、すかさず手を挙げる。



「べ、ベリル様は、私たちの未来がわかるのですか!?」


「ふふん〜……ま、わからなくもないかな? ミドちゃんも知りたい? ん?」


「し、知りたいです!!」


「でもなぁ〜……いくらミドちゃんの願いでも、ちょっとなぁ〜」



 くっ……


 やっぱり、自分のための願いは聞いてくれないのか……精霊システム面倒すぎる……



「じゃ、じゃあ……この魔国がこれからどうなってしまうのか、それなら聞いても良いですか? 多くの魔国民たちのために、災害や事故などの不幸を回避するヒントだけでもお教えいただけますと幸いです!」


「あーそれならまあ……いいかな? じゃあさ、今すぐ魔国に戻ったほうがいいと思うよ。まだ間に合うはずだしね」


「え? 何が……間に合う!? はっ! そういえばチュレア様!!」


「そうそう、急いだほうがいいよ。我が弟子が頑張っているから、ミドちゃんも助けてあげて。じゃ!」


「あ、ちょ……!」



 精霊女王ベリル様は、あっという間に私の手をすり抜けて幻のように消えた。


 とりあえず火山は落ち着いたみたいだから、どっちみちここに居る意味はもうない。


 ヤーちゃんの意識はまだ戻らないっぽいけど、取り敢えず王都に連れ帰って様子を見ることになった。





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