護衛道中
ついに千ちゃんがひと皮向けて帰ってきました。
「がっこうたのしかった?」
「はい! つまらなかったです」
何も変わってませんでした。
『学校で教育は受けた』という肩書きが欲しかったと考えられて内容はどうでもよかったんだと思います。
ゲームでの『学校』は校門の前の人に話しかけると入学試験(小1程度)の三択問題を10問出されて8問以上正解すると校門開放になる、それだけで特にメリットは無い(一部除く)。
「みんなね、千を怖がっていて誰も話してくれなかったんだよ!
同じ(年齢の)子と千より上の子が居て会うんだけど寂しかったよ」
「・・・」
少しズキリとした、身長の高い千ちゃんの見た目が悪い方に作用したからだとは分かるけど理解したくない感情だ。
もしかしたら、奥手な子たちだけだったかもしれないが、勝手な想像で一度のお喋りも無い状況(無視)はないだろうと思ってしまうのは私の悪い癖だ。 でも、私が同い年でクラスメイトの立場だったとしても、話しかけられなければ話しかけられないので何にも言えない・・・難しい
「千様がどのような方か皆様に分かっていただければ絶対に惚れ・・好きになると思いますけれど」
「みのりちゃんありがとです♪
小休止の時に行ってユウナちゃんたちの事喋ってたのにダメだったんだよねー」
「え?」
もしかして千ちゃんは初対面の時から自分のことではなく誰かも分からない私たちについて説明もなく喋ったりしてたんじゃ…、それが急に大人に見える人から喋られたら怖い。 何も言えないクラスメイトの姿が目に浮かんだ
「勉強はどんなことを学んだの?」
あからさまだけど話題を変えよう。 この世界の勉強に興味はあるから気になるは気になるんだよ
「字の読み書きの確認からやって、後は勇者様と魔王の戦いの繰り返し?」
おー! 今の世(設定)だけじゃなくて大昔からこの役者が生まれては戦っていたんだ、この辺は作中のどこにも出てこなかったから自分でも調べてみたいかも。 学校入れないかなぁ!
つまらなかったと言いつつも学校自体はそれなりに楽しめたようでゆっくり話をきいてた。
こちらも魔王様との話をすると「遊びたかった」と自分がいない時に来たことに膨れてて和んだよ。 ヴェルハイト様については語られなかった…、口止めされてるんだね!!。
・・・。
「無理を言ってしまい申し訳ありません。 引き受けて下さりありがとうございます」
「いえ、行くところでしたから」
四季の町の残りは後に楽しむこととして先へ進もうと入口から出ようとしたら、急に後ろから声を掛けられ振り向いてそこにいたのは、はじまりの村で子を授かった時にいた神官様だったのだ。
四季の町の〝秋〟の地で儀式を終えて『果ての村』へ行くつもりだったが『モンスター対策剤』が尽きてしまい困っていたらしい。そして、そこに見覚えのある私たちがいて町を出ることからダメ元でお声がかかった。
アイテムを渡してもよかったがなんとなく〝イベント〟っぽくて同行の護衛を許可したのだった。
因みにゲームでは『果ての町』なんて存在してないし、神官様は帰るところと言ったから普通はカナカナの町だけど『教会』も見当たらなかったことからこの世界では違うと分かった。
海ルート以外の存在もあると分かったからいずれ探してみるつもり。
「いくね♪」
道中は千ちゃん無双だ! 神官様が唖然としてるけど、現れた瞬間に私とみのりさんでバフ・デバフをかけて千ちゃんが新武器で切り込んでいってる。マルシカクちゃんは私の胸の中♡
敵も空気を読んでいるのか単体でしか来ないから反撃も無く楽勝、久しぶりで楽しそうな千ちゃんが生き生きしてて場が明るい
「…皆様はいつもこうなのですか?」
恐る恐るきいてきた神官様には、普段は支援役の私以外は強いと答えたら驚いた顔でマルシカクちゃんを見て微笑まれていた、羨ましい!
・・・。
村までの予定日数は15日ほどと考えていたらしい。
「エリアヒール! キュア!」
「ありがとうございます、疲れもとれて、気分もスッキリとした気分になりますね」
「おねーちゃんだからね♪」
「ふふ、そうですね。 相変わらず仲が良好な御様子で、疑ってしまったあの時のわたくしは何を見たのでしょうね」
スリスリとしているマルシカクちゃんを見て母親のような慈愛の微笑みを向けられちょっと恥ずかしい
「はふぅ~いいですねぇ」「はい、千もああいう風になりたいです」
~~~~~
四季の町を出て二日が経った。 神官様は今日も元気だ!
それも当然で、歩き続ける疲労はいつでも回復してくれる。 それにより、モンスター対策剤の必要数も減少して余裕が出たというのに「経験値になるから使わなくていいですよ」と言ってくれたので甘えさせていただいて金銭予算的心配もしないでよく精神的な疲労も少ない。
移動中の食事は保存食でなく普通・・・いや、時に見たことが無いような美味しい食事を提供してくれる、それも三食である。 普段一日一食なので贅沢過ぎるかもしれない。
この移動で一番感謝したことが夜。
当然就寝は必要な事なので行う。 そこで、わたくしみたいに一人で行動する者にとっての脅威はモンスターの存在である。 モンスター対策剤を寝る前に使って布にくるまって眠る。
気を付けなければいけないのはモンスター対策剤の効果が切れる前に目覚めないと死ぬということで、外では三時間くらいで目が覚めるのが習慣になってたり…。 疲労は残り、日付が経つ度に身体が重くなるが速度だけは緩まないようにしなくてはならない、辛い。 ・・・しかし!
「おやすみセット使っていいですよ」
今度こそ使用の時とモンスター対策剤を用意した時に言われて、その必要無く見張り番は任せろ、と暗に言われたのだと首をかしげる。
「あの、夜の番くらいは受けますよ。
もちろん、皆様に手はお出し致しませんからご安心下さいませ」
そう言うとユウナ様は少し困った顔をなされた
「あー…大丈夫なんですよ」
「あのね、ひつよーないの! おねーちゃんのばんだから!」
意味は分からないがお二方の言い方だと見張り番もしないような感じであって、こちらが受け入れた方が都合が良いのだと感じた。
「わかりました、では、御言葉に甘えさせていただこうと思います。 ありがとうございます」
帰ってからの報告・業務と考えながら寝ようとして戴いたおやすみセットに入ると、すぐに意識が遠のいた。
翌朝には普段よりも調子が良いくらいの絶好調で悩ましい軽微な身体の不調も無く外に生活していると思えないような最高の気分だった。
「おはよう御座います」
「おはよ!」「おはやいですね、おはよう御じゃい…ます!」
千様とみのり様早い目覚めのようで。 千様が軽く運動もしてたような雰囲気なのには健康的だと思いました。
~~~~~
「クハハハハハ! 遊びに来てやったぞ!」「フハハハハ! 先ずは楽しもうではないか!」
それは突如として遊びに来てしまった…、神官様が居るこの時には来て欲しくなかった、下手したら魔王との繋がりで捕まってしまうかもしれない。
神官様は明らかに今までと格が違う雰囲気を感じ取ってか強張った表情で一歩引いている。
「魔王ちゃんとバラットちゃんだぁ! 久しぶり!」
そんな空気なんて関係なく、久しぶりに友達に会えた千ちゃんはすぐ近くまで駆け寄り魔王様に抱き付いた
「なっ!? ・・抱き付くでない、ぞ」
「ごめんね、魔王ちゃん許して?」
「し、仕方ない許してやるのじゃ!」
「やったぁ!」
一旦離したがまたすぐに抱き付く、魔王様も始めから満更ではなさそうに照れを隠しているから問題無い。
「我にはないのか?」
「うーん、千はねヴェルちゃんの妻さんになったから男の人にやっていいかわからなくて」
おー、千ちゃんがちゃんとしてる、個人的にはよくても対外的にはよくないもんね。 バラットはやって欲しいのか、下心的では無いだろうけど
「フム? 問題あるのか?」
「・・・無い、ね? はい、バラットちゃん♪」
「千様!?」
みのりさんの叫びに私の心の叫びも重なった、〝好き〟でやるわけでないなら親愛のハグと認識されてしまった
「あ、あの、ユウナ様、こちらの方々はお知り合い様でしょうか?」
「あ、はい、友達の人達です」
説明面倒くさい、どうしよう…
なんて思ってたらバラットが私が抱き抱えるマルシカクちゃんに勝負を挑んでくる。 私を見て確認に首を横に振る。
「今、護衛中で果ての村へ行かないといけないのでその後にして下さい」
「ぬ? 分かった、では任せたぞ」
・・・ん?
『おねーちゃん、ごはんだよ』
『ああ、ありがと』
耳打ちで教えてくれたマルシカクちゃんにキスをして、神官様に付き合ってもらうために説明しなくちゃ
食事会が終わるとバラットは戦いの約束を念押しして帰っていったが魔王様はついていくと一緒になる。
「・・・存外恥ずかしいのじゃな」
「~~♪♪♪」
千ちゃんが魔王様を抱っこして密着しながら歩く。 すごくご機嫌でたまに頬ずりしたり背中をポンポンとしたり子供と戯れているようでこれはかわいい!
モンスターは魔王様が追っ払ってやると全く姿を見ないので何かしているのだろう。
2人の姿が普段のユウナとマルシカクの姿だとわかっているみのりは終始ニヤけるのが止まらず幸せそうに眺めていて・・
「はぅ!?」
・・躓き転ぶのはいつも通りだった
・・・。
・・ガラガラガラガラッ
高い岩が両端に聳えた挟まった道の途中、突然目の前でのがけ崩れで道が塞がれてしまった。
ゲームでもあったイベント!
行く道を失い岩をチェックしてから引き返そうと数歩進むと「バァァン」と岩が弾けて角の無いトリケラトプスのような中ボスモンスターが現れたりした。
かなり固くATK・DFE・MGRが非常に高くすごく強い、その代わりSPDが低い。
装備を整えてないと絶対倒せない全体トップ3くらいの厄介な敵であった。
私とマルシカクちゃん以外がオロオロとどうしようかなんて話してる中、呑気にこっちでは弱点無しの最強モンスターじゃんなんて考えてたら魔王様が岩の前に立つ
「やれやれ…貴様ら以外のおる前で使うつもりはなかったのじゃがな、仕方なし」
片手を前に岩へ手のひらを向けると光って直径10cmくらいの黒い光線が破壊しながら発動していた。 さすがにこれにはみんな驚く。
「ククク、これで通れるぞ」
「す、すごい、カッコイイ!」
「そうじゃろ! 存分に褒め讃えよ」
開いた道の前で抱き合う2人は置いておき、心配しながら神官様を見ると何やら感動したように魔王様へと祈っていた。 聖職者が(設定上)邪の化身に祈っているなんてね、怪しまれないでよかっ・・・
「えっ!? あ」
急に周囲がポーズ状態になって久しぶりのポーズに軽く混乱してしまったがすぐに落ち着いた。 手をグッパしてみようとしたらマルシカクちゃんも動く
「おねーちゃん!」
「うん!」
みのりさんの方を見るが動かない、何故? 千ちゃんも動かないがそれはなんとなく分かる。
「私とマルシカクちゃんだけみたいだね」
「うん」
マルシカクちゃんと並んで待っていると目の前に表れたスクリーン映像
[姉ちゃんと、えと・・マルシカク・・ちゃん?]
「ゆうやだ、こんにちは」「ゆうやおにいちゃん、こんにちは」
2人並んでペコリとお辞儀すると、気が抜けたような表情をした
[・・こんにちは、夜だけどな]
あ、時間帯違うんだ、今までは同じ時間っぽかったけど
『(シャーシャー)時間に制限はありません、この通信はこれで最後になります』
「!?」「!!」
わざと出したようなスレた音が鳴ると目の前に表示されたのは元の世界と会話出来るのはこの通信が最後だと告げる表示、これで正真正銘、私が一方通行の道を〝帰る〟以外は会う方法が無くなるということだ。
ゆうやにも見えたのか悲痛な表情を見せた。
「あー、いつかくると思ってたけどね」
何だって!みたいに慌てているゆうやを見て私はすごく落ち着いている、こちらに来る時にした覚悟だけど一度出来てしまうとまたとなってしまうから弱まっていく。
「あはは、これが最後だね、ゆうや」
[姉ちゃん戻って来ないのか!? 方法はわかってんだろ!]
少し混乱しているゆうやが帰ってきて欲しい一心から口にしてしまう。
そんな言葉を受けて少し寂しくなったがキュッとマルシカクちゃんの手を握って前に出した
「私は大好きなこの手は離さないと決めたからね!」
「えへへ♪」
マルシカクちゃんも色んな立場の私の状況を理解していながら嬉しそうにしてくれる。 そんな私を見て気まずそうに[ちょっと待ってろ!]と立ち上がる。
「コントローラー離して通信切れないかな…」
ちょっと心配だったがさすが空気を読むことに定評のあるこのゲームで大丈夫だった。
ドタバタと弟が連れてきたのはパジャマ姿のお父さんで画面の前に2人で並んで座る
[優那、マルシカクさん、こんばんは
幸せそうだね♪]
多分、最後なんだって!みたいに呼びに行ったであろうがいつも通りのお父さんに安心する
「うん、だーい好きなマルシカクちゃん、それに前に話したみのりさんとか他にも友達がいっぱいいるから幸せだよ♪」
[ふふ、本当に良かったね
マルシカクさんも幸せかな?]
「うん♪ おねーちゃんだいすきだから!」
手を引っ張られるから抱っこするとチュッと頬への柔らかい感触に顔がふにゃりと緩んでしまう
[ふふふ♪これからも優那をよろしくね]
「うん♪」
ゆうやがちょっと悲しげに顔を背けた気がするが見なかったことにして受け入れてくれている父には謝罪と感謝の気持ちでいっぱいだ
「ゆうや、お父さん、これまで沢山迷惑ばかりかけてきたけれど本当にありがとうございました!」
育ててくれたこととか色々あった私に気を遣ってくれたこととか一杯いっぱい言いたいことはあるけれど長く話すつもりはもう無いんだ! 目の奥がジンワリ熱いのは仕方ないの
[・・・く、姉ちゃんは笑顔が可愛いからな、泣くな!]
[ぷっ…]
[わ、笑うな!]
[ごめんね、ゆうやが優那のことを愛してるの、家族を大事にしてるのは知ってるから]
うんうん、ゆうやが家族愛に厚いのは誰もが知ること。いつでも気に掛けてくれる。嫌だろうけど私のことを思っては叱ってくれて、時に厳しく叱られて、たまに呆れられながら叱られ、無駄遣いして叱られ・・あれあれ?愛がいっぱいだ…
そんな弟が私を褒めてくれるなんて珍しいから嬉しい♪ でも、お別れって実感しちゃうよ、あ、ちょっと雫が垂れちゃっ…
「(ぺろ♪)」
「ひゃ、ま」
「えへへ♪ おねーちゃん♪」
驚き恥ずかしだけど、どんな時でも変わらないマルシカクちゃんは最高です! もっと・・なんでもありません、今やることではないですね。
[お父さんを支えてくれてありがとう〝優那〟、幸せにね]
[〝優那〟! そのマルシカクとずっといろな!それはお前を・・ ハッ!? 僧侶か!]
「え?、うん、ありがと。って何が?私?今僧侶だけど?」
[姉ちゃん僧侶なのか!? ジョブまで与えられるのか? 行ってから得たのか?]
〝終わり〟の雰囲気だったのにゆうやの思い出しの一言でゴタゴタしてしまったがこれで終了である。
・。
・・。
・・・。
・・・あれ? 強制ポーズが解除されない? ならいいってことだよね
「・・・マルシカクちゃん」
「うん?」
「今はこのまま一緒に寝てくれる?」
「うん♪」
「抱かせてくれる?」
「いつでもいいよ♪」
「ふふ♪ ありがと、大好きだよ♡」
「マルシカクもだいすき♡」
私が選んだ選択肢に後悔は無いんだ、お父さん、ゆうや、ありがとう・・・お母さん、無茶しても私とゆうやを産んでくれてありがとね。
・・・。
十分に充電出来て目覚めて軽く支度すると日常へと戻る、変な感覚だけど切り替え
レスホントプスに会えなかったのはちょっぴりと残念だけど、あと少しの(はずの)道を進むのでした。




