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【連載版】結婚すれば君を一途に愛すと誓うから、今だけは許してくれ?赦せるわけないじゃないですか。  作者: 織子


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Episode8ーベルナントとの遭遇


店から出ると、日が傾いていた。レンガ造りの街並みを二つの夕日が照らしている。


「これ以上遅くなりますと、閣下が心配なさいます。邸宅へ戻りましょう」

「え?もう?……っ」

普段捏ねない駄々が口から出てしまい、思わず口を手で覆う。

(こんな駄々っ子みたいな事をわたしが言うなんて……)


「また来たら良いのですよ」

微笑むルーカスに、もう少し我儘を言ってみる。

「そうね……。また付き合ってくれるのかしら?」

「もちろんです」

当たり前のように頷くルーカスを見て、顔が緩む。――と、その時ルーカスがヴィオレッタを引っ張った。


「お嬢様!」

「きゃ」


馬車が慌ただしく駆け抜けていく。馬車は大分端に寄っていた。ヴィオレッタに当たっていたかもしれない。心臓が早鐘のように鳴る。


「大丈夫ですか?」

「え、ええ」


馬車が進んで来た街道の先には公爵邸がある。一瞬だったが、ベルナントの、アクシオス伯爵家の家紋が見えた。


「今日、もしかしてうちにアクシオス伯爵が来たの?」

ルーカスが言いにくそうに口を開いた。

「ええ、婚約破棄に必要な書類にサインをさせる為に……ですが未だ往生際の悪いことを言っているそうなので、お嬢様は同席されないほうがいいかと……」


――なるほど。それで父もしぶしぶ送り出してくれたのだ。



「――ヴィオレッタ!」


聞きなれた耳障りのある声が街道に響いた。ルーカスがサッとヴィオレッタの前に立つ。

声の方向を向くと、先ほどの馬車が停まっており、ベルナントが大股で近づいて来る。その後ろを慌ててアクシオス伯爵が追って来ていた。


「ヴィオレッタ!どういうことだ!邸宅にいないと思えば、こんな時に他の男と密会しているとは!」


(どうして密会になるのよ?)

誰も密かに会ってなどいない。街を堂々と歩いていたではないか。そもそも、婚約関係がなくなったベルナントに怒鳴られる筋合いなどない。


ヴィオレッタが言い返そうと前に出ると、ルーカスが手で止めた。


「お嬢様。もうあの方の視界に入ることも、視界に入れることもしなくて良いですよ」

「え、え?」

「お嬢様の視界に入れる価値などない方ですから」

ルーカスのあまりの言いように、思わず呆然とする。


「な?なんだと?聞こえてるぞ!……しかしだ!見てください父上!これで僕だけの責ではないと言うことが分かったでしょう?この婚約破棄は、ヴィオレッタの不貞も原因にある」

「なに?ヴィオレッタ嬢も不貞を?」

息を切らしてベルナントを追って来た伯爵の目が輝く。


(な、どういう理屈なのよ……)

ルーカスの後ろ姿しか見えないので、どんな表情で言っているか分からないが、ルーカスの背中から怒気を感じることを思えば、ものすごく腹の立つ顔で言っているのだろう。たしかに見なくて良かった。ルーカスが無言のままなので、口だけは挟む。


「どうしてそうなるのよ?彼はうちの……クロイツ公爵家の執事よ。貴方も先日会っているでしょう」


「な、なに?執事……?」

動揺する声が聞こえる。

(まあ無理もないわね……うちの執事のカッコよさと言ったら……)


ルーカスの後ろからひょいと顔を出した。ルーカスは苦い顔をしたが、ヴィオレッタは婚約者ではなくなった状態で、改めてベルナントとルーカスを交互に見たいと思った。


(比べるまでもないわね……)

うちの執事の圧勝である。ヴィオレッタは鼻先で笑ったように見えるよう、ベルナントを見てニヤリと口角を上げた。


「な?なんだ今の表情は!おい!ヴィオレッタ……!」

思った通りベルナントは逆上し、怒りの表情でヴィオレッタに向かってくる。


(ここで手でも出そうものなら、王都にもいられなくしてやれるわ)

ヴィオレッタは少し怯んだが前に出た。ルーカスに先に手を上げられてはたまらない。しかしベルナントはすぐに立ち止まり、振り上げていた手をぶるぶると震わせた。


「――なんだ?その手は」

ヴィオレッタの背後から地を這うような声が聞こえた。振り返ると、恐ろしい形相でルーカスがベルナントを睨んでいる。


「まさか、お嬢様を殴ろうと言う訳じゃないだろう?やめたほうがいい。それ以上近づくと、腕をとばしてしまう」


いつの間にかルーカスの手にナイフが握られていた。ヴィオレッタはぎょっと目を見張った。


「ルーカス?どこにそんな危ないもの持っていたの?」


伯爵子息に怪我をさせては、ルーカスが罰せられるかもしれない。ヴィオレッタが慌てて手を伸ばすと、ルーカスはその手を避けてナイフが握られた手を背へ隠した。


「ちょっとそれ貸しなさい!」

ヴィオレッタの小言を無視して、ルーカスは短く息を吐いた。


「アクシオス令息。ここは身分制度がなくなるアカデミーではありません。公爵令嬢に気安く声をかけるべきではありませんね。お嬢様の婚約者ではなくなったのですから、態度を改めていただきたい。――いえ。もう話しかけないようにしてください」

吐き捨てるように言うと、ルーカスは視線をアクシオス伯爵へ移した。


「それと、伯爵。たしか今日は伯爵だけの訪問予定だったはずでは?令息まで来ることは聞いていません。そもそも、令息は謹慎中でしたよね?守らねば期間が長引きだけではなく、罰則が増えますよ?今日の件も閣下にご報告させていただきます。息子さんを自由にさせ過ぎると、オルド家同様、アクシオスも王都から去ることになるかもしれません。肝に銘じてください」


立ち尽くすベルナントと伯爵に背を向け、ルーカスに手を引かれながら公爵家の馬車へ向かった。



読んでいただきありがとうございます。


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