Episode4ー《番外編》レティの行く末
――以降、ベルナントとレティ・オルド伯爵令嬢を対で見かけることはなくなった。
レティ嬢が王都からいなくなったからだ。
なんでも、年の差のある隣国の伯爵との縁談はなくなったらしい。
隣国の伯爵とレティ嬢の婚姻は、オルド伯爵家の困窮を憂いた王家からの提案だったらしい。オルド伯爵領は王国の最南部に位置しており、進む困窮は王家でも悩みの種だったようだ。しかし今回の一件が伯爵の耳に入り、婚約は白紙になった。『公爵令嬢の婚約破棄の原因とは、縁を結びたくはない』ということだ。王家の面目も潰すことになってしまうと、王都に留まることは出来ない。オルド伯爵家は最南の領地へ、一家で引っ越すことになった。
レティ嬢に最後に会ったのは、アカデミーだ。休学届を出しに来たらしい彼女は、私の学科まで会いに来た。
「ヴィオレッタ嬢。ベルナントとの婚約が破棄になったそうですね」
破棄の原因になった認識はないのだろうか?笑顔で彼女はそう言った。
「ええ」
私の友人が気を遣って先生を呼びに行った。今日レティ嬢がアカデミーに来ることは学長から聞いていたが、私と会わないよう配慮すると聞いていた。
(監視を抜け出してきたのかしら)
「愛がなかったので、仕方ないですよね……私も、例の歳の差のある伯爵との婚約はなくなったんです」
「そうみたいね」
右手を頬に添え、小首を傾げて言うレティを冷ややかに見つつ、返事を返す。
「アカデミーは少し休学しますけど、戻って来たらベルナントと婚約するつもりです」
「そう」
(“少し”か。彼女は少しのつもりなのね)
そうでなければ、レティの性格上ここまで落ち着いていられないかもしれない。少しどころか、レティがアカデミーへ戻ることはもうないだろう。アカデミーだけではなく、王都にも戻って来ることも難しい状況だと言うことを、家族はレティに知らせてはいないのだ。
アカデミーでは主にベルナントとしかレティは交流していなかった。婚約者のいる異性と必要以上に親しくする者と友人になりたくはない。故に彼女に今の状況を教えてくれる友人もアカデミーにはいなかった。
アクシオス伯爵も、レティをベルナントの妻に迎えるつもりはなさそうだった。
(ベルナント本人も、妹のようと言っていたし……まああの言葉は嘘か本当か分からないけれど)
ヴィオレッタの反応が薄いからか、視界に入ろうとずぃっとレティが前に出る。ヴィオレッタは思わず一歩下がった。するとレティは満足そうに口を綻ばせた。
「私のためじゃないと思いますけど、ベルナントとの婚約を破棄してくださってありがとうございました。伯爵との婚約もなくなり、愛する人と結婚出来ますもの」
レティの誇るような笑みを見て、目を瞬いてしまった。
「……感謝される謂れはないわ。どうぞ、お幸せに」
ヴィオレッタの言葉を、負け惜しみと取ったのだろう。レティは微笑んだ。
(本当よ。感謝される覚えはない)
王家に見放され、期待していた隣国の伯爵家からの支援もなくなり、爵位の維持は難しくなるだろう。爵位を返納したとて、今のような暮らしは出来ないが、贅沢をしなければそれなりに暮らしていけるはずだ。しかしそれも容易なことではないだろう。レティの未来には明らかな困難が待っている。
その後、先生が来てレティを連れて行った。
(おそらく二度と会うことはないでしょう。さようなら)
ヴィオレッタは心中で別れの挨拶をした。
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明日の18時頃、5話目投稿予定です。
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