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この世界に残るもの  作者: 深空 律
第二部 残された世界
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66/72

第66話 一緒に戦う

中継地点へ着いた大和は最初に人数を数えた。


「……多くない?」


アビナが隣で言う。


「いっぱいニャ」


「それは見れば分かる」


いつもの中継地点とは違う。ラナの者、カダの者、それ以外にも大和がまだ顔を覚えていない者たちが何人もいる。武器を持っている者が多かった。槍、弓、縄、短い刃物。見たことのない幅の広い木製の盾まである。レティが後ろから来た。


「今日、集まるって聞いてなかった?」


「聞いてたけど」


大和はもう一度人数を見る。


「各村から二、三人くらいだと思ってた」


「だいたいそうでしょ」


「六つあると多いな」


「この前知ったばっかりだからね」


「それ、しばらく言われそうだな」


少し離れた場所では、シェルドが何人かと話している。ルシアンはすでに記録板を持っていた。アキトは知らない大柄な男と並んで立っている。大和はそちらを見る。


「……でかいな」


アキトも大きい。だが、その男はさらに横幅がある。身体だけなら、ドランにも近い。


「アキトの仲間ニャ?」


「大きさで仲間を決めるなよ」


アビナは大男を見る。


「二人並べると強そうニャ」


「それは分かる」


大和が近づこうとすると、別の方向から声がした。


「大和」


大和が振り返る。


「お」


ロウだった。その隣に、見覚えのある男がいる。


「バル?」


大柄な犬型の男が頷いた。


「久しぶりだな」


「久しぶり」


以前、カダとの道を調べた時に一緒に歩いた男だ。狩りと見回りをしている。大和は少し懐かしくなった。バルが大和を上から下まで見る。


「また速くなったか?」


大和が止まる。


「まだそこ基準にするんですか」


バルが少し笑った。


「前に聞いたからな」


「俺より遅いってやつ?」


「ああ」


「普通それ覚えてます?」


ロウが横から言う。


「大和も覚えてるじゃないか」


「それはそうだけど」


アビナがバルを見る。


「大和より遅いニャ?」


「たぶんな」


「ほとんど全員そうだよ」


大和が言った。


     ◇


少しして、全員が中継地点の前へ集まった。シェルドが地面に置いた板を見る。六つの村を描いた。あの地図だった。アビナの鹿も残っている。大和が指した。


「まだ消してないの?」


「セラの印ニャ」


「もう正式採用なの?」


「分かりやすい」


ロウが言った。


「嘘だろ」


「セラだってすぐ分かる」


「場所じゃなくて鹿で覚えてるだけじゃん」


シェルドが二人を見る。


「今は地図の話ではない」


「はい」


大和は黙った。その時、セラから来ていた男と目が合った。前にセラ村で話した男だ。怪物の拘束方法を聞き、自分たちの罠へ置き換えて、実際に怪物を殺した者の一人でもある。大和は男を見て、少し考える。


「そういえば」


男が見る。


「何だ?」


「名前聞いてなかった」


一瞬、周囲が静かになった。アビナが大和を見る。レティも見る。


「何?」


大和が聞く。アビナが言った。


「大和、そういうの多いニャ」


「村の名前の話はもういいって」


「今は人の名前ニャ」


「余計悪くなってるな」


男が笑った。


「ラグだ」


「ラグ」


「今度は覚えろ」


「覚えます」


「たぶんニャ」


「アビナ」


ラグがまた笑った。


     ◇


シェルドが集まった者を順に紹介した。ラナからはシェルド、アキト、ほかに二人。カダからはロウとバル。セラからはラグと、もう一人。そして、トダ。先ほどアキトの横にいた大男が前へ出た。


「ダガン」


短く名乗る。太い腕に、厚い胸板。腰には武器らしいものがない。代わりに、大きな盾と、先端を補強した長い棒を持っている。大和が聞いた。


「それで戦うんですか?」


ダガンが棒を見る。


「ああ」


「槍じゃなくて?」


「怪物に刺しても死なない」


「それはそうだけど」


ダガンは盾を軽く叩いた。


「近づけなければいい」


大和は少し納得した。


「なるほど」


トダでは石を切り、重いものを運び、古い道や壁を直す者が多いという。ダガン自身も普段は石を扱っているらしい。


「だから大きいニャ?」


アビナが聞く。ダガンが自分の身体を見る。


「知らん」


「アキトと同じニャ」


アキトが言う。


「俺は石を運ばない」


「木は運ぶニャ」


「運ぶ」


「同じニャ」


「違うだろ」


大和が少し笑った。次はベル村。前に干し魚を持ってきた女とは別の者だった。大和より少し背が低い、細身の猫型の女だ。長い槍を一本持ち、背には短い槍を何本か背負っている。


「シア」


女が名乗った。大和は背中を見る。


「それ、投げるやつ?」


シアが一本抜いた。


「そう」


「怪物に?」


「怪物にも」


「届く?」


シアが大和を見る。


「何が?」


「遠くから投げて」


「届かなければ近づく」


「そうじゃなくて」


アビナが横から言う。


「大和、見たいニャ」


「俺も見たいけど」


シアは少し離れた木を見る。


「あれくらい?」


かなり遠い。大和が目を細める。木の幹には、誰かが以前付けた小さな傷がある。


「まさか、あそこ?」


シアは答えず、短槍を持ち直した。一歩踏み出して身体を捻り、投げる。槍が飛び、乾いた音を立てた。大和が木を見ると、傷のすぐ横に刺さっている。


「……うま」


アビナが走って見に行こうとする。


「待って!」


大和が止める。


「今、槍飛んだところだから!」


「もう飛ばないニャ」


「次があるかもしれないだろ」


シアが言った。


「もう投げない」


「じゃあいいけど」


「大和が一番心配してるニャ」


「普通だよ」


最後、イル村。前へ出たのは細身の犬型の男だった。年齢は大和とそれほど変わらないように見える。武器は短い槍。だが、腰から肩まで、何本もの短い縄をまとめて掛けている。


「ネイド」


大和が縄を見る。


「イルも縄使うんだ」


ネイドが答える。


「使う」


ラグが言った。


「セラのとは違う」


「何が?」


大和が聞く。ネイドは一本外すと、そのまま近くにあった柱へ回した。手が一度、二度と動く。ほとんど止まらないまま、あっという間に固定される。大和が見る。


「早い」


ネイドは結び目を一度引く。今度は、簡単に外れた。


「外すのも早い」


「運ぶ物を固定することが多いから」


イルでは、布、縄、道具、傷んだ装備の補修と、そうした仕事が多いという。大和は六つの村から集まった者たちを見る。


「全然違うな」


ノルアが隣で言った。


「何が?」


「戦い方」


「うん」


同じ亜人、同じような村。少し前まで、大和はそんなふうに見ていた。実際には、暮らしている場所が違えば、作るものも、得意なことも、怪物への対処も違う。シェルドが言った。


「今日は、それを確認するために集めた」


大和が見る。


「怪物の倒し方?」


「その次だ」


     ◇


地図の中央、ラナでもカダでもない村と村の間に、シェルドが指を置く。


「ここで怪物が出たとする」


ロウが地図を見る。


「どこの村が行く?」


「近いところ」


ラグが答えた。


「それでいい」


シェルドが言う。


「だが、近い村が一つとは限らない」


大和も地図を見る。村と村を繋ぐ道、中継地点、古い都市へ続く道。人の移動が増えれば、怪物を見つける場所も一つの村のすぐ近くだけではなくなる。シェルドが続ける。


「ラナとカダから同時に人が来ることもある」


「あるな」


ロウが頷く。


「セラとトダも」


ラグが言う。


「なら一緒にやればいい」


ダガンが答えた。大和も最初はそう思った。だが、シェルドが聞く。


「どうやって?」


ダガンが眉を寄せる。


「どうやってとは?」


「怪物がこちらへ走ってきた」


シェルドが言う。


「ラナなら?」


アキトが答える。


「前を止める」


「セラ」


ラグが答える。


「止めない。横へ流す」


アキトがラグを見る。ラグも見る。大和が言った。


「もう違う」


シェルドは続ける。


「ベル」


シアが答える。


「走っている間に脚へ投げる」


「トダ」


ダガンが答える。


「前に立つ」


「イル」


ネイドが答える。


「脚へ縄を取れる位置まで待つ」


少しの間、誰も話さなくなった。大和が地図を見る。


「全部、間違ってないよな」


「うん」


ルシアンが答える。


「一つずつなら」


大和は顔を上げる。その意味が分かった。アキトは前へ出る。ラグは横へ流したい。ダガンも前を止める。シアは外から槍を投げる。ネイドは縄を取れる位置まで引きつける。全員、自分の村ではそれで戦ってきた。だが、同時にやれば邪魔になる。最悪の場合、味方に当たる。


「一緒に戦ったことないの?」


大和が聞く。ロウが答える。


「ラナとはある」


「俺たちはな」


アキトも言う。


「カダとも少しある」


「六つでは?」


誰も答えない。


「ないんだ」


大和が言った。シェルドが頷く。


「だから今日集めた」


     ◇


「合図は?」


ルシアンが聞いた。


「怪物が動いた時、どう知らせる?」


ラグが指を口へ当て、短く鋭い口笛を一度鳴らした。


「これで寄せる」


大和が聞く。


「寄せる?」


「追う側が動く。罠の方へ持っていく」


シアがラグを見る。


「それ、うちだと投げる合図」


ラグが止まった。


「何?」


シアも指を口に当て、同じような短い口笛を鳴らす。


「一回で投げる」


大和が二人を見る。


「同じじゃん」


「少し違う」


シアが言った。ラグが言う。


「違う」


「俺には同じに聞こえたけど」


アキトも言った。


「俺もだ」


シアがもう一度鳴らす。ラグも鳴らす。大和は聞き比べた。


「……分からん」


アビナが言った。


「二つ目の方が少し高いニャ」


全員がアビナを見る。


「分かるの?」


「分かるニャ」


大和はアビナの耳を見る。


「その耳ずるくない?」


「耳ニャ」


「知ってる」


シェルドが言った。


「アビナだけ分かっても意味がない」


「そうだよね」


一方、ネイドは縄を一度強く張った。


「イルではこれで止まる」


「音じゃないの?」


大和が聞く。


「近い者に伝える」


ダガンは棒で盾を二回、どん、どんと叩いた。


「トダはこれで下がる」


アキトが言った。


「怪物が近くにいたら、音でこっちを向かないか?」


ダガンが答える。


「向かせるために使う時もある」


「下がるのか向かせるのかどっちだよ」


大和が聞く。


「叩き方が違う」


「またそれ?」


ダガンが実際にやる。どん、どん。次は、どんどんどん。大和は黙る。


「分かったか?」


「二回と三回なのは」


「十分だ」


「本当に?」


少しずつ笑いが起きた。だが、シェルドだけは地図を見ていた。


「このままでは駄目だな」


ロウが頷く。


「同じ怪物を囲んだら混乱する」


ラグがシアを見る。


「俺が笛を吹いたら、お前が投げるのか」


「今のままなら」


「やめてくれ」


「そっちが変えればいい」


「そっちだろ」


大和が二人の間を見る。


「もう訓練必要じゃん」


シェルドが大和を見る。


「そのつもりだ」


「決まってたの?」


「今日、問題がなければ必要ないと思っていた」


大和は周囲を見る。


「あるね」


「あるな」


     ◇


昼を過ぎても話は続いた。誰が前へ出るか。誰が後ろから見るか。怪物が走った時、怪物が倒れた時、誰かが怪我をした時、縄を掛ける時、槍を投げる時。一つ決めようとすると、別の村のやり方が出てくる。大和は途中から面白くなっていた。


「これ」


ノルアが隣で聞く。


「何?」


「大和、楽しそう」


「そう?」


「うん」


大和は集まった者たちを見る。アキトとダガンが、どちらが怪物の正面に立つか話している。ロウとラグは、走る怪物をどちらへ誘導するか、地面に線を描いている。シアはネイドに、縄を投げる時、槍を止める合図は何がいいか聞いている。


「知らない人がいっぱい出てきたからかな」


大和が言う。


「人?」


「うん」


「強い人じゃなくて?」


「それもあるけど」


大和は少し考えた。今まで、怪物と戦える者と言われれば、アキト、シェルド、ロウ、そして自分。その辺りを思い浮かべていた。単に、自分が知っている範囲が狭かっただけだ。別の村には、別のやり方で、ずっと怪物と生きてきた者たちがいる。


「俺」


大和が言った。


「この辺のこと、全然知らなかったんだな」


ノルアが少し笑う。


「今知ってる」


「そうだね」


     ◇


夕方前、シェルドが全員を集めた。


「明日」


シェルドは続ける。


「実際に合わせる」


大和が聞く。


「怪物?」


「違う」


「だよね」


「大きな木を組む」


ドランが後ろから言った。いつの間にか話に加わっている。


「脚も付ける」


大和が振り返った。


「作るの?」


「簡単なものだ」


ドランは地面へ四本脚の形を描く。太い木を胴体にし、細い木を脚として付け、縄を引けば誰かが動かせるようにする。大和は少し目を輝かせた。


「怪物みたいに?」


「本物ほど動かない」


「十分だよ」


シェルドが言った。


「まず、同じものを相手に全員で動いてみる」


ラグが聞く。


「倒す?」


「それが目的ではない」


「じゃあ?」


「一緒に動けるかを見る」


シアが頷いた。ネイドもダガンも異論はないようだった。大和が聞く。


「俺は?」


シェルドが見る。


「何が」


「参加するの?」


「する」


「見てる側かと思った」


「なぜ」


「普通の怪物なら俺いらないって最近ずっと言われてるから」


アキトが言った。


「戦わないわけじゃないだろ」


「そうだけど」


シェルドが続ける。


「お前だけに合わせる訓練ではない」


大和は少し止まった。


「うん」


「だが、お前を外す訓練でもない」


大和は少し笑った。


「分かった」


その言い方が妙に嬉しかった。必要だから中心に置かれるわけでもない。必要ないから外されるわけでもない。一緒に戦う者の一人として、入っている。アビナが手を上げた。


「私は?」


シェルドが見る。


「何をする」


「見るニャ」


「好きにしろ」


「参加ニャ」


「見学だ」


「同じニャ」


「違う」


大和が笑った。


「そのやり取り、俺じゃなくてもするんだな」


     ◇


夕方、各村の者たちは明日のために中継地点へ残る者と、一度戻る者に分かれた。食事の準備が始まる。ラナの食べ物、カダの麦、セラの干し肉、ベルの魚、イルから持ってきたもの。トダの者が持ってきた硬い焼き物の器。一つの場所に、色々なものが混ざっている。大和はその中に座っていた。隣にはアキト。向かいにはバル。


少し離れたところには、今日初めて名前を知ったラグ、ダガン、シア、ネイドがいる。大和は干し肉を一つ取った。見覚えがある。


「これ、鹿?」


ラグが顔を上げた。


「鹿」


「やっぱり」


「鹿は覚えてたんだな」


大和の手が止まった。


「何が?」


「俺の名前は今日聞いた」


アキトが大和を見る。


「前に会ってたのか?」


「セラで一日いた」


ラグが答えた。アキトの視線が大和へ戻る。


「一日いて名前聞かなかったのか」


「話はしたよ」


「何を」


「鹿とか」


ラグが頷く。


「鹿は覚えてた」


「それ、しばらく言うつもり?」


「覚えてる間は」


「名前も覚えたって」


向かいでバルが笑った。大和は干し肉を噛む。前にセラで食べたものより、さらに硬い気がした。


「これ、前のより硬くない?」


「硬い」


ラグは迷わず答えた。


「やっぱり?」


「干しすぎだ」


大和が肉を見る。


「セラから持ってきたんだろ?」


「だから分かる」


ラグは自分も一つ取った。指で曲げ、噛む。少し嫌そうな顔をした。


「硬い」


アキトが横から一つ取る。


「食えるぞ」


ラグがアキトを見る。


「食えるかどうかの話じゃない」


「食う物だろ」


「うまい方がいい」


「腹に入れば同じだ」


ラグが少し眉を寄せた。


「違う」


大和が笑う。


「結構こだわるんだな」


「肉なんだから、ちゃんと食った方がいい」


その言葉に、少し離れたところから声がした。


「魚の方がいい」


シアだった。ラグがそちらを見る。


「何が?」


「食べるなら」


シアはベルから持ってきた魚を一つ取った。ラグが干し肉を持ったまま言う。


「肉の方が腹に溜まる」


「魚も溜まる」


「骨が多い」


「肉にも骨はある」


「魚は細かい」


「捌けばいい」


返事が早い。ラグが少し考えた。


「セラじゃ魚はほとんど食わない」


シアが魚を一口食べる。


「じゃあ分からないだけでしょ」


ラグが止まった。大和は思わずシアを見る。返しが強い。


「ベルではそんなに魚食べるの?」


「普通に食べる」


「毎日?」


「獲れれば」


「焼く?」


「焼く。煮る。干す」


シアは手に持った魚を見る。


「これは遠くへ持っていく方」


「やっぱり保存用なんだ」


「村で食べるのはもっと柔らかい」


大和が少し興味を持った。


「それ食べてみたいな」


シアが大和を見る。


「ベルに来ればある」


「行っていいの?」


「駄目な理由ある?」


「ないなら行く」


「なら来ればいい」


大和は少し笑った。最近、どこかで同じようなことを言われた気がする。ラグがまだ納得していない。


「でも肉の方が大きい」


シアが見る。


「大きいと何がいいの?」


「たくさん食える」


「大きい魚もいる」


「鹿より?」


「いる」


今度はラグが少し興味を持った。


「どれくらい」


シアが両手を広げる。ラグがその幅を見る。


「それだけ?」


シアがさらに広げる。


「もっと大きいのもいる」


「本当に?」


「湖に来れば分かる」


ラグが黙った。大和が笑う。


「ラグもベル行くことになってない?」


「魚を見るだけだ」


「食わないの?」


「うまければ食う」


シアが少しだけ笑った。


「肉よりうまいよ」


「それはない」


また始まりそうになった。その時、大和は少し横を見た。ダガンは麦も肉も魚も、全部同じ器に入れて食べていた。しかも、ラグとシアの話を聞いている様子がない。黙々と食べている。大和はしばらく見た。


「ダガン」


ダガンが顔を上げる。


「何だ」


「肉と魚、どっちが好き?」


ダガンは大和を見る。それから、自分の器を見る。


「両方入ってる」


「それは見れば分かる」


「なら何だ」


「どっちがうまい?」


ダガンは少し考えた。本当に考えているらしい。


「腹に入れば同じだろ」


ラグとシアが同時にダガンを見た。


「同じじゃない」


声まで重なった。ダガンが二人を見る。


「面倒だな」


大和が吹き出した。アキトも笑う。


「お前、さっき俺と同じこと言ったぞ」


「そうなのか」


「俺は怒られた」


「何でだ」


「知らん」


ラグが言う。


「食べるものは大事だ」


シアも頷いた。


「毎日のことだから」


ダガンはもう次を口に入れている。


「腹が減らなければいい」


「全然聞いてないな」


大和が言った。ダガンは気にしていなかった。その横で、ロウがカダから持ってきた麦を食べている。大和が見る。


「ロウは?」


「何が?」


「肉と魚」


ロウは少し考える。


「麦」


「選択肢増やすなよ」


「カダならこれだろ」


ロウは麦を指した。ラグが言う。


「肉の方がうまい」


シアも言う。


「魚の方がうまい」


ロウは二人を見る。


「肉も魚もない日はあるだろ」


二人が少し止まる。


「麦はある」


大和も麦を見る。


「強いな、それ」


バルが横から言った。


「獣は逃げる。魚も場所が悪ければ獲れない」


「麦は逃げない?」


「畑からはな」


ラグが言った。


「怪物に踏まれる」


ロウがすぐ返す。


「それは肉も魚も同じだろ」


今度はラグが黙った。大和は少し笑った。同じ食べ物の話なのに、見ているところが全部違う。セラは獲物、ベルは湖、カダは畑。それぞれ、自分たちが毎日やっていることから話している。大和は麦を少し取った。


「ラナは何なんだろう」


アキトが答えた。


「何が」


「これが一番ってやつ」


アキトは考えることもなく、目の前のものを食べた。


「食えるもの」


「ダガン寄りじゃん」


「一緒にするな」


ダガンが顔を上げた。


「何が違う」


「知らんけど違う」


「知らないのか」


「何でお前に詰められるんだよ」


大和がまた笑った。その時、手に持った器が妙に重いことに気づいた。


「これ、重くない?」


ダガンが見る。


「何が」


「器」


「普通だ」


「これが?」


大和は器を持ち上げる。厚い。硬い。食事を入れるためだけに必要とは思えない重量がある。ネイドが横から言った。


「重い」


ダガンがネイドを見る。


「丈夫だ」


ネイドも器を見る。


「運ぶ時に邪魔だ」


「割れない」


「重い」


「割れない」


大和が二人を見る。


「食べ物よりそっちで揉めるんだ」


さっきまで肉と魚に何の興味も見せなかったダガンが、今度はすぐに答える。


「薄い器は割れる」


ネイドが言う。


「厚すぎる」


「落としても割れない」


「落とさなければいい」


「落ちる」


「固定すればいい」


ダガンがネイドを見る。


「縄で?」


「縄で」


「緩まないのか」


「緩ませない」


「切れたら?」


「直す」


ダガンが少し眉を寄せた。


「最初から切れない方がいい」


ネイドも少しだけ表情を変えた。


「全部を重くすればいいわけじゃない」


「丈夫な方がいい」


「運べなければ意味がない」


「運べる」


「ダガンはな」


一瞬、静かになった。大和がダガンを見る。ダガンは大きく、ネイドは細い。確かに、同じ荷物でも話が違いそうだった。アキトが言う。


「さっきまで食い物は腹に入れば同じって言ってたのに」


ダガンが器を指す。


「食べ物と器は違う」


「そこはこだわるんだ」


大和が言った。


「トダの物だからな」


短い返事だった。だが、今までより少しだけ強かった。ネイドも、自分の足元にまとめて置いた縄を見る。


「イルなら、運べるようにする」


ダガンが言う。


「トダなら、壊れないようにする」


二人は少しの間、互いを見る。喧嘩をしているようには見えない。だが、譲る気もなさそうだった。大和は思わず笑う。


「明日、大丈夫かな」


アキトが聞く。


「何が?」


「一緒に戦うの」


アキトはラグとシアを見る。まだ肉と魚について何か話している。今度はネイドとダガンを見る。片方は軽くしろと言い、片方は丈夫にしろと言っている。


「今日の話聞いてたら、最初から無理なの分かってるだろ」


「そうだけど」


少し離れた場所からシェルドが言った。


「だから訓練する」


大和が振り向く。


「聞いてたの?」


「聞こえる」


「シェルドは肉と魚どっち?」


「明日の話をしているんじゃなかったのか」


「これは別」


シェルドは少しだけ考えた。


「どちらでもいい」


ラグとシアが同時にシェルドを見る。シェルドは気にしない。


「食べられるなら問題ない」


ダガンが頷いた。


「そうだろ」


「仲間いたな」


大和が言う。


「何の話だ」


シェルドはそれ以上付き合わなかった。明日、この者たちと一緒に戦う。本物の怪物ではない。まだ練習だ。大和は周囲を見る。今日会ったばかりの者もいる。セラのやり方がいいと言う者、ベルのものがいいと言う者、丈夫であることを譲らない者、運べて直せることを大事にする者。


それぞれ違う場所で暮らし、それぞれ違うものを当たり前だと思っている。昼間は、それが戦い方の違いとして出た。夜になれば、食べ物や器の話でも同じだった。大和は少し楽しみだった。自分がどこまで強いのか、それを確かめたいわけではない。誰が一番強いのか、それを決めたいわけでもない。


こんなに違う者たちが、同じ相手を前にした時、どうなるのか。そして、たぶん最初から上手くはいかない。大和は今日の口笛を思い出した。一方では怪物を動かす合図で、もう一方では槍を投げる合図になる。


「明日、絶対何か起きるな」


大和が呟いた。隣のアキトが聞く。


「何が?」


「いや」


大和は少し笑った。


「怪我しないようにしような」


アキトは普通に頷いた。


「そうだな」


向かいのバルが言った。


「お前が一番気をつけろ」


大和が見る。


「何で?」


アビナが少し離れた場所から答えた。


「壊すからニャ」


大和はため息をついた。六つの村で初めて行う訓練の前日まで、その話が残るとは思っていなかった。


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