第6話 狙われる者
朝、大和は腹の上に何かが乗った感触で目を覚ました。そこまで重くはない。だが、確実に何かいる。目を開けると、金色の猫耳と見慣れた顔が目の前にあった。
「うわっ!」
身体を起こす。
「ニャッ!」
腹の上に乗っていたアビナが床へ転がった。
「何してんだよ!」
「起こしに来たニャ」
「普通に起こせ!」
「起きなかった」
「だからって腹に乗るな!」
アビナは床へ座ったまま首を傾げる。
「起きたニャ」
「結果論だろ」
大和は頭を押さえた。窓の外はすでに明るい。思ったよりよく眠れたらしい。目覚めた時の廃墟とは違う。屋根がある。壁がある。近くに人の気配がある。それだけで身体の緊張が全く違った。
「で」
大和はアビナを見る。
「何?」
「シェルドが呼んでる」
「それ先に言えよ」
「言おうとしたニャ」
「俺の腹に乗ってから?」
「うん」
「順番おかしいだろ」
アビナは気にしていない。大和は立ち上がり、身体を伸ばした。痛みはない。昨日まで怪物と殺し合っていたとは思えないほど、腕も肩も何ともなかった。それどころか、よく寝たせいか昨日より調子がいい気さえする。
「相変わらずだな……」
自分の身体を見る。まだ慣れない。便利だと思う。同時に怖くもある。だが今は、考えても仕方がない。大和は外へ出た。村はすでに動き始めている。畑へ向かう者。水を運ぶ者。薪を割る者。子供まで何かしら手伝っていた。
畑へ向かう二人に、薪を割っていた男が声を掛けた。昨日の食卓で見た顔だった。
「普通なんだよな」
「何がニャ?」
「いや、生活」
アビナが分からないという顔をする。
「生活は生活ニャ」
「そうなんだけど」
返す言葉がなく、大和は笑った。
「まあ、いいか」
広場のような場所には、シェルドとアキト、ルシアンがいた。地面には何本か武器が置かれている。槍、弓、刃物。大和が近づいた。
「おはようございます」
アキトが頷く。
「眠れたか?」
「久しぶりにぐっすり」
「それならよかった」
シェルドは挨拶より先に本題へ入った。
「昨日の場所へ行く」
「怪物の?」
「そうだ」
やはり死体を確認するらしい。大和は頷いた。
「分かりました」
「その前に、お前の力を少し確認したい」
大和の顔が少し引きつる。
「やっぱり?」
「怪物を一人で倒したと言われて、『はい、そうですか』で済ませる方がおかしい」
「まあ、それはそうですね」
大和自身もそう思う。シェルドは地面から槍を一本取り、大和へ渡した。
「投げてみろ」
「これで?」
シェルドが広場の端にある木製の的を指す。距離はかなりある。
「投げたことないですけど」
「構わない」
大和は槍を持った。どう持てばいいのか分からない。適当に肩の上へ構える。
「こんな感じ?」
ルシアンが言う。
「持つ位置が後ろすぎる」
「こう?」
「もう少し前」
直す。
「それでいい」
大和は的を見る。軽く投げよう。本気を出す必要はない。そう思って腕を振った。槍が消えたように見えた。直後、どん、と大きな音がする。大和は目を見開いた。槍は的を貫通し、そのまま後ろの地面へ深く刺さっていた。
沈黙。大和は自分の手を見る。
「え?」
シェルドもしばらく黙っている。アキトが的を見た。
「軽く投げたように見えたが」
「軽く投げました」
「……そうか」
アビナが刺さった槍の方へ走っていく。
「すごいニャ!」
「俺もびっくりしてる」
怪物との戦闘中は必死だった。自分がどれほどの力を出していたのか考える余裕などない。こうして普通の場所で使ってみると、改めて異常さが分かる。
「これ、力加減覚えないと危ないな」
大和が呟く。ルシアンが聞いた。
「昨日まで自分の力を知らなかった?」
「知らない」
「本当に?」
「本当に」
ルシアンはしばらく大和の顔を見た。
「変形は?」
シェルドが聞く。大和の表情が変わる。
「それは出せません」
「昨日は出た」
「怪物に殺されそうになった時だけ」
「試したか?」
「何度も」
シェルドが少し考える。
「危険が必要なのか」
「多分」
「試す?」
アビナが聞いた。
「試さない」
大和が即答する。
「何でニャ?」
「怪物に殺されかける状況をどうやって試すんだよ」
「シェルドに斬ってもらう」
「嫌だよ!」
「治るニャ」
「そういう問題じゃない!」
アビナは少し残念そうに耳を横へ倒した。大和は思う。こいつ、好奇心のためなら割と怖いことを言う。
「今日は怪物の死体を確認するだけだ」
アキトが助け船を出した。
「変形まで確認する必要はないだろう」
「そうしてください」
大和は心から同意した。その時だった。村の端から、かん、かん、かん、と金属を叩く大きな音が響いた。一度ではない。何度も続く。広場にいた者たちの表情が一瞬で変わった。アビナの耳が立つ。
アキトが森の方を見る。シェルドはすでに動いていた。
「どっちだ!」
遠くから声が返る。
「北!」
別の男が叫ぶ。
「一体!」
村の空気が変わった。さっきまで畑へ向かっていた者、水を運んでいた者が一斉に動く。子供は家へ入る。武器を取る者がいる。柵の内側へ集まる者がいる。大和にも状況が分かった。
「怪物?」
アキトが頷く。
「そうだ」
大和の身体が強張る。昨日、自分を追い回した怪物。怖さが戻ってくる。だが今は、一人ではない。
「来るんですか?」
「村まで入るとは限らない。でも備える」
シェルドは短く答え、そのまま周囲へ指示を飛ばした。
「南側はそのまま。北へ寄せすぎるな。弓は柵の内側。子供を家から出すな」
大和が北を向く間にも、シェルドは別の者へ指示を出していた。アキトは槍を持った。
「俺は前へ出る」
「俺も」
大和が言う。アキトがこちらを見る。
「必要ない」
「怪物を倒せるかもしれない」
「かもしれない、だろ」
「昨日は倒した」
アキトは少し黙った。
「だからこそ、まだ自分の力も分からない状態で無理に出る必要はない」
その言葉が、大和には妙に引っかかった。昨日会ったばかりの自分を、アキトは後ろへ下げようとしている。
「でも――」
言い返そうとした時、叫び声が飛んだ。
「来た!」
木々の間から黒い身体が飛び出した。四本の脚。背中から伸びる細長い骨の突起。昨日の怪物とは違う。少し小さい。それでも人間より遥かに大きい。大和の身体が反射的に固まった。怖い。やはり怖い。
アキトたちが前へ出る。怪物は村を見た。いや、村全体ではない。頭部にあるいくつもの目が動く。アキトを通り過ぎる。シェルドも通り過ぎる。大和のところで一瞬止まった。怪物の身体が僅かに震える。
大和の背中へ嫌な感覚が走った。確実に、こちらを見た。だが怪物は大和へ来なかった。目がさらに動く。その先にいたのはレティだった。
「え?」
少し離れた場所で子供を家へ入れていた。怪物のすべての目がレティを向く。次の瞬間、走った。
「レティ!」
アキトが叫ぶ。レティも気づいて逃げる。怪物の進行方向は明らかにレティだ。他にも何人もいるのに、全て無視している。一人の男が横から槍を突き出し、怪物の肩へ刺した。止まらない。別の者が脚へ斬りつける。
怪物が身体を振り、男を吹き飛ばした。
「くそっ!」
アキトが前へ出て、槍を深く突き込む。怪物の脚が止まった。シェルドが叫ぶ。
「レティ、下がれ!」
「分かってる!」
レティが走る。だが怪物は、攻撃しているアキトへ反撃しなかった。槍が刺さっているのに、レティの方へ身体を向ける。大和は違和感を覚えた。おかしい。普通なら自分を攻撃している相手を見る。
なのに見ていない。
「何で……」
怪物は身体を振ってアキトの槍を外した。大きく開いた傷口で肉が盛り上がり、すぐに閉じ始める。大和の目が変わった。昨日と同じだ。やはり治る。アキトがもう一度攻撃する。別の男が背中へ斧を入れた。
怪物が倒れる。数人で一気に攻撃する。脚、首、胴へ次々と傷がつく。一瞬、大和は思った。倒せる。だが、シェルドが叫んだ。
「下がれ!」
怪物が起き上がった。深かったはずの傷まで、もう塞がり始めている。大和は呟いた。
「やっぱり……」
アキトたちはすでに間合いを取り直していた。治ることを見越して戦っているのか。大和は、シェルドが追い返すと言っていた意味をようやく理解した。怪物がまたレティを見る。
「何なのよ!」
レティが叫ぶ。
「何で私!」
大和も同じことを思う。村には他にも大勢いる。怪物のすぐ近くにいた者さえいる。それなのに、こいつはレティだけを追っている。怪物が跳んだ。速い。レティが避ける。骨の突起が地面を抉った。
アキトが横から体当たりし、怪物の向きを変える。
「今だ、レティ!」
レティが家の間へ走る。怪物が追う。
「中へ入れるな!」
シェルドが叫ぶ。村の中で暴れられれば被害が広がる。大和は、自分の足がすでに動いていることに気づいた。
「ヤマト!」
アビナの声がする。怖い。でも昨日とは違う。昨日は自分が殺されそうだった。今はレティが追われている。昨日会ったばかりだ。それでも一緒に飯を食った。笑った。自分が怪我をしたと聞いただけで、本気で心配していた。
「くそっ!」
大和は地面を蹴った。身体が一気に加速する。怪物へ追いつく。
「こっち見ろ!」
横から拳を叩き込んだ。怪物の胴体へめり込み、その身体が大きく横へ飛ぶ。家の手前で地面を転がった。周囲が一瞬静かになる。大和自身も拳を見る。
「……殴っただけなんだけど」
アキトの槍先が止まり、レティは家の手前で目を見開いていた。怪物が立つ。いくつもの目が大和を見る。昨日と同じ、あの嫌な視線。今度は明らかに、さっきまでとは反応が違う。怒りなのか。恐怖なのか。
分からない。怪物の口らしき裂け目が開き、低い音が出た。大和には、ただの鳴き声よりも声に近く聞こえた。怪物が飛びかかる。
「ヤマト!」
レティの声。大和は避ける。次の攻撃が速い。腕のようなものが脇腹を裂いた。
「ぐっ!」
痛い。だが、大和は止まらない。自分が治ることを知っている。その事実が昨日とは違った。怖い。痛い。でも、必ず死ぬとは限らない。大和は怪物の脚を掴んだ。
「うおっ!」
重い。それでも持ち上がる。そのまま地面へ叩きつけた。どん、と地面が沈む。大和は拳を振り下ろす。一発、二発、三発と叩きつけた。黒い皮膚が割れ、骨のようなものが折れる。
「これで!」
大和が下がる。怪物は動かない。数秒。傷口が動き始める。
「やっぱりダメか!」
壊した組織がすぐに戻っていく。大和は右腕を見た。
「あれが出れば……」
昨日の刃。あれなら倒せるかもしれない。だが出ない。
「出ろ!」
何も起きない。怪物が立ち上がる。
「出ろって!」
右腕は普通のまま。怪物が来る。大和は避けた。
「何でだよ!」
昨日は何が違った?死ぬと思った。倒したいと思った。切りたいと思った。必要だった。今だって必要なはずだ。その時、怪物が大和ではなく再びレティへ目を向けた。
「あ」
レティもその視線に気づく。怪物が身体を沈めた。大和の頭から余計な考えが消える。刃の出し方を思い返す余裕がなくなった。レティへ行かせない。ここで止める。右腕へ熱が集まった。
「……来た」
皮膚の下で何かが動く。筋肉が膨らみ、骨が軋む。白いものが前腕から伸びた。昨日より短く太い刃だった。大和が顔を上げると、周囲は黙り込んでいた。レティの耳はぴたりと動きを止め、尾まで固まったように下がっている。
アキトは目を見開いていた。アビナの耳はぺたりと伏せ、細い尾が身体へ寄っている。少し離れた場所まで来ていたノルアも、青灰色の目を見開き、自分の腕を抱くように立っていた。大和は初めて、自分の変形を他人の反応を通して見た。
怖がられている。それだけは分かった。一瞬、身体が止まる。自分の姿はそんなに怖いのか。怪物が走る。
「ヤマト!」
シェルドの声で我に返った。大和は踏み込み、怪物より先にレティとの間へ入る。刃を振る。怪物の前脚が切れて落ちた。だがすぐに再生し始める。昨日と同じ。大和はさらに踏み込んだ。
「もう一回!」
怪物の胴体へ深く刃を突き刺す。怪物が暴れ、別の脚が大和の肩を貫いた。痛い。それでも離さない。
「止まれ!」
右腕へさらに熱が集まる。刃の表面に細い筋が走り、先端が伸びた。大和には何をしているのか分からない。ただ倒したい。レティを、もう追わせたくない。腕を横へ振り抜いた。怪物の胴が大きく裂け、黒い液体が飛ぶ。
大和も地面へ転がった。肩に開いた穴は、もう塞がり始めている。怪物は立とうとする。傷口が動く。再生する。
「また……」
レティが息を呑んだ。だが、伸びた組織が途中で止まった。崩れる。怪物の身体が震える。アキトが目を細めた。
「何だ?」
再び再生しようとする。失敗する。組織が黒くなって崩れた。怪物が高い悲鳴を上げる。大和はその場から動けなかった。昨日も見た。自分が何かをしている。でも、何を?怪物が大和を見る。その目に、一瞬妙なものを感じた。
怒りでもない。ただの獣の目でもない。怖がっている?まさか。怪物の脚が大和へ伸びる。途中で力を失い、地面へ落ちた。身体が少しずつ崩れていく。再生しようとするたびに壊れる。やがて動かなくなった。
静かだった。誰もすぐには喋らない。大和の右腕では、刃がゆっくり縮み始めていた。白い組織が身体へ戻り、膨らんでいた筋肉も元へ戻る。皮膚が閉じれば、また普通の腕だ。大和は周囲を見る。アビナは大和を見ているが、耳はまだ少し伏せ、尾もさっきより身体の近くにある。
アキトは怪物と大和を交互に見ている。シェルドも黙ったままだった。ノルアの顔は強張り、青灰色の瞳が大和の右腕へ向いている。レティは少し離れた場所に立っていた。大和はその距離を見た。胸の中が冷える。
当然だ。自分でも怖い。腕からあんなものが出る。見た目だけなら、怪物と何が違う。
「……ごめん」
大和の口から言葉が出た。誰に、何を謝ったのか自分でも分からない。その時、レティが一歩動いた。大和から離れる方向へ。すぐに止まる。レティは足元へ目を落とし、唇を噛んだ。耳が後ろへ倒れ、尾も下がっている。
大和と目が合った。レティは一度、自分の足元を見る。それから、肩を血で汚した大和を見る。表情が変わった。次の瞬間、大和の方へ走ってきた。
「え?」
レティは目の前で止まった。昨日と同じくらい近い。
「怪我!」
「え?」
「肩!」
大和は肩を見る。穴はもう消えている。血が残っているだけだ。
「もう治ってる」
レティは近くで確認する。本当に傷がない。
「……よかった」
その声は少し震えていた。大和はレティの顔を見る。耳はまだ完全には戻っていない。
「怖くない?」
レティは一度止まった。
「怖かった」
大和は少し顔を伏せる。
「だよな」
「でも」
レティが続ける。
「ヤマトでしょ?」
大和が顔を上げた。
「……まあ」
「じゃあ」
レティは少し困ったように笑った。
「怖くても、ヤマト」
大和は何も言えなかった。アビナも近づいてくる。さっきより慎重に右腕を覗き込み、普通の形へ戻ったことを確かめる。
「もう普通ニャ」
「普通じゃなかった?」
「ぜんぜん」
「そこはちょっと気を遣えよ」
「怖かったニャ」
「お前もか」
「でも」
アビナは少し迷ってから、大和の腕を指でつついた。
「おもしろい」
「お前だけ反応おかしくない?」
アビナの耳が少しずつ起きる。大和は呆れながらも、少しだけ安心した。アキトは怪物の死体へ近づき、槍の先で触れた。反応はない。もう一度、深く刺す。動かない。傷口も再生しない。
「死んでいる」
その言葉で周囲がざわめいた。シェルドも怪物へ近づき、大和が最後に切った場所を見る。黒く崩れている。
「俺たちが付けた傷は治った」
アキトが言う。シェルドが続ける。
「大和の傷だけ治らなかった」
大和も死体を見る。
「昨日も同じでした」
「最初から?」
ルシアンの声。大和が振り返ると、彼は怪物より大和を見ていた。
「いや。最初に切った傷は治った」
「途中から?」
「多分」
「刃の形が変わったあとか」
大和は少し考える。
「そうかもしれない」
ルシアンの視線が、普通に戻った右腕と怪物の傷口を往復する。
しばらくして言った。
「……お前」
「ん?」
ルシアンは一瞬だけ間を置いた。
「さっきの姿、怪物に少し似ていた」
周囲が静かになる。大和は答えなかった。アビナもレティも何も言わない。アキトがルシアンを見る。
「今言う必要があるか」
「見えたものを言っただけだ」
「ルシアン」
ノルアが小さな声で止めた。ルシアンはそれ以上続けなかった。大和は自分の腕を見る。怪物。あれと自分が似ている。考えたくはない。だが、完全には否定できない。
「まあ」
大和は無理やり笑った。
「神様の趣味が悪いんだろ」
アビナが首を傾げる。
「かみさま?」
「こっちの話」
いつものように、それで終わらせようとした。その時、シェルドが死体から顔を上げた。
「一つ確認したい」
「何ですか?」
「昨日の怪物も、お前が攻撃したあと同じように死んだ?」
「そうです」
シェルドは少し黙り、アキトと目を合わせる。
「二体」
アキトが言った。
「偶然とは考えにくいな」
大和は何となく嫌な予感がした。
「何です?」
シェルドは死んだ怪物を見る。
「俺たちは怪物を追い払うことはできる。傷も付けられる」
アキトが続ける。
「場合によっては、動けなくなるまで壊せる」
大和は頷いた。さっき見た。
「だが、時間が経てば戻る」
大和は死体を見る。
「こいつは戻らない」
「今のところは」
「昨日のも?」
「戻ってないと思います」
「確認する必要がある」
シェルドは立ち上がった。
「もし本当に、お前だけが怪物を殺せるなら――」
その先は言わなかった。だが大和にも分かった。今まで殺せなかったもの。逃げるしかなかったもの。傷を付けても戻ってくるもの。それを自分だけが終わらせられるかもしれない。大和は自分の右手を見た。
昨日までこの力を、神様からもらったチート能力だと半分冗談で考えていた。今は、その力を見ている者が自分以外にもいる。
「……怪物って、よく来るんですか?」
大和が聞く。シェルドが答える。
「来る」
「こうやって村を襲う?」
「少し違う」
「違う?」
シェルドはレティを見る。レティの表情が変わった。アキトが言う。
「今日みたいに、誰か一人を狙うことがある」
大和はさっきの怪物を思い出す。アキトを無視した。シェルドも無視した。大和を見た時は一度反応した。それでも、最後に追ったのはレティだった。
「何で?」
誰も答えない。
「分からない?」
アキトが頷く。
「分からない」
「毎回?」
シェルドが答える。
「誰でも狙われるわけじゃない。村へ近づいても、何もせず去ることもある」
「でも今日はレティを狙った」
「そうだ」
「理由は?」
「分からない」
大和は死体を見る。大和はレティの立っていた場所へ目をやった。あれだけ人がいたのに、なぜ彼女だったのだろう。
「ほんと、説明書くらい置いとけよ、神様」
誰も意味を理解しなかった。ただアビナだけが聞いた。
「かみさま、雑ニャ?」
大和は少し笑った。
「かなり雑」
笑いながら、元に戻った右手を握った。誰かが困っていたら助ければいい。昨日はそう考えた。その「誰か」が、今日はレティだった。




