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この世界に残るもの  作者: 深空 律
第一部 知らない世界
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20/72

第20話 内部

翌朝、大和が村の入口へ行くと、昨日より荷物が増えていた。縄、灯り、食料、水。帰り道の目印に使う布、何かを書き写すための板と筆記具。それに、昨日は持っていかなかった大きな袋が二つある。大和は袋を持ち上げた。


「これ何です?」


「持ち帰れる物があった時に使う」


シェルドが答えた。


「遺跡荒らしみたいになってきたな」


「使える物があるなら調べる」


「まあ、そうなんだけど」


昨日見ただけでも、遺跡には大和たちの村では作れない材料が大量に使われていた。持ち帰った薄い板一枚だけでも、ドランはかなり興味を示している。そして今日は、そのドラン本人も同行することになっていた。大和は工具を背負った大男を見る。


「本当に行くんです?」


「材料を見たい」


「中に怪物いるかもしれないですよ」


「だからお前たちも行くんだろう」


「正論」


今日の調査隊は五人。大和、アキト、シェルド、ルシアン、そしてドラン。内部で見つけた物が何なのか、大和には分からない可能性が高い。少なくとも、加工や構造についてはドランの方が見る目がある。問題は、アビナだった。


「何で私は駄目ニャ!」


後ろから不満の声が飛んできた。アビナだった。昨日より明らかに機嫌が悪い。


「今日は中に入るから」


大和が答える。


「だから行くニャ」


「逆だよ」


「ドランは行く」


「仕事だから」


「私も仕事するニャ」


「何するの?」


アビナは少し考えた。


「見つける」


「何を」


「面白いもの」


「それ仕事じゃないだろ」


大和の横でルシアンが言った。


「アビナがいると、触るなと言った物を触る」


「触らないニャ!」


全員が黙った。アビナの耳が伏せる。


「何で誰も信じないニャ」


「実績」


大和が答える。


「ヤマトに言われたくない!」


「俺は触るなって言われたもの触ってないぞ」


シェルドが横から言った。


「昨日、遺跡へ少し入りたそうにしていた」


「あれは入ってないからセーフ」


「止めたからだ」


「結果が大事です」


「次はお前も置いていくぞ」


「ごめんなさい」


レティが横で笑っている。ノルアは、昨日持ち帰った板を包んだ布を大和へ渡した。


「持っていく?」


大和は少し迷った。


「何で?」


「同じものがあるかもしれない」


「ああ」


確かに、同じ材質や記号、形のものがあれば比較できる。


「借りる」


「なくさないでね」


「遺跡より先に俺が怒られそうだな」


大和は板を荷物へ入れた。出発前に、もう一度村を見る。少し前なら、大和たち五人が抜ければ村の守りにも影響した。今は違う。カダ村との交流が始まり、人の行き来が増えた。


見張りの仕組みも少し変わった。怪物の出現記録が増えたことで、危険な方向も以前より分かる。何より、全部を大和がやる必要がない。そのことが、大和には少し嬉しかった。


「じゃあ行ってきます」


アビナがまだ不満そうに言った。


「変なの持って帰るニャ」


「安全そうなのがあったらな」


「頭とか」


「怪物から離れろ」


◇


遺跡までは昨日と同じ道を使った。途中で怪物の姿は見なかった。昨日倒した個体がいた場所も静かだ。昼前には、あの奇妙な道路へ出た。白灰色の地面、黒い繊維を含んだ断面、一定間隔で並ぶ用途不明の柱。


二度目に見ても、大和には何なのか分からなかった。むしろ、昨日より不思議に見える。ドランは道へ出た瞬間、その場にしゃがみ込んだ。


「行かないの?」


大和が聞く。


「待て」


ドランは路面の割れた部分を見ている。指で触り、軽く叩く。今度は持ってきた小さな金属工具を当てた。


「硬い」


「昨日もそう思った」


「だが石じゃない」


「それも思った」


ドランは破断面へ工具を差し込もうとした。入らない。かなり力を入れている。それでも表面が少し削れるだけだった。


「村の道具より硬い?」


大和が聞く。


「ずっと」


ドランが立ち上がった。


「これを道に使っていたのか」


「みたいですね」


ドランは長く続く路面を見る。しばらく無言。それから言った。


「無駄だな」


大和は予想外の言葉に振り返った。


「無駄?」


「こんな硬いものを、地面全部に使う必要があるのか」


「それだけ物があったんじゃない?」


「それか」


ドランは路面を見る。


「簡単に作れた」


大和は止まった。その発想はなかった。自分たちにとって貴重に見える材料でも、作った文明では普通だった可能性がある。今の世界で木の板を見ても、いちいち驚かない。この道路も、これを作った者にとっては、その程度だったのかもしれない。


「……それ、すごいな」


「何が」


「俺、これがすごい材料だから使ったと思ってた」


大和は地面を見る。


「普通の材料だった可能性もあるんだ」


ルシアンが言った。


「分からない」


「はい」


最近、その言葉が嫌いではなくなってきた。遺跡へ着く。昨日見た巨大な構造物。やはり大きい。大和は改めて見上げた。


自分の時代にも巨大建築はあった。それでも、形が全く違う。壁と屋根がどこで分かれているのか曖昧で、白い外殻がそのまま建物全体を包んでいるように見える。窓らしき黒い部分も、ガラスとは思えない。森の中に、自分の知らない文明だけが取り残されている。


そんな感じがした。


「古代文明か」


大和は呟いた。言葉にすると、妙にしっくりきた。異世界に存在した、自分の時代より高度な文明。今は滅びている。今日はその中へ入る。


大和は少しだけ興奮していた。シェルドには気づかれたらしい。


「勝手に先へ行くな」


「まだ何もしてないでしょう」


「顔に出ている」


「そんなに?」


アキトも頷いた。


「出ている」


「二人とも俺を何だと思ってるの」


ルシアンが答えた。


「すぐ触る奴」


「アビナと一緒にしないで」


「似ている」


「嘘だろ」


ドランまで少し笑った。


◇


昨日見つけた入口から内部へ入る。先頭は大和で、少し後ろにルシアン、その後ろにドランが続く。アキトとシェルドが周囲を警戒する中、灯りを点けた。


暗闇の中へ光が伸びた。大和は最初の一歩で足を止めた。


「……広い」


入口の向こうは、大きな空間になっていた。天井は、大和の時代の建物なら二階分ほどの高さがありそうに見える。だが上階の床はなく、全体が一つの巨大な空間になっていた。


壁には何かを取り付けていたような窪みが連続している。床も昨日の道路とは違い、黒に近い灰色で、足音が妙に響かない。大和は一歩歩いた。


「柔らかい?」


もう一度踏んでみる。石やコンクリートの感触ではなく、わずかに沈む。それでも土や木のような柔らかさではない。ドランもしゃがみ込んだ。


「床まで違う」


「何のためでしょうね」


「知らん」


入口付近には植物が入り込んでいた。しかし十メートルほど進むと急に減る。内部は乾燥している。大和は壁を触った。昨日見た外壁より滑らかで、継ぎ目がほとんどない。


「どうやって作ったんだ、これ」


ドランが答える。


「削ったようには見えない」


「じゃあ固めた?」


「分からない」


大和は笑った。


「ドランまでそれ言うようになった」


「分からないものは分からない」


「ルシアンが二人になった」


ルシアンは無視した。少し進むと、壁に大きな黒い面が現れた。高さは大和の胸くらいから頭の上まで、横幅は数メートル。光を当てると、わずかに反射する。


「窓?」


大和が近づく。向こう側は見えず、表面は黒い。触れてみると冷たかった。


「ガラスっぽいけど……」


指で軽く叩くと、普通のガラスとは違う音がした。かなり厚そうだ。その横には、指先ほどの丸い窪みが並んでいる。


「ボタン?」


押してみる。何も起きない。シェルドの声が後ろから飛ぶ。


「触ったな」


大和が振り返った。


「いや、これはどう見ても押すところでしょ」


「何が起きるか分からない」


「ずっと昔の物ですよ」


「だから安全だという理由にはならない」


「……ごもっとも」


大和は手を引いた。それでも黒い面を見ていると、何かを表示する装置のようには思える。大和の時代なら大型ディスプレイを連想するが、薄さも材質も取り付け方も違い、電線らしいものも見えない。


「やっぱり俺の時代より進んでるな」


大和が言う。アキトが聞いた。


「これも?」


「俺のところにも似たものはあったんです。でも」


黒い面を指す。


「こんな壁そのものみたいなのは、少なくとも俺は知らない」


本当に画面なのかは分からない。それでも、全く理解できない物の中に、自分の知っている発想と似たものが見えるのは少し嬉しかった。


「昔の人も画面見てたのかな」


「画面とは何だ」


「絵とか文字を出すもの」


「今は出ない?」


「多分、動いてない」


大和は少し残念だった。もし今も動かせれば、何か手掛かりが得られたかもしれない。だが、そんな都合のいいことは起きない。さらに奥へ進むと、奇妙な扉らしきものを見つけた。壁と同じ素材の板が一枚あるだけで、取っ手も蝶番も見当たらない。


横へ開くのか上へ動くのか、それすら分からなかった。


「どうやって入るんだ?」


大和が周囲を探していると、ルシアンが扉の前にある薄い円形の線を指した。大和がその上へ立ってみるが、何も起きない。


「昔なら勝手に開いたとか?」


「どうやって」


アキトが聞く。


「人が近づいたら」


「なぜ分かる」


「そういう扉、俺のところにもあったんですよ」


大和は少し得意になった。


「自動ドアって言って、人が来ると勝手に――」


言いかけて止まる。大和には、この古代文明が自分の時代より明らかに進んでいるように見えた。なら、人が近づくだけで反応するという単純な仕組みとは限らない。


「……もっとすごかったのかな」


大和が呟く。


「何がだ」


「いや」


大和は扉を見た。


「俺の知ってるものを基準に考えるの、違うかも」


この文明は、大和のいた世界より先へ進んでいた。自分が「こういう物だ」と思った瞬間に、間違える可能性がある。ルシアンが少しだけ大和を見る。


「珍しく慎重」


「最近みんな俺への評価低くない?」


◇


建物の中は、思っていた以上に複雑だった。広い空間から、複数の通路が伸びている。通路も大和の知っている建物とは感覚が違い、妙に広く、天井も扉らしきものも大きい。


「ここ使ってた人、背高かったのかな」


大和が言う。アキトが隣を歩く。


「なぜ」


「全部ちょっと大きい気がする」


「大きな荷物を運んでいたのかもしれない」


「ああ、それもあるか」


すぐに一つの答えへ決めない。最近、それも少し覚えた。通路の途中には、何のためにあるのか分からない突起や溝がある。壁の一部は半透明。灯りを近づけると内部に細い線が無数に走っている。


大和は見入った。


「これ電線かな」


ドランが聞く。


「でんせん?」


「力を送る線」


「細すぎる」


「俺の時代より進んでるなら、これで足りたとか?」


言いながら、自分でも分からない。大和は軽く笑った。


「俺、古代文明の専門家じゃないからな」


「誰もそう思っていない」


シェルドが答えた。


「そこはちょっと期待してよ」


その時、ルシアンが突然手を上げた。全員が止まる。大和の表情も変わった。


「いる?」


ルシアンが通路の奥を見る。


「何か動いた」


ドランがすぐに下がる。シェルドが位置を決める。


「ドラン、中央。アキト、左」


大和は右腕へ意識を向けた。骨刃が伸びる。ここは森と違って狭い。長い刃を大きく振り回す場所ではない。大和は自分の腕を見る。


「これ、ちょっと長いな」


そう思った途端、骨刃の伸びがいつもより短いところで止まった。大和は少し驚いたが、新しい形ではない。以前使った刺突型に近い。身体が場所に合わせて、すでに覚えている形を選んだだけだった。


「便利」


シェルドが睨む。


「集中しろ」


「してます」


暗闇の奥から、爪が床を擦る音が近づいてくる。次の瞬間、曲がり角から四脚の怪物が飛び出した。通常個体で、身体そのものは大きくない。それでも狭い通路では十分に邪魔になる。怪物の目が大和へ向いた。


「やっぱり俺か」


怪物が突っ込んでくる。大和はいつものように横へ避けようとして、すぐに止めた。通路が狭く、森と同じ動きはできない。


「アキト!」


アキトの槍が横から怪物の肩へ入り、突進の向きが少しずれた。大和は一歩だけ外へ逃れる。怪物はそのまま壁へぶつかったが、鈍い音がしただけで、壁にはほとんど傷が付かない。


「建物硬っ!」


「大和!」


「はい!」


怪物が反転する。今度は大和が前へ出て骨刃を刺すが、浅い。怪物が首を振り、大和も身体ごと壁へ叩きつけられた。すぐに立ち上がる。シェルドが後脚を攻撃し、アキトが正面を押さえる。


ルシアンが叫んだ。


「下!」


大和は怪物の胸の下に、比較的柔らかそうな場所を見つけた。身体を低くして前へ入り、骨刃を突き込む。今度は深く入った。怪物が暴れたため大和はすぐに刃を抜く。しかし、狭い通路で巨体を押し付けるように迫られ、避ける場所がほとんどない。


「うわ!」


大和は両腕で受け止めた。身体ごと押されるが、この床は滑りにくい。新しい変化を使う必要もなく、そのまま足を踏ん張れた。


「重い!」


アキトとシェルドが左右から入り、怪物の身体がわずかに浮く。その隙に大和は距離を作り、胸の同じ場所へもう一度深く骨刃を入れた。黒い変色が広がる。怪物から力が抜け、狭い通路をほとんど塞ぐように倒れた。しばらく待ってから、ルシアンが確認する。


「死んだ」


大和は息を吐いた。


「外より戦いにくい」


シェルドが頷く。


「次から場所を考える」


「逃げる場所もないし」


アキトが怪物の死体を見る。


「奥にまだいる可能性がある」


大和も見る。


「今日はどこまで行く?」


シェルドは少し考える。


「一つ確認したら戻る」


「何を?」


ルシアンが答えた。


「この建物の形」


大和は意味が分からなかった。


「形?」


ルシアンは持ってきた簡単な外形図を見せる。昨日、外から描いたもの。


「今どこにいるか分からなくなってきた」


大和は通路を振り返った。何度も曲がり、分かれ、また別の通路へ繋がっている。自分たちの村の家とは複雑さがまるで違う。


「迷路だな」


「だから」


ルシアンは壁を見る。


「地図があるかもしれない」


大和は止まった。


「ある?」


「大きな建物なら必要だろう」


大和の世界でも、駅や商業施設のような大きな建物には案内図があった。


「確かに」


そう考えると、急に探すものができた。


◇


見つかったのは、それから二十分ほど後だった。大きな空間の壁に、他とは違う巨大な図が残っていた。黒い面の上に、白や薄い色の線が何本も走り、大小さまざまな形が配置されている。文字らしいものもあるが、大和には読めない。


「これ……地図?」


ルシアンも近づいた。


「建物の中だけじゃない」


確かに、規模が大きすぎる。中央に大きなまとまりがあり、そこから何本もの線が別のまとまりへ伸びている。端には川のように曲がった線まであった。大和は昨日歩いた道を思い出した。幅、方向、遺跡までの位置関係。


図の一本を指で追う。


「これ、俺たちが来た道じゃない?」


シェルドが図と外から写してきた位置関係を見比べる。


「可能性はある」


その線の先には、今いる建物らしい大きな形がある。そして、その周囲には同じような形がいくつも並んでいた。大和は少し黙った。


「この遺跡、一個じゃないんだ」


さらに図の中央を見る。そこには、周囲とは比べものにならないほど多くの構造物が集まっている。


「ここ、街だったのかな」


「まだ分からない」


ルシアンはいつも通り答えたが、視線は図から離れなかった。大和の胸が高鳴る。自分の時代より進んだ文明が、この森のどこかに巨大な都市を作っていた。今見えている遺跡は、そのほんの一部かもしれない。ドランも珍しく長い時間、黙って図を見ていた。


「全部残っているのか」


「分からない。でも、場所は探せそう」


ルシアンの言葉に、大和は笑った。点だった遺跡が、線で繋がった。


「これ、持って帰れないかな」


シェルドが壁を見る。


「無理だ」


「ですよね」


持ち帰れないなら写すしかない。大和たちは、分かる範囲で図を板へ移していった。ルシアンが全体の形を取り、大和とドランが線や大きな構造物の位置を補う。シェルドは方角を確かめ、アキトは周囲を警戒した。大和が一本の線を少し曲げて描くと、すぐにルシアンが直した。


「そこは真っ直ぐ」


「大体でいいだろ」


「地図だぞ」


「はい」


作業には時間がかかったが、戻って検討するには十分なものができた。大和は板を見ながら笑う。


「アビナ連れてきたら喜んだだろうな」


「次も連れてこない」


シェルドが即答した。


「まだ何もしてないのに」


「この建物だけでも触る物が多すぎる」


「否定できない」


◇


村へ戻ったのは夕方だった。知識蔵にはすぐ人が集まった。最初に飛び込んできたのは、当然アビナだ。


「何あったニャ!」


「地図」


「地図?」


大和が板を広げると、ノルアとレティも覗き込んだ。ドランは別に持ち帰った小さな黒い破片を机へ置き、さっそく工具で調べ始める。


「それで何か作る?」


「先に調べる」


「どうやって」


「叩く」


「それ昨日もやってなかった?」


ドランは気にせず破片を見ていた。一方、シェルドとルシアンは村周辺の地図と、遺跡から写してきた図を並べる。向きを合わせる。大和たちが歩いた古い道と、図の線を重ねる。完全に一致するとまでは言えない。


それでも、方向と位置関係はかなり近かった。


「やっぱり地図っぽいな」


大和が言う。


「可能性は高い」


ルシアンが、その先へ続く線を指した。森の向こう。まだ誰も調べていない場所。そこにも、いくつもの大きな形が描かれている。ノルアが聞いた。


「これ全部、遺跡?」


「多分」


大和は地図を見たまま答えた。最初に遺跡を見つけた時は、巨大な建物一つだけでも十分に驚いた。だが今は、その一つが大きな都市の端に過ぎない可能性が出てきた。この世界には、自分が知っていた文明より進んだ何かが存在し、そして消えた。


「何があったんだろうな」


アビナが地図を覗く。


「調べれば分かるニャ?」


「分かるかもしれない」


「じゃあ次は私も行くニャ」


「話が早い」


知識蔵に笑いが起きる。大和はもう一度、遺跡の図へ目を戻した。特に気になるのは中央部だった。大小の構造物が密集し、何本もの太い線が集まっている。今日見た場所より、はるかに大きい。


「ここ」


大和が指す。ルシアンが見る。


「遠い」


「うん」


「怪物の記録もない」


「誰も行ってないから?」


「多分」


大和はしばらく中央部を見てから、その手前へ指を移した。


「じゃあ、まずここまでの道を調べよう」


シェルドが頷く。


「順番にだ」


「分かってます」


今度は本当に分かっていた。いきなり一番奥へ行く必要はない。道を確認し、遺跡を調べ、怪物の位置を記録しながら少しずつ進めばいい。その夜、知識蔵の地図には「遺跡」の印がいくつも増えた。まだ誰も見たことのない場所ばかりだ。


大和には、それが宝の地図に見えた。金銀ではない。この世界の過去へ続く地図だった。


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