第15話 カダ村
翌朝、大和が目を覚ました時、最初に感じたのは匂いだった。借りた寝具に、いつもと違う匂いが染みついている。木と布の匂いに、どこか獣を思わせるものが混じっていた。目を開けると、低い天井と太い梁が見えた。大和たちの村で使っている家より、全体的に頑丈そうだ。
「……そうか」
昨日の夕方、カダ村へ着いた。そこで異形の怪物と戦い、村の空いている家を借りて眠ったのだった。身体を起こし、服を見る。ひどい。破れ、血で汚れ、あちこちに穴が開いている。左腕を食いちぎられた場所など、服だけがごっそりなくなっていた。
それなのに身体はいつも通りだ。傷一つない。
「服も治れば便利なのにな」
自分で言って少し笑う。さすがに、そこまでは無理らしい。外へ出ると、すでに村は動き始めていた。昨日は怪物に襲われていたせいで気づかなかったが、カダ村は大和たちの村とは少し雰囲気が違う。
まず、犬型が圧倒的に多かった。立った耳。垂れた耳。大柄な者もいれば細身の者もいる。毛の色も様々だ。猫型もいるが、かなり少ない。そして朝から動きが揃っている。水を運ぶ者。壊れた柵を直す者。畑を見る者。見張りに立つ者。
誰かが指示を出すと、すぐに複数人が動く。
「なんか、シェルドがいっぱいいる感じ」
「聞こえてるぞ」
後ろから声がして振り返ると、本人がいた。
「おはようございます」
「朝から失礼なことを言うな」
「褒めてるんですよ」
「そうは聞こえなかった」
大和は笑った。
「アキトたちは?」
「外だ」
「怪物?」
「昨日の死体」
大和の表情が変わる。
「ルシアンも?」
「当然」
「行きます」
◇
村の外には、昨日の巨大な死体がまだ残っていた。朝の光で見ると、夜よりさらに異様だった。一つの身体だと思おうとすると無理がある。皮膚の色も質感も場所によって違う。骨格も揃っていない。腕も脚も、同じ生き物のものには見えなかった。
そして身体の側面には、半分埋まった顔がある。ルシアンはすでに死体のそばへしゃがみ込んでいた。アキトとロウ、それからカダ村の者も数人、少し離れて見ている。
「どう?」
大和が近づいて聞くと、ルシアンは顔を上げずに言った。
「見ろ」
「何を?」
「ここ」
脇腹の切断面を指している。大和もしゃがんだ。黒く崩れた組織の奥に骨が見える。一本ではない。向きの違う骨が重なっている。その横にも細い骨があり、途中から別方向へ伸びていた。
「骨が二つある?」
「もっとある」
大和は顔をしかめた。
「身体の中で重なってる?」
「そう見える」
ルシアンは別の場所へ移る。背中に埋まった顔だ。
「これも」
大和は近くで見る。怪物の顔には違いない。だが、本体の顔とは形が違う。口も目も骨格も違い、首から下だけが本体の中へ埋まっている。
「元は別?」
ルシアンはすぐに断定しなかった。
「可能性は高い」
アキトが少し離れた場所を指した。
「昨日、大和が切った腕も違う」
地面には切断された腕が残っている。確かに、本体の他の腕とは形が違った。
「ロウ。この辺で怪物同士が戦うことある?」
大和が聞くと、ロウは少し考えて頷いた。
「ある」
「食べてるところは?」
「見たことはない」
「死体は?」
「残らない」
大和が止まった。
「残らない?」
「怪物同士が戦った跡はある。黒い液体も、倒れた木も残る。でも怪物の身体は残ってない」
大和は目の前の死体を見る。追い払うだけでは死なない怪物が、互いに戦う。片方が動けなくなったあと、何が起きるのだろう。昨日の光景が蘇った。異なる腕。異なる脚。埋まった顔。そして、自分の骨刃まで傷口へ取り込もうとした。
「食ってる」
大和が言う。ロウがこちらを見る。
「怪物が?」
「多分、他の怪物を」
大和は死体を指した。
「それで、食った相手の身体まで自分に取り込んでる。だから別の怪物の特徴が一つの身体に混ざってるんじゃないか」
ルシアンが静かに答える。
「それなら説明はできる」
「でも証明はできない?」
「今はな」
大和は背中に埋まった顔を見た。目は閉じている。昨日、最後まで自分を見ていた目。そして、あの声。
「……にん」
小さく呟くと、ルシアンが顔を上げた。
「まだ気にしているのか」
「うん」
「俺は聞いていない」
「分かってる」
アキトも少し表情を変えた。
「何と言ったんだ?」
「分からない。『にん』って、そこまで」
「その先は?」
「聞こえなかった」
ルシアンが少し考える。
「鳴き声を言葉に聞き間違えた可能性はある」
「ある。俺もそう思う」
それでも完全には捨てきれない。大和は死体を見ながら言った。
「知識蔵があったら書いとくんだけどな」
シェルドがすぐ答える。
「戻ったら書け」
「覚えてたら」
「忘れるから書くんだろ」
「確かに」
大和は少し笑った。ロウが不思議そうに聞く。
「知識蔵?」
大和が説明しようとしたところで、シェルドが遮った。
「帰ってからでいい」
「何で」
「今は水場だ」
「あ」
大和は本来の目的を思い出した。異形を倒すために来たわけではない。怪物に塞がれた水場を取り戻すために来たのだ。
「何体いる?」
「最後に見た時は四体」
ロウが答える。
「今朝は?」
「まだ見に行けてない」
シェルドはすぐに決めた。
「偵察する」
ルシアンが立つ。
「俺が行く」
「俺も」
ロウが言うと、シェルドは即答した。
「駄目だ」
「道を知ってる」
「案内だけだ」
大和も横から釘を刺す。
「戦わない」
ロウは少し不満そうだった。
「分かってる」
大和は巻かれたままの腕を見る。
「本当に?」
「分かってる」
◇
出発する時、カダ村からもう一人加わった。犬型の女性だった。大和は最初、誰か分からなかった。ロウが紹介する。
「姉」
大和は女性を見る。
「ロウが言ってた、お姉さん?」
女性が頷いた。
「ミナ」
「大和です」
「知ってる」
即答されて、大和は少し気まずくなる。
「有名?」
「昨日のこと見てた人がいるから」
「なるほど」
ミナは大和を見る。大和の姿を確かめても距離は取らなかった。ただ、ロウより強い目で、じっと顔を見てくる。
「本当に行くの?」
「そのために来たから」
「死ぬかもしれない」
「多分」
大和は少し笑う。
「俺、結構死ににくい」
ミナは笑わなかった。
「そういう意味じゃない」
大和も表情を変える。
「村の人が、あなたが来たら何とかなるって言ってる」
ミナの視線が、大和の右腕へ一度落ちた。
「だから、みんな期待してる」
大和は少し黙った。
「嫌?」
「怖い」
「何が?」
「期待しすぎること」
ミナは前を見ながら続けた。
「あなたが来る前も、私たちはここで暮らしてた。怪物がいた。追い払った。水を守った。人も失った」
大和はアキトが以前言ったことを思い出した。お前が来る前から、俺たちはここで生きている。
「だから、あなたが来たから全部大丈夫って思うのは違う気がする」
大和は少し笑った。
「アキトみたい」
後ろのアキトが反応する。
「何だ」
「何でもない」
ミナも少し笑った。大和は続ける。
「俺も一人で何とかするつもりないですよ。昨日だって、俺だけなら負けてた」
ミナは少しだけ安心したように頷いた。水場へ向かう道で、大和はカダ村の違いをさらに見つけた。道が広い。柵が多い。見張り台もいくつかある。
「防御すごいな」
ロウが答える。
「怪物が多い」
「昔から?」
「ここ数年」
大和は気になった。
「増えてる?」
「そう思う」
アキトとシェルドの表情が僅かに変わった。
「うちでも増えた」
アキトが言う。
「何で?」
誰も答えられなかった。また一つ、分からないことが増える。やがて先頭のルシアンが足を止めた。
「近い」
ロウが頷く。
「この先」
水の音が聞こえる。森を抜けると、思ったより大きな川が現れた。
「結構大きいな」
岸には平らな場所があり、壊れた桶や洗い物をしていた痕跡が残っている。そして怪物もいた。一体は川辺で伏せている。二体目は少し離れた木の根元。三体目は対岸だった。
「三?」
大和が小声で言う。
「前に来た時は四体いた」
ロウが答える。ルシアンは岸の泥を見た。
「もう一体分の跡がある」
「どこにいる?」
「まだ分からない」
シェルドが全員を下がらせる。
「先に観察する」
大和は頷いた。昨日までとは少し違う。敵の数も位置も、ある程度分かっている。考えてから戦える。一体目は身体の低い四脚。二体目は細長い六脚。昨日、道中で戦った高速の個体に似ている。対岸の三体目は大きく、背中を骨の板が覆っていた。
「役割分けよう」
大和が言った。シェルドが少しだけこちらを見る。
「どうする」
聞かれたことが少し嬉しい。大和は六脚を指した。
「速いのは俺。昨日やったから」
次に対岸の大型。
「大きいのはアキトとシェルドで止めて。ルシアンは最初、全体見てほしい」
ルシアンが言う。
「お前が指示するのか」
「ダメ?」
少し間があって、シェルドが言った。
「続けろ」
大和は少し笑う。
「一体目の低い奴は?」
ルシアンが見る。
「分からない」
「じゃあ最初は触らない。一体ずつやる」
シェルドが頷いた。
「悪くない」
「初めて褒められた?」
「調子に乗るな」
「はい」
問題は、一体だけをどう引き離すかだった。大和は少し考える。
「俺が出る?」
全員がこちらを見る。怪物は大和を優先して狙うことが多い。シェルドが眉を寄せる。
「危険だ」
「でも、俺を見たら来る可能性高い」
ルシアンが頷く。
「試す価値はある」
アキトが言った。
「無理ならすぐ戻れ」
「分かってる」
大和は一人で森から出た。開けた水場へ進む。怪物はすぐに反応した。一体目が顔を上げる。六脚も起きる。対岸の大型まで目を動かした。そして全ての目が大和を見る。
「……やっぱ人気だな」
嫌な笑いが出る。最初に動いたのは六脚だった。
「来た」
大和は後ろへ下がり、森へ戻る。六脚が追う。他の二体は動かない。
「一体だけ!」
シェルドの声。予定通りだ。大和はさらに奥へ入り、待っていたアキトたちの位置まで怪物を引き込んだ。六脚が来る。速い。だが昨日見た速度だった。大和の脚に熱が集まる。身体はもう覚えている。
「こっち!」
六脚が踏み込む。大和はその前に横へ動いた。アキトの槍が進路を塞ぐ。怪物が反転する。そこへ大和が追いついた。昨日とは違う。動きが完全に見える。
「遅い」
踏み込みの前に動き、側面から拳を叩き込む。怪物が転がる。立ち上がる頃には、大和はもう目の前にいた。右腕から骨刃が伸びる。それも昨日より早い。自分の意図が身体へ伝わる感覚が、少しずつ分かってきた。
「終わらせる」
先を細く尖らせ、突き刺しやすい形にする。一度、胸へ入れる。怪物の再生が始まる。角度を変え、もう一度深く突く。刃が微かに震え、組織が黒く変色した。怪物が止まる。大和自身が驚いた。
「早くなってる」
ルシアンがすぐに言う。
「何が?」
「再生を止めるまでの時間」
「前より?」
「前より」
大和は死体を見る。
「身体、覚えてる」
怖さもある。だが、それ以上に手応えがあった。戦った経験が次の戦いで使える。
「次」
シェルドはもう切り替えていた。
◇
二体目は、身体の低い四脚だった。大和が再び水場へ出る。今度の怪物は反応が少し遅い。一歩近づくと、ようやく立ち上がった。
「来い」
怪物が動いた。遅い。そう思った次の瞬間、姿が消えた。
「え?」
地面が盛り上がる。一直線に大和へ向かってくる。
「地下!?」
足元が爆発した。怪物が真下から突き上げる。
「うわっ!」
大和の身体が空へ飛ぶ。腹が裂けた。怪物は地面から姿を出している。前脚の爪が異様に大きく、明らかに掘るための形だった。
「そういうタイプ!?」
落下する。大和は脚を強化して衝撃を受けた。地面へ深く沈むが、立てる。怪物はすぐにまた潜った。
「見えない!」
ルシアンが叫ぶ。
「地面!」
「分かってる!」
盛り上がった土が右へ、左へと走る。目で追おうとしても遅い。その時、大和は足の裏に伝わる細かな揺れに気づいた。
「……振動?」
あえて止まる。怪物が土を掘る振動が地面を通して伝わってくる。右。大和は跳ぶ。直後、その場所から怪物が飛び出した。
「お」
また潜る。今度は目で追わない。足の裏へ意識を向ける。土が震える。近づく。
「そこ!」
横へ跳ぶ。怪物が出る。外した。ルシアンが驚く。
「何で分かる!」
「地面!」
「どうやって!」
「知らない!」
また身体が何かを変えている。見た目は変わらない。でも、足の感覚が明らかに鋭くなっている。大和は少し面白くなった。怪物がまた潜る。今度は逃げない。待つ。振動が近づく。真下。大和は一気に跳んだ。
怪物が地面を破って出る。空中で身体を捻り、骨刃を下へ向ける。
「そこ!」
怪物の背中へ突き刺す。怪物はそのまま地面へ戻ろうとした。大和も引きずられる。
「うわ!」
「行かせるか!」
刃を抜けない形にしたい。その意図に反応して、骨刃の根元が枝のように僅かに広がった。怪物の内部へ引っ掛かる。大和自身が目を見開く。
「そんな形にもなるの?」
大和は両脚を踏ん張った。地面を削りながらも、引きずられる身体を止めた。アキトが叫ぶ。
「大和、離れろ!」
「今!」
大和はさらに刃を深く押し込む。再生を止めろ。組織が黒くなり、怪物の動きが弱くなる。刃を抜く。怪物は地面へ倒れた。
「二体」
大和は息を吐く。
「地面はずるい」
シェルドが言う。
「次から分かる」
「そういう問題?」
ルシアンは怪物ではなく大和の足元を見ていた。
「足」
「俺の?」
「さっき、裸足でもないのに地面の中が分かった」
「振動だと思う」
「身体が?」
「多分」
大和は自分の足を見る。外見は普通だ。
「見た目変わってない」
「中かもしれない」
その言葉に、大和は少しぞくりとした。筋肉や骨刃のような見える変化だけではない。足の裏で感じるものまで変わっている。
「俺、どこまで変わるんだろ」
誰も答えられなかった。
◇
最後に残ったのは対岸の大型だった。四体目はまだ見つからない。
「先に三体目を終わらせる」
シェルドが言う。浅い場所をロウに教えてもらい、川を渡る。大型の怪物が立ち上がる。背中を骨板が覆っている。大和は昨日戦った硬い個体を思い出し、最初から骨刃を細い形へ変えた。ルシアンが言う。
「学習したな」
大和は笑う。
「俺もね」
怪物が走ってくる。速度はそれほどでもない。だが重い。大和は避け、側面へ刃を突き込む。入る。しかし浅い。
「まだ硬い!」
怪物が身体を振る。大和は離れる。アキトが脚を槍で止め、シェルドが反対側から斬る。ルシアンは全身を見ていた。
「腹!」
「どこ!」
「下!」
背中、肩、脚には骨板がある。だが腹側の皮膚は薄い。
「了解!」
大和は怪物の下へ滑り込み、骨刃を上へ突き刺した。深く入る。
「入った!」
怪物が脚を踏み下ろす。大和は横へ転がって避け、刃を抜いた。傷はすぐに再生し始める。
「まだ」
同じ場所を狙おうとする。今度は怪物が身体を低くして腹を守った。
「学習してる?」
「反応だ!」
ルシアンが訂正する。
「じゃあ」
大和は正面から走った。怪物は腹を守るように身体を下げる。直前で大和は強化した脚を使って跳んだ。背中へ。
「今度はこっち!」
骨板へ攻撃するためではない。大和が背中に乗ると、怪物は頭を反らし、振り落とそうと身体を揺すった。腹が地面から離れる。
「アキト!」
アキトが身を低くした。下から槍を深く突き込む。怪物が暴れる。シェルドも傷を広げる。大和は背中から降り、開いた腹の傷へ一気に骨刃を突き入れた。深く。さらに押し込む。組織が黒く変色し、怪物の身体から力が抜けた。
「三」
大和は少し嬉しくなった。戦いが早くなっている。そして連携もいい。最初は一体の怪物を倒すだけで死にかけた。今は特徴の違う三体を、順番に倒した。しかも一人ではない。ルシアンの声に、アキトの槍とシェルドの刃が動く。その間へ、前より迷わず飛び込めた。
「俺たち、結構強くなってない?」
大和が笑うと、アキトが言った。
「調子に乗るな」
「またそれ」
その時、ロウが水場の周囲を見回した。
「四体目がいない」
シェルドが言う。
「逃げた可能性は?」
ルシアンは首を振った。
「痕跡がある」
岸の泥に、大きな何かを引きずった跡が残っていた。
「どこへ?」
跡は森ではなく、川沿いに下流へ続いている。大和たちは追った。少し進むと黒い体液が増えた。木も倒れている。そして匂いがした。大和が昨日嗅いだ死体の腐臭とは違う。生の肉の匂い。ルシアンが足を止めた。
「いる」
「四体目?」
大和も声を落とす。茂みの向こうから音が聞こえる。何かを噛みちぎる湿った音。硬い骨が割れる音。全員が静かに近づく。木々の間に怪物の背中が見えた。最初、大和は普通の大型個体だと思った。
四脚。その前の地面に、何かが横たわっている。別の怪物だった。死体ではない。脚が一本、まだ動いている。四体目の怪物は、その身体へ顔を埋めていた。噛む。引き裂く。飲み込む。
「……本当に」
大和が小さく言う。
「食ってる」
だが、それだけではなかった。捕食する怪物の腹が波打った。飲み込むたびに皮膚が盛り上がり、内側から何かが押しているように見える。やがて白い骨が身体の横から現れ、少しずつ形を作り始めた。
ルシアンが息を呑む。
「取り込んでる」
大和は昨日の異形を思い出した。推測ではなく、今まさに目の前で起きている。怪物は他の怪物を食う。そして食った身体を、自分の身体へ混ぜる。食われている怪物の顔が地面へ横向きになっていた。
目が開いている。まだ生きている。大和の背中が冷たくなった。
「止める」
一歩出ようとすると、シェルドが腕を掴んだ。
「待て」
「何で」
「観察する」
大和は食われている怪物を見る。
「まだ生きてる」
「怪物だ」
「分かってる」
目が動く。口も僅かに開く。声は出ない。昨日の「にん」という音が頭へ戻った。
「……嫌だ」
シェルドが大和を見る。
「何が」
「分かんない。でも、これ見てるの嫌だ」
大和は右手を握る。その時、食べていた怪物が顔を上げた。大和を見る。口の周りは黒い体液で濡れている。同時に身体が大きく反応した。背中が膨らむ。食べかけの怪物の脚が、途中まで取り込まれた状態で自分の身体へ繋がり、新しい脚として伸び始める。
大和は思わず一歩引いた。
「うわ。今、増えた」
ルシアンが低く言う。
「まだ途中だ」
シェルドも怪物の変化を確認した。
「観察は終わりだ。完成する前にやる」
大和は少し笑う。
「結局やるんじゃん」
「見る必要はあった」
「了解」
怪物が立ち上がる。脚は五本。いや、形成途中のものを含めれば六本になろうとしている。大和の右腕から骨刃が伸びる。脚にも熱が集まる。もう、その変化はかなり自然に起きるようになっていた。
「じゃあ」
怪物が低く鳴く。大和は構える。
「食事中悪いけど、そこまでにしようか」
地面を蹴る。怪物も大和へ向かって飛び出した。




