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この世界に残るもの  作者: 深空 律
第一部 知らない世界
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12/73

第12話 この村で

朝、大和は知識蔵で、昨日描いた板を見直していた。端に書いた自分の名前だけは読める。一文字ずつ確かめてから棚へ戻し、外へ出た。


「ヤマト!」


後ろから声がして振り返ると、レティが両手に籠を持って走ってきた。


「おはよう」


「おはよう!」


籠を持ったまま手を振ろうとするので、大和は片方を受け取った。


「何持ってるの?」


「朝ごはん。ヤマト、昨日の夜ここにいたでしょ」


「見てた?」


「ノルアが言ってた」


「情報回るなあ」


レティが笑って籠を開く。中にはパンと、卵に似たもの、焼いた野菜が入っていた。二人は知識蔵の前に座った。大和がパンを一つ取り、少し眺める。


「これ、水車で挽いた粉?」


「うん!」


食べてみると、昨日より少し滑らかだった。


「お。良くなってる」


「ドランが石臼直したの。それと、粉をふるって細かいのだけ使った」


「なるほど」


もう一口食べる。


「うまい」


レティの尻尾がさらに動いた。大和は自然に笑った。


「本当、分かりやすいな」


「何が?」


「何でもない」


二人で朝食を食べながら、動き始めた村を眺める。アキトが鍬を持って通りかかった。大和がパンを持った手を上げると、向こうも軽く頷いた。


「ヤマト、今日は何するの?」


レティに聞かれ、大和は少し考えた。最近は水車や知識蔵を勝手に始めていたが、今日は特に予定がない。


「何しよう」


「普通に働く?」


「普通に?」


「うん」


大和は少し笑った。


「それもいいな」


◇


午前、大和は畑で鍬を持っていた。隣にはアキトがいる。


「絶対に力を入れるな」


「信用ないなあ」


「斧」


「分かってます」


大和は慎重に鍬を土へ入れた。軽く持ち上げると、土がほどよく返る。


「お」


もう一度。同じようにできた。


「できるじゃん」


「普通だ」


「褒めてくださいよ」


「鍬を使っただけだ」


「俺には成長なんです」


アキトが少し笑った。二人で畑を耕していく。大和の身体なら、本気を出せばもっと早くできる。しかし今日は、あえてアキトと同じくらいの速度で動いた。


「これ、何植えるんです?」


アキトが作物の名前を言う。大和には分からない。


「食べたことある?」


「ある」


「どれ?」


形を説明されて、昨日のスープに入っていたものだと気づいた。


「ああ、あれか。うまかった」


「なら働け」


「はい」


しばらくして、今度はアキトが聞いた。


「大和。元いた場所では、こういうことはしなかったのか?」


「全然」


「畑は?」


「見たことはあります」


「また見ただけか」


大和は思わず笑った。


「俺、本当に何も作ってなかったな」


食べ物は買った。服も買った。道具も買った。家は誰かが建て、電気は勝手に来て、水は蛇口を捻れば出た。


「俺、作る側じゃなかったんですよ」


アキトがこちらを見る。


「何をしていた?」


「人と話したり、決めたり、進めたり……そういう感じ」


自分で言っていて、妙に説明しづらい。アキトも首を傾げた。


「よく分からない」


「俺も今、説明してて思いました」


大和は鍬を見た。


「でも、こっちに来てから初めてやることばっかりです」


「嫌か?」


少し考える。森で一人だった頃。怪物に追われたこと。


「最初は嫌でした」


「今は?」


大和は畑を見る。土があり、アキトがいて、少し離れた場所でも村人たちが働いている。


「今は、まあまあ」


「まあまあか」


「かなり」


言い直すと、アキトは満足したように頷いた。


「ならいい」


それだけだった。大和もまた鍬を動かした。


◇


昼になると、今度は子供たちに捕まった。


「ヤマト!」


一人の子供が木の棒を持っている。大和は警戒した。


「ばきっ、は禁止だからな」


子供たちが笑う。


「今日は違う!」


「今日は、って言い方が嫌なんだけど」


差し出されたのは、布の中に何かを詰めた丸い物だった。大和は受け取る。


「ボール?」


「ぼーる?」


「丸いやつ」


「遊ぶ!」


「何して?」


子供たちは顔を見合わせたあと、一人が球を蹴った。別の子が追い、さらに蹴る。


「サッカー?」


もちろんルールは違った。向こう側に置かれた二つの石まで球を持っていけばいいらしい。足だけではなく手も使う。かなり何でもありだ。


「ヤマトも!」


大和は少し迷った。力の加減を間違えれば危ない。


「軽くならな」


棒を振っていた子が球を抱えて走り出すと、なかなか追いつけなかった。追いつきかけたところで別の子へ渡され、今度は細かく方向を変えて逃げられる。


「お前ら速いな!」


「ヤマト遅い!」


「本気出したら危ないんだよ!」


球が来る。軽く蹴る。ぽん、と狙った相手の方へ飛んだ。大和は少し嬉しくなった。


「おお。力加減、うまくなってる」


今度は犬耳の子供が球を奪おうと身体ごとぶつかってくる。大和は反射的に踏ん張った。子供の方が跳ね返り、尻餅をついた。


「あっ。大丈夫!?」


一瞬ぽかんとしていた子供が、すぐに笑う。


「硬い!」


「俺のせい?」


「もう一回!」


「やめろ!」


周囲が笑った。そこへアビナが現れた。


「何してるニャ!」


「遊んでる」


「私もやるニャ!」


当然のように入ってくる。アビナは速かった。しかも子供相手なのに一切手加減しない。


「お前、大人だろ!」


「取れるなら取るニャ!」


「子供泣くぞ!」


「泣かないニャ!」


本当に誰も泣かない。むしろ必死でアビナを追いかけている。そのうちレティまで加わった。


「何で増えてるの!」


「楽しそうだったから!」


レティも速い。


「待て!」


大和は笑いながら追う。力を少しだけ使う。それでもレティがついてくる。


「速っ!」


「ヤマト遅い!」


「だから手加減してるって!」


「じゃあ本気!」


「危ないから嫌!」


横からアビナが球を奪う。


「隙ニャ!」


「お前!」


大和も走る。笑う。途中で、ふと気づいた。同じ身体で、少し前まで怪物から必死に逃げていた。今は誰かを追いかけて笑っている。その違いが妙に可笑しかった。


午後まで子供たちに遊びへ誘われ続けたが、大和は何とか逃げ出した。


「仕事!」


本当に仕事があった。


◇


倉庫ではシェルドが待っていた。


「遅い」


「子供に捕まって」


「言い訳」


「本当です」


「知っている。声が聞こえていた」


大和は少し恥ずかしくなった。


「楽しそうだったな」


「そう見えました?」


「見えた」


「まあ……楽しかったです」


シェルドはそれ以上何も言わず、いつもの記録板を出した。麦。入った数。出た数。残り。大和は昨日より少しだけ文字を読めるようになっていた。


「これ、麦?」


「そう」


「これは塩?」


「違う。乾燥肉だ」


「似すぎだろ」


「全然違う」


「初心者には同じです」


覚えて、書いて、間違えて、直される。そこへノルアが来た。


「ヤマト」


「助けて」


大和が即答すると、ノルアが少し笑った。


「何を?」


「これ。覚えられない」


ノルアは横へ座った。


「これは、こう」


手本を書いて見せる。大和も真似する。


「こう?」


「違う。こっちを先に」


「なるほど」


向こうで作業しているシェルドが言った。


「遊ぶな」


「勉強です!」


「手を動かせ」


大和は小声でノルアへ言った。


「先生怖いな」


ノルアが笑う。


「シェルドだから」


シェルドがこちらを向いたので、二人とも板へ目を落とした。大和は書きかけの文字を、ノルアの手本と見比べた。


「ノルア、字得意?」


「普通」


「俺には先生だな」


「いいよ」


「本当? じゃあ毎日」


返事を待つ間に、大和は付け足した。


「暇な時でいいから」


「……うん。教える」


ノルアは小さく笑った。


◇


その夜、村はいつもより騒がしかった。食事へ向かうと、料理も人も多い。


「何かあるの?」


レティが答える。


「今日はみんなで食べる日!」


「そういう日あるんだ。何のお祝い?」


「別に」


「別に?」


横からアキトが言った。


「収穫が一段落した」


「それ、お祝いじゃないですか」


「そうとも言う」


広場には火が焚かれ、料理が並び、酒らしいものまであった。大和は器を見た。


「酒あるの?」


アキトが差し出す。


「飲むか?」


「少し」


匂いからして強い。一口飲むと喉が熱くなった。


「うわ、強っ」


アキトは平然と飲んでいる。


「弱いのか」


「俺の知ってる酒より強い気がする」


アビナが横から匂いを嗅いで顔をしかめた。


「まずいニャ」


「飲んだことない?」


「嫌いニャ」


「匂いだけでそんな顔する?」


「ヤマトこそ、よく飲めるニャ」


大和は笑った。レティは酒を飲まず、料理を配っている。シェルドは普通に飲み、ルシアンは少しだけ。ノルアも小さな器を持っていた。大和はアキトと横並びに座り、火を眺める。


「こういうの、よくやるんです?」


「昔はもっとやった」


「今は?」


「怪物が増えてから減った」


大和は少し黙った。


「夜に外へ集まるのが危ない?」


「それもある」


アキトは酒を飲み、それから続けた。


「人も減った」


大和は知識蔵に使っている空き家を思い出した。


「……そうなんだ」


「気にするな」


「いや」


大和は火を見た。


「俺が怪物を減らせたら、こういう日もまた増やせます?」


「増やせるかもしれない」


「じゃあ、やります」


アキトはすぐにこちらを見る。


「無理はするな」


「分かってます」


「本当に?」


「多分」


アキトがため息をついた。


「そこが信用できない」


大和は笑った。


「でも、俺が怪物を倒したい理由、増えました」


アキトは何も言わない。大和は周囲を見る。


子供たちが走り、大人たちが笑っている。レティは料理を運び、アビナは誰かの皿を狙ってシェルドに止められている。ルシアンは少し離れたところからそれを眺め、ノルアは笑っていた。


「こういうの、無くならない方がいい」


アキトは静かに頷いた。しばらくすると、今度はレティに腕を引っ張られた。


「ヤマト!」


「何?」


「こっち!」


火の近くでは、木を叩く簡単な楽器に合わせて誰かが歌っていた。大和は嫌な予感がする。


「踊るの?」


「うん!」


「俺、無理」


「なんで!」


「踊ったことない!」


「みんな適当!」


本当に適当だった。ある程度決まった動きはあるらしいが、好きに身体を動かしている者も多い。大和はその中へ連れ込まれた。下手だった。子供たちが笑う。


「ヤマト変!」


「分かってる!」


少し酒が入っているせいか、恥ずかしさは薄かった。レティが手を取って回る。


「うわ!」


「ほら!」


「速い!」


反対からアビナが腕を取る。


「こっちニャ!」


「待て待て!」


完全に遊ばれている。周りも笑っている。でも、嫌ではなかった。むしろ楽しかった。


しばらくして、大和は何とか輪から逃げ出した。


「休憩!」


身体は全く疲れていない。ただ精神的に疲れた。少し離れた場所へ座ると、隣にはルシアンがいた。


「逃げたか」


「お前も踊れよ」


「嫌だ」


「即答」


「見る方がいい」


大和は少し笑う。


「ノルアと似てるな」


「どこが」


「見る方が好き」


ルシアンは火を眺めたまま言った。


「あいつは考えすぎる」


「ルシアンは?」


「必要なことだけ考える」


「自分で言う?」


ルシアンが僅かに笑う。大和は気づいた。最近、ルシアンが笑うことが増えた。


「なあ」


「何だ」


「俺、最初より信用された?」


ルシアンは少し考える。


「最初から妙だった」


「最初から?」


「安心はした」


大和はルシアンを見る。


「信用とは違う?」


「安心することと信用することは違う」


大和は器を持ち直した。


「何で安心した?」


「分からない」


またそれだった。


「匂い?」


「かもしれない」


大和は少し考える。アビナも匂いを嗅いだ。ノルアは「なんとなく」と言った。村の者たちも自分を妙に早く受け入れた。


「猫と犬って、そういうものなのかな」


ルシアンが大和を見る。


「お前はそう思う?」


「多分」


大和はそう答えた。ルシアンは少し黙ったあと、「そうか」とだけ言った。大和も深くは考えなかった。そこへノルアが来る。


「ここにいた」


「逃げてきた」


「踊らないの?」


「見てた」


「やっぱり」


ルシアンが立ち上がる。


「俺は戻る」


「踊る?」


「違う」


「分かってる」


ルシアンが去り、ノルアが大和の横へ座った。少しだけ距離を空けて。


「楽しい?」


「楽しい」


「踊るの嫌って言ってた」


「嫌だった」


「でも笑ってた」


大和は少し止まる。


「そうだった?」


「うん」


火を見る。


「まあ、楽しかった」


ノルアも笑った。しばらく二人で人々を眺めていると、ノルアが静かに聞いた。


「ヤマト。帰れる方法が見つかったら、帰る?」


大和の表情が少し変わった。前にも似たことを聞かれた。その時は、帰れるなら帰りたいと答えた。今も、元の世界が気にならないわけではない。母親。父親。自分が眠ったあとのこと。帰れるなら帰りたい。


その気持ちはある。それなのに、今度はすぐに答えが出なかった。


「……分からない」


ノルアが大和を見る。


「前は帰りたいって言った」


「言った」


「今は?」


大和は少し考えた。


「帰りたい。でも……」


言葉が止まる。ノルアは待った。


「ここも、捨てて帰るのは嫌かもしれない」


自分で言って、大和は少し驚いた。捨てる。そんな言葉が出るとは思っていなかった。


「村を?」


「みんなを」


ノルアが僅かに目を伏せる。


「そっか」


「何?」


「別に。嬉しかっただけ」


大和は少し照れた。


「そういうの普通に言うんだ」


「言ったら駄目?」


「駄目じゃない」


再び火を見る。少しして、大和が何気なく尋ねた。


「ノルアは? 俺が帰ったら」


ノルアはすぐには答えなかった。ノルアは持っていた器を膝へ下ろした。火の方を見たまま、指で縁をなぞっている。


「嫌」


ノルアが言った。大和が少し驚く。


「そんなに?」


ノルアは困ったような顔をした。


「今は、理由あるから」


「今は?」


「うん」


「最初は?」


「なかった」


「……?」


「なんとなく」


また、その言葉。大和の中に少しだけ引っかかる。しかしノルアは続けた。


「今は一緒に話したから。ヤマトのこと、少し知ってる。だから」


「今は、なんとなくじゃない?」


ノルアが頷いた。


「うん」


大和は少し笑った。


「それなら、俺も同じかも」


「何が?」


「来たばっかりの頃は、飯と寝床があればいいと思ってた」


大和は村の者たちを見る。レティの笑い声が聞こえる。アビナがまた誰かに怒られている。アキトは酒を飲み、シェルドは片付けを手伝い、ルシアンは子供に何か聞かれていた。


「帰ったら、明日の字の勉強もなしだな」


「まだ、名前しかまともに書けないのに」


ノルアが笑った。大和は反論できず、器に残った酒を飲んだ。


◇


夜も遅くなり、人々は少しずつ家へ戻っていった。大和も寝床へ向かう途中、知識蔵の前を通った。まだ灯りがついている。


「誰?」


中へ入ると、シェルドが一人で板を整理していた。


「まだ仕事?」


「今日増えた」


地図。収穫。在庫。水車の修正。料理。大和は少し笑う。


「嫌だって言ってたのに」


「誰のせいだ」


「俺?」


「お前以外にいるか」


大和も手伝い、板を棚へ並べていく。その途中で、ふと思ったことを口にした。


「シェルド。この村、もっと大きくできます?」


シェルドの手が止まる。


「なぜ」


「いや。怪物を減らして、使えなくなった道を使えるようにして、水車みたいなのを増やして、食べ物ももっと作れて……他の村とも行き来できたら」


言いながら、大和自身もどんどん先の話になっていることに気づく。


「人が増えたら、どうなるのかなって」


「増やしたい?」


「まだ分からない。でも、できそうな気がして」


シェルドはすぐには答えなかった。


「大きくなれば、問題も増える」


「食料?」


「食料。水。争い。守る場所。決めること」


大和は頷く。


「村は小さいから顔が見える。誰が何をしているか分かる」


シェルドは知識蔵の棚を見た。


「大きくなれば、それができなくなる」


大和も在庫記録や地図を思い出す。


「だから書く?」


シェルドが少し笑った。


「そこへ戻るのか」


「結構重要かも」


「もし本当に大きくするなら、一輪車や水車だけでは足りない」


「何がいる?」


「決まり。役割。食料。守る者。決める者。それを皆が納得する形にする必要がある」


大和は黙った。一瞬、国という言葉が頭に浮かんだ。だが、まだ遠い。今は村だ。


「大変そう」


「大変だ」


「やめとく?」


「お前が始めた話だ」


「想像しただけです」


大和は笑った。それでも、胸のどこかが少し動いていた。この村がもっと安全になる。もっと暮らしやすくなる。人が集まる。悪くない。


「まあ、そのうち」


「そのうち?」


「まず俺、文字覚えます」


シェルドが頷いた。


「それが先だ」


「そこまで言う?」


◇


寝床へ戻り、大和は横になった。今日は何をした。畑を耕した。子供と遊んだ。倉庫で文字を覚えた。酒を飲んだ。踊った。話した。大きなことは何もしていない。それなのに、妙に満たされていた。


目を閉じると母親の顔が浮かぶ。帰りたい。会いたい。その気持ちは消えないし、消えてほしくもない。でも同時に、今日ここにいて良かったとも思う。二つが一緒にある。


「……困ったな」


大和は小さく笑った。異世界に来た。そう思っている。帰る方法は分からない。だったらここで生きる。最初は仕方なく、そう考えていただけだった。今は少し違う。明日は何をするだろう。そう考えてから眠るようになっていた。


翌朝。大和が外へ出ると、いつもの村が動き始めていた。アキトは畑へ向かい、レティは料理を運んでいる。シェルドは誰かに指示を出し、ルシアンは道具を確認している。ノルアは知識蔵にいた。そしてアビナは、なぜか木の上にいた。


「何してんの?」


見上げると、アビナが枝の上から答えた。


「見てるニャ」


「何を」


「村」


大和はアビナの見ている方へ顔を向けた。


「いいな」


「登る?」


「木、折れない?」


アビナが笑う。


「ヤマトなら折るニャ」


「じゃあやめる」


大和はそのまま村を見渡した。小さな家々。畑。川。森。遠くには怪物がいる。危険もたくさんある。それでも、昨日までとは少し違って見えた。知らない世界の、知らない村ではない。


「……俺の村」


口から出て、自分で止まる。


「いや」


少し考えて言い直す。


「俺たちの村、か」


木の上から声が返った。


「そうニャ」


何でもないことのように答える。大和は少しだけ笑った。


「そっか」


今日も、ここで一日が始まる。


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