学生も楽じゃない-6
放課後
いつも通り生徒会室に集まった私たちは、ソファーに座りながら各々の進捗状況について報告していた。
「…では、日程表はこれで確定で。あとこちらが、当日競技運営に協力してくださる運動部の一覧です」
割とまじで、何でこんな事までしなきゃいけないんだ?と言う話なのだが。
普通こう言うのは、先生たちがやるものだろう。
面倒だからって、生徒会に丸投げすんな!?
そう、私がここ数日忙しく動き回っていたのは…
「体育祭の日程表は全員分刷って、明日にでも各クラスに配っておいてくれ。仕事の割り振りの方は?」
体育祭の準備のためだったのである。
「こちらで決めておきました。出場競技には被らないようにしておいたので、問題ないと思います」
「分かった。引き続きそのまま当日も頼む」
「はい」
いまだに、なぜ私がこんな所にいるのかは本当に謎だが。
「よく話聞いてもらえたね?特待生なのに」
「うっさい」
そして毎度毎度、特待生いじりしてくるコイツがうざい。
と言うか、そもそも…お前が私を特待生として入れたんだろうが!?
こちらに選択権なんて一ミリもなかったのに、なぜこんなに言われなければならないのか。
私にだって一応、一般試験で合格するくらいの学力はある。
まあ試験には、どう頑張っても間に合わなかったため、こんなことになっているのだと思うが。
特待生制度を使って、無理矢理私をこの学園に捩じ込んだと聞いた時は…流石にドン引きした。
と言うか、私…特別試験すらも受けてないよね?
権力者こわぁ…と言う感じである。そうまでして、私をこの学園に入れたかったのかと言う話である。
そもそもこっちは、本当に前日まで、何も聞かされていなかったわけで…
知らぬ間に引越しがなされ、問答無用で寮に放り込まれるわ。
なんかもう荷解きも終わっていて、「明日は入学式ですよー」と言われるわ…私は完全に宇宙に旅立っていた。
その後、早すぎる再開を果たしたコイツに、ブチギレたのは言うまでもない。
「校内で運動部と鬼ごっこしてたって、噂で聞いたけど?」
「何でそんな噂が出るのよ…」
予想外に愉快すぎる噂に、思わずため息が出る。こちとら、真面目に仕事してただけだって言うのに。
これじゃあまるで、私が遊んでいたみたいじゃないか。
確かに私の顔を見た途端、なぜか逃げて行った運動部を追いかけはしたが…
ん?側から見れば、鬼ごっこに見えない事もないのか?
「真顔で屈強な運動部の男たちを追いかけてた女は、本物の鬼みたいだったって」
「誰が鬼だ」
失礼極まりないだろう。こちとら花の女子学生だぞ?
だが…通りで最近、怯えに似た視線を向けられることが多くなったはずだ。
てっきり仕事の所用で、屈強な男たちを従えてる所為かと思っていたのだが…そう言うわけではなかったらしい。
「どちらと言えば、シアは幽霊っぽいよね…真夜中に会ったらビックリしそう」
「実体あるし。と言うか、髪触んな」
許可もなく私の髪をいじっている奴の手を振り払い、じろりと隣を睨みつける。
よくもまあぬけぬけと…真夜中に私に会ったところで、対して何も思わないくせに。
この銀髪と碧眼の瞳から、幽鬼だとか揶揄われる事は昔からしばしばある。だから別に、今更何を言われたところで興味はない。
「三つ編み解けてきてる」
「アンタが触ったからだろうが」
どちらと言えば、私は真逆の存在なのだが。
サイドで三つ編みにしていた髪が解かれる。
ふわりと広がった銀髪が視界の端に入り、嫌そうな顔で奴を睨みつける。
「たまには別の髪型もしたら?」
「やだめんどい」
「いや別に、君がするわけじゃないでしょ」
正論だがそう言うことではないのだ。
年頃の女の子と言うのは、髪型一つで何かあったのかと勘繰る生き物だ。
無駄に目立っている自覚のある私は、切実に、これ以上注目を集めたくない。
「ほらこっち向いて」
「…」
このまま髪を下ろしておくと言う選択肢はなく、ヘアゴムは奴の手の中…
「…ちゃんと結んでよ」
非常に不本意ではあるが、素直に従う他ないのである。
腰を浮かしてそちらを向けば、奴もこちらを向いた所為か、私の膝と奴の足がぶつかる。
これが身長の差というやつかっ!?
膝同士が当たらない時点で、足の長さが全然違うということなのだろう。普通に腹立つ。
私だって平均以上はあるのだから、別にチビだと言うわけではないのに。
「髪、サラサラになったね」
「…おかげさまで」
無遠慮に私の髪に手櫛を通す奴を、じろりと睨むが全く効いてる様子はない。
と言うか…あの過酷な旅の道中の私の髪と今の私の髪を比べるのは、どう考えても酷だろう?
私だって最低限の身だしなみは整えていたが、ヘアケアにこだわる時間があったわけもない。
そもそも大抵の場合は、顔も髪もベールで隠れていたし…はっきり言って、そんなに気にする必要もなかったのだ。
普段から素顔を見せるパーティーメンバーには、どう思われようが興味なかったし。
「ばあやも喜んでたよ。今まで買い溜めていた化粧品が、日の目を見るって」
「ソウデスカー」
そのばあやさんのスペシャルケアを、毎晩・毎朝?受けている私の髪が輝いているように見えるのは、決して気のせいなんかではない。
と言うか、髪に関わらず日々全身ケアされているため…肌艶とか良くなったのが自分でもわかる。
お貴族様ってすげー…
初めは「私なんかにお手間をとらせてしまって…」と恐縮しきっていたが、今ではもうなされるがままだ。
あんなに楽しそうな顔を見ていたら、「もう全てお任せします」としか言えない。
こんな所にまで着いて来てもらったばあやさんには、もう本当に頭が上がらないのである。
「顔上げて」
突然顎を掴まれ、そのまま上を向かされる。
ルビーのような深紅の瞳に見下ろされ…
「…っ」
非常に不本意だが、僅かに息を詰めてしまった。
一体いつから、こんな真っ直ぐに人を見るような奴になったのか。らしくなさすぎて、どうにもむず痒い。
ついつい伏せ目がちにして、視線が合わないようにしてしまう。断じて逃げたわけではない。
あと、正面からサイドに髪をまとめようとしている所為か…今更ながらに無駄に距離が近い。
側から見れば、抱きしめられてるようにしか見えない気がする。
髪を梳く音と時折首元に触れる奴の熱が、この静寂な空間では否応なしに意識させられる。
こんなこと、初めてでも何でもないのに?
前とは違う感覚に内心首を傾げながらも、器用なコイツは、あっという間に結び終えたようで…
「うん、やっぱり赤にして正解かな」
「…は?」
訳のわからない事を言ってくるのであった。




