学生も楽じゃない-7
「まあまあ!とっても可愛いですわ!」
アンネマリーの声に、一体今どう言う状況だったのかと、ハッと我に返る。
「ウィル、エルシアと仲がいいのは結構だが…場所は選べよ?」
「分かってますよ」
呆れたような殿下と楽しそうなアンネマリーの視線が、グサグサと突き刺さる。
いや待って…今、会議中じゃん!?
流れるように奴に会話を持って行かれてしまったため、自分が今の今まで何をしていたのか、すっかり忘れてしまっていた。
自分のやらかしに頭を抱えるが、隣の奴は「髪崩れるから触らないで」とか言って、私の両手を掴む始末だ。
お前はもっと反省の色を見せろ!?
「まあ報告会も終わったし、別に好きにしてくれてていいんだが…」
「わたくしとしては、そのリボンの意味についてお聞かせ願いたいですわね!」
「お、それは確かに気になるな。そのリボン、赤地に金色の刺繍が施してあるし、しかもその柄って…」
「きゃー!やっぱりそう言う事ですのね!?」
本人たちそっちのけで盛り上がっている殿下とアンネマリーに、もうどこからツッコミを入れたらいいのか分からない。
ひとまず…私の失態は、お咎めなしって事でOK?
と言うかそもそもこの2人、自分たちから望んで空気に徹したのだろう。
上から数えた方が明らかに早い、身分の高いこの2人が空気になるって、どんな状況だと言う話ではあるが…割と毎度こんな感じである。
アンネマリー曰く…「エルシアたちのやりとりを見てるのは面白いですわ!」とのことらしい。
一体どの辺が?と甚だ疑問なのだが。
まあそれでも、可愛い友人が笑顔になってくれると言うのなら…コイツとのストレスの溜まる会話にも、意味はあるのだろう。
だが正直、殿下の方は謎だ。
私たちの関係を知った上で、今の状況を良しとするのはあまりにも…いやまあ、深くは考えないでおこう。
考えたところでどうにもならない事は、嫌ってほど知っているのだから。
「ご想像にお任せしますよ」
やたらと高いテンションの2人の相手を諦めたらしい奴は、私の両手を握ったまま突然立ち上がった。
「え、ちょ…!」
引っ張られるがままに何とか立ち上がったものの、バランスを崩して、そのまま奴の方に倒れ込んだのは言うまでもない。
「髪型気になるんでしょ?心配しなくても、ちゃんと三つ編みにしたけど」
そして、流れるようにエスコートされた私は、生徒会室の端にある鏡の前に立たされて…
「うわぁ…編み込みとか相変わらず器用…」
その完成度の高さに、思わずドン引きするのであった。
まじでコイツに苦手なこととかないのか?
「ふむ、初めてしたけど…我ながら良い出来だね」
「ソウデスネー」
もういい、ツッコミは放棄しよう。
それよりも今は…
「このリボンなに?なんか殿下とアンネマリーが色々と騒いでたけど…」
何かあるらしいこのリボンについてである。
正直私には、何の変哲もないただのリボンにしか見えないのだが。
いやまあ、明らかにその辺の行商に売っているやつより、断然高いことだけは分かる。
「そのままつけて帰ればいいよ。後は、ばあやが察してくれると思うし」
つまり何も分かっていないのは、私だけだと言うことなのだろう。
もうやだ…
おそらく貴族なら、察するものだと言う類のことなのだろうが…あいにくこちとら、生まれも育ちも平民なのである。分かるわけもない。
こうしたことは、この学園に入ってから結構よくあって、その度にアンネマリーに教えてもらっている。本当に感謝しかない。
まあ、あの楽しそうな様子を見るに、今回は教えてくれなさそうだが…
目をキラキラさせながら、こちらをガン見してくるアンネマリーは可愛い。
本人はキツイ顔立ちを気にしているようだが、言動から何まで全て可愛い。
アンネマリーなりのこだわりがあるのか、アイツ関連だと、こうしたことはあまり教えてくれない。
本人曰く、「わたくし、そう言う無粋な真似は致しませんの!」とのことらしい。
ちょっともうよく分からない。
胸を張りながら得意顔で言い切ったアンネマリーは、とても可愛かったとここに記しておく。
と言うかそもそも…貴族って何かと細かすぎる!?
これでも、基礎的な事はちゃんと習って来たのに…
一応、考えなしにこの学園に放り込まれたわけではない。今思えば、あの時から着々と準備は進められていたと言うことなのだろう。私が知らなかっただけで。
「は!そう言えば殿下、この前の昼休みのことなんですけれども…」
「アンネマリー、やめてー!?」
私の可愛い親友は、ちょっぴりおしゃべりなところが玉に瑕だが。
でもまあ、話す相手はきちんと選んでくれているのだから、流石としか言いようがない。
咄嗟に止めに駆け寄ろうとしたのだが、それよりも早く?と言うか元から?奴に手を掴まれたまま…正確に言えばエスコートされたままだったため、ろくに身動きが取れるわけもなかった。
その結果…
「ウィリアム様、エルシアのことを抱きしめていましたの!」
「おー、相変わらず仲良いなー」
殿下にまで、あの失態を知られる羽目になるのであった。
と言うか、相変わらずってなんですか?相変わらずって…!?
殿下がこの調子だから、アンネマリーの妄想?はさらに加速してしまうのだ。
初対面でいきなり両手を掴まれて「わたくしはお二人のこと応援していますわ!」って、真剣な表情で言われた時の私の気持ち、考えたことってあります?
見当違いもいいところだったのだが、すぐ側にいたアイツが「ありがとう」なんて言って肯定してしまったため、後に引けない状況になって今ここなのだ。
まじでコイツ、ろくなことしかしないな?
背後の奴を見上げるが、相変わらず涼しい顔で、何を考えているのかまるで分かりやしない。
そう、本当に分からないのだ…コイツが一体何をしたいのか
「なに?俺に見惚れてた?」
「自意識過剰」
もう何百回…下手したら何千回も交わしてきたこのやり取りも、きっともうすぐ終わるはずなのだから。
だから…
「ねえウィル…あんたは幸せになりなさいよ」
私は柄にもなくコイツの幸せを願うのだ。
きっと私は…最後まで見届けることはできないのだから。




