学生も楽じゃない-4
「ねえ…ねえってば!?」
「…」
いくら呼びかけてもまるで返事がない奴に、流石に様子がおかしいと思わず顔を顰める。
なんと言うか…らしくない?
あの後コイツは、体調不良で倒れ込んだ女子生徒たちには見向きもせずに、私の手を取ってその場からすぐに立ち去った。
いくら女嫌いとは言え…普段のコイツなら、女子生徒たちを保健室に連れて行くくらいの配慮はしたはずだ。
…え?女嫌いだったのかって?
うん、まあ…昔から色々と苦労してたらしいよ?
私も初めて出会った時には、胡散臭い笑み浮かべながらものすごい警戒されたものだ。
そんな奴に対し…
『その胡散臭い笑みやめろ』
と思わず素で言ってしまった私は悪くないはず。
だってこれから、何年かかるかも分からない旅路を一緒に過ごすんだよ?命預けることになるんだよ?
流石にこうもあからさまに本心を隠す奴を、信頼したいとは思わない。
あちらも私を、信用する気なんて一切なかっただろうし。
そんな最悪なファーストコンタクトを得た私たちが…それから3ヶ月ほど?一言も口を聞かなかったのは言うまでもない。
まあそもそも、ほとんど別行動だったのもあるが…話しかけるなオーラを出している奴に、わざわざ話しかけに行くほど私のメンタルは図太くないのである。
…ん?いやでも今の状況…ちょっとあの時と似てるな?
あの時もこうして、無言で手を引かれていた気がする。
10年前
「ねえ…ねえってば!?」
「…」
マジで何なんだコイツ?私と話す気はこれっぽっちもないってか!?
掴まれた腕を思いっきり振り払ってやりたいのだが、ガッチリと掴まれていて私の力では振り解けそうにない。
これ、絶対跡になってる気がする…
子供の肌は柔らかいんだぞ!?
色んな意味でもっと配慮してほしいが、いくら呼びかけても返事がないのだから打つ手なしである。
一体なぜ、こんなことになってしまったのか…
いやまあ、原因は私なのだが。
初めてのダンジョン探索で、ピンポイントで転移の罠を踏み抜いた私。
「あ」と思った時にはもう遅く…
なぜかコイツと一緒に、よく分からない場所へと飛ばされていたのであった。
言い訳をさせてもらうと、ここはすでに開拓し尽くされたダンジョンで、あらかじめトラップの位置とかは教えてもらっていた。
私はその情報に元に歩いていたため、おそらくあれは、事前情報になかったものなのだろう。みんなも驚いた顔してたし?
そもそもこんな初心者用のダンジョンで、転移の罠がある方がおかしい…
ダンジョンは突然変異するとも言われているため、何事も絶対はないと知っていたが…流石に初めての探索で、これはないだろうと言う話である。普通トラウマものだぞ?まあ私は、初めにこう言うことを経験できてよかったと思うタイプだが。
あと…なんでコイツは一緒に飛ばされて来たんだ?
チラリとアイツの横顔を見るが、完全なる無表情で、その心の内を読み取れるはずもない。
初対面のアレから一切喋っておらず、もちろんわざわざ近寄るわけもない。これだけ距離が近いのは、非常珍しいことだろう。
まつ毛…長!?肌…白!?
見た目だけはドンピシャ好みで、めちゃくちゃ可愛いのだ。
是非ともお友達になっていただきたい…女の子ならの話だが。
実際は男で、性格も終わってる。人生そう上手くはいかないと言うことなのだろう。
と言うか、私が罠に嵌った時の立ち位置的に…コイツが一番離れていたと思うのだが?
自分から一緒に着いてくるなんて、相変わらずよく分からない奴だ。まあ、あの胡散臭い笑みがなくなっただけマシだが。
どうやら私の話はちゃんと聞いていてくれたらしい。
返事も何もなかったため、完全にスルーされたのかと思っていたが…きっと、私相手に愛想を振り撒くのがバカらしくなったのだろう。
薄暗い洞窟の中、太陽が差さないこの場所では、どのくらいの時間が経ったのか、どのくらい歩いたのかもうよく分からない。
似たような道ばかりで、同じ場所をぐるぐると回っているような気もするし…
コイツ、本当に分かって歩いてるのか?
初めて飛ばされた地点から、かなり離れてしまったことだけは分かる。ちなみにその場所に戻れと言われてももう戻れない。
まあ、モンスターに遭遇しないだけまし…
ーーーグワァ!
「モンスターデター」
やはり人生、そう上手くはいかないのである。
奴が扉を開いた先にいたのは…
「ドラゴン???」
誰もが知っているあの空飛ぶトカゲである。
もちろん、こんな下級ダンジョンに居ていいはずはない。ここに居るのは、スライムくらいなはず…マジで意味がわからない。
でも待って…これ、いわゆるボス部屋だよね?
初めて見たが、ダンジョンボスはボス部屋から出て来れないのが決まりだ。
なら、これ以上足を踏み入れなければ、無理に戦う必要は…
ーーーグワァァァ!
「いや、何で入ってるんだよ!?」
ドラゴンからの風圧を受けた奴の金色の髪がバサバサと靡く。
いつの間に腕が離されていたのか、今の今まで隣にいた奴がなぜか扉の先…ドラゴンの目の前に立っているのだ。
え、何?杖、取り出してるけど…本気でドラゴン狩りするわけ?
ちょっと意味が分からない。
ぱっと見、下級ドラゴンだとは思うが…それでもドラゴンはドラゴンだ。
他のモンスターとは格が違う。一人で倒すものではない。
この歳で旅のメンバーに選ばれるくらい、実力は高いのだろうが…流石に前衛が居なきゃ、その能力は十分に発揮できないはずだ。
わざわざ倒す必要のない、勝てるかも分からないモンスターの前に立つって…コイツ、自殺志願者か?
顔がこれでもかってくらい引き攣るが、もうすでに戦闘は始まっているのだから腹を括るしかない。
ドラゴンって本当に火を吹くんだなぁ…
謎に感心してしまいながらも、自分に炎熱耐性の加護を付与して、そっと右手の銀色の腕輪に触れる。
「イメージ…」
先生に色々と教えてもらったのだが、結局全てはイメージがものを言うらしい。
あれだけ授業を受けて、結局それかよ…と言う感じではあるが、まあ確かに想像できないものを現実に具現化するのは、普通に考えて無理だろう。
有名どころで言えば…何でも突き通す矛と何でも防ぐ盾の話だ。
そんな矛盾だらけのものを、明確に想像しようとするのは難しい。
故にこの二つは、決して同時に存在し得ることができない。世界が矛盾を許さないかのように。
まあ逆に言えば、片方ずつなら可能かもしれないと言う話だが…って、今はそれどころじゃない。
見るからに劣勢である奴は一旦隅に追いやり、目を瞑って無駄な雑念は捨てる。
何も難しいことはない。私は私の思うように動けばいい。
すると、徐々に右手に暖かなものが集まってきて…
「まあ大丈夫でしょ。私、本番には強いもの」
私は目を見開き、一直線に駆け出したのだ。
「トカゲは大人しく地面を歩いていてくださーい」
私の乱入で、あっという間に方がついてしまったのは言うまでもない。




