夢と現実の狭間-3
ベッドの上で正座するエルシアとその対面で足を組みながら椅子に座っているウィル。一方は冷や汗をかきながら俯いており、もう一歩は無表情で圧をかけている。空気はいつになくピリリと張り詰めており、二人の間に流れる沈黙はひどく重苦しい。
「…シア」
ーーービクッ
あからさまに反応してしまい、気まずそうな顔をするが…
「このままだんまりを決め込むつもり?」
相手はそんなことお構いなしに、容赦なく追い詰めて来るのである。
嫌だー!?この人怖いー!?
先ほど魔道具云々の失言をかましてしまったため、さっきからウィルが「早く話せや?」的な圧をかけて来る。
完全にやらかしてるよ、私…
魔道具の話をしてコイツが興味を持たない訳がないのである。しかもこの反応、懐中時計型と言うのは非常に珍しいのだろう。やはり私の想像通りかなりの年代物だったのか。
「こうも頑なになるとか…何か話せないことでもあるわけ?」
そして黙り込んでいると更に懐疑心を深めてしまい、状況はますます悪化する一方なのである。
黙っていてもダメ、話してもダメ…もうこれどうすればいいんだ?
いわゆる詰んでいると言うやつである。
「はあ…」
あからさまにため息を吐かれるが、こちらは何もできないわけで…
「懐中時計型の魔道具…確か古い文献で、「過去を改変する魔道具」って見たことがあるんだよね」
「…え?」
今、ほとんど確信に迫られた気がしたんだが?
恐る恐る顔を上げると、ウィルと真っ向から視線がかち合う。
「何でも昔の大魔法使いの1人が、普通の人生を送ってみたかったとか言って過去に遡れる魔道具を作ったんだって」
何それ…
発想からもう、何度人生を繰り返そうが普通の人生を送れるわけがない。今世は諦めて来世に期待した方がいいと思う。って、今はそんなことどうでもいい。その魔道具のバックグラウンドとかに興味はない。それよりも重要なのは…
「その人は、結局どうなったの?」
元の時間軸に戻れるか否かと言う点である。
「さあね?この世界がその人が過去に戻って歩んだ世界なのか、はたまた過去に遡ることなくそのまま生涯を終えた世界なのか…証明する手立てがないし、何よりかなり古い文献だったんだよね。大半は文字が消えていて読めなかった」
まじか…
手掛かりがあったかと思いきや、実は何もなかったと言うオチだった。しかもウィルがその程度しか知らないと言うなら、それ以上の情報は出てこないと言うことだろう。そう言った類の文献は、基本的に全て魔塔に集められるのだから。
頼みの綱がまさかの空振りで、もう項垂れるしかない。
「だから正直、シアの話を聞くまで実在するとは思っていなかったよ」
そして今までの私の反応から、アイツの中で何かしらの確信を持たせてしまったようである。
あれ、何でそんな実在する前提で話してるの?ここには存在しないんだよ???
真っ直ぐにこちらを見つめて来る瞳から逃れるように、しれっとあさっての方を向こうとしたのだが…
ーーーガッ!
「大事な話は、ちゃんと目を見て話そうって習わなかった?」
思いっきり頬を鷲掴みにされて、強制的に顔を固定されてしまった。
痛い
顔近い
…笑みが怖い
完全に目は笑ってないのである。
「で、君は何年後の世界からやって来たのかな?」
「あははは、何のことで…」
無駄だとは分かっていても、最後まで足掻き続けようとしたのだが…
「この時期のシアは、媒体…神器がないと聖女の力は使えなかったよ」
あ、詰んだ
どうやら初っ端からやらかしていたようであった。
確かに言われてみれば、この時期はまだ神器無しでの制御力はイマイチだった気がする。範囲とか狙いなどが上手く絞れないため、基本的に神器を杖の形にしてそれを媒介に照準を合わせていたはずだ。杖があった方が軽い接近戦もこなせるし、歩く時にも便利だし…まあ単純に、見た目が聖女っぽいって言うのが理由の大半を占めていた気がするが。
聖女の杖は割と有名で、ベールと一緒にある種のトレードマークとなっている。大抵の姿絵にはワンセットで描かれており、一瞬で聖女の絵だと分かる仕組みになっているらしい。それなら中身は誰でも良いのかと言う話だが。
ちなみにあの杖、いつも被っている白いベールと神官服に合わせて、白と金を基調としたシンプルだがどこか神聖さを醸し出す雰囲気にしてあるのだが…これがまさかの高評価。
商会長の話だと、聖女の杖と言う子供向けのおもちゃ?として売られ、現在爆売れ中らしい。確かに一回本物を見せてくれとは言われたけど…まさか商品化のためだったとは思わなかった。商売魂が逞しすぎて、もう流石としか言えない。
とまあ話は脱線したが…つまりあの暖炉に火を灯した段階で、すでに怪しまれていたと言うことなのだろう。完全にやらかしてる。
と言うか、それならそうと早く言ってくれればよくない?今までの私の足掻きとは?
「まあシアの反応からして、そこまで先の未来では無さそうだし…5年後くらいが妥当かな」
もう唖然とするしかない。このまま何も言わなくても全部当てられそうな勢いである。やはり黙っていても意味はなかったらしい。
「もうやだ、全部コイツの手のひらの上じゃん…」
私は過去のウィルにも勝てないのか…精神年齢的には5歳年上と言うことになるのに。
あれ、改めて自覚するとめっちゃショックなんだけど???
「いや俺のと言うか…」
言いようのない悲しみに打ちひしがれている私に対し、ウィルはどこか気難しそうな表情をしていて…
「シアが誰かの手のひらの上で、踊らされてる気がしてならないんだけど」
何やら恐ろしい事を言って来るのであった。
「ちょっと、冗談でもやめてほしいんだけ…」
ど?
ここまでに至る経緯を振り返り、思い出してしまった。
「その反応、身に覚えがあるみたいだね?」
そう言えば、色々と面倒ごとに巻き込まれていたなと。
「未来の俺は一体何をしてるわけ?」
絶賛コイツと喧嘩中だったなと。
「…」
「まただんまりか…まあ別にいいけど」
「…へ?」
予想外の返事が返って来て、気の抜けた声が漏れ出る。
今まで散々詰め寄って来たのに、突然あっさり引いたのは一体どう言うつもりだ?
嫌な予感がする。こう言う時は決まって、私に取って不都合な状況にしかなり得ないのだから。
顔だけは抜群に良い目の前の男は、目元を和らげ天使のような笑みを浮かべて…
「君がこのまま、この時代を生きていけば良いだけの話だし」
「いや、それは絶対ダメでしょ!?」
悪魔のような囁きをして来るのであった。




