夢と現実の狭間-2
「何…?」
よくよく見たらウィルも、顔の輪郭などが緩やかで若干幼い。
これでよく気が付かなかったな、私…
自分の鈍さと言うか、察しの悪さにもうため息しか出ない。
「さっきから本当に失礼なんだけど…」
いや別に、ウィルに対してため息を吐いたわけではないのだが?
まあ確かに、この状況じゃ自分の顔を見てため息を吐いたようにしか見えないだろうが。そう思うということは思い当たる節があるのだろう。私は絶対に悪くない。
ウィルはジト目で睨んでくるが…
「もう何でもいいけど二度寝していい?今日は出発しないんでしょ…」
そんなものは無視だ無視。今の私に構ってあげれる余裕はない。絶賛混乱中なのである。
なぜ過去に来たのかは分からないが…案外寝て起きたら現代に戻ってるかもしれよね?そうだよね?
と言うか、そう信じないとやってられない。
ウィルの腕から抜け出して、再び暖かいお布団の中に戻ろうとしたのだが…
「予定がなくなったからって、ルイスみたいに一日中寝る気?ろくな大人になれないよ」
「ちょ…!?」
私の動きを察したアイツが一瞬で羽交締めを決めやがった。
「その理論で行くと、先生はろくな大人じゃないってことになるんだけど」
視線だけで「離せや?」と言いながら背後を睨め付けたわけだが、ウィルは当たり前のような顔で「そうだけど」と肯定して来る。
…相変わらず、先生に毒舌すぎるな?
流石に呆れた視線を向けるしかない。
この前、仲直り?和解?をしたようなしていないような感じだったのに…いや、それは未来の話か
改めて色々とややこし過ぎる
余計なことは言わないようにしないと
そして私の願いは一部聞き入れられたのか、羽交締めは解かれ…なぜか膝の上に乗せられた。
いや、本当に何でだ?
「とりあえず、朝ごはんは食べなよ。今、ロイに部屋まで持って来るように頼んだから」
「…別にお腹空いてない」
正直、情報過多でもうお腹いっぱいである。お願いだから色々と消化する時間がほしい。
ーーーコンコンコン
「どうぞ」
「失礼します」
そしてそんな時間ははなから存在しないかったようである。今さっきウィルが伝達魔法で頼んだはずなのに、ロイさんはもう朝食を持って来てくれたらしい。いつもながらあまりにも仕事が早過ぎる…その優秀さ、今は切実に要らなかったが。
あと勝手に入室の許可を出すな?
ここ私の部屋
そもそも私の寝ている間に勝手に部屋に入って来ている時点で、ヤベーだろう。レディーの部屋だぞ?やはりコイツは紳士ではないな。
「シア様、おはようございます」
「…おはよう」
ロイさんとは久しぶりに会ったこともあり、思わずぼーっと見上げてしまった。返事がワンテンポ遅れたのはご愛嬌だ。
相変わらず、朝から身だしなみバッチリで寝癖一つない。確かにロイさんと比べてしまったら、髪が爆発してまま朝食に来る先生を、ろくでもない大人認定してしまうのは仕方のないことだろう。
「レオは?」
「散策して来るとのことです」
「…相変わらず元気だね」
二人の会話を聞きながら、差し出されたパンをぼんやりと食べていたわけだが…
…ん?外、吹雪だよね?
窓の方を見るがやはり白い。どこからどう見ても吹雪は止んでいない。
「こんな吹雪の中…」
「じっとしてられない人ですからね」
私の呆れたような声に、ロイさんは遠くを見つめながら疲れたように呟いた。もう昔から散々振り回されているのだろう。その目に宿ってたのは諦めだ。
「レオ様を追いかけるので私はこれで」
そして一瞬で表情を切り替え、仕事に戻って行ったのは流石の一言である。
「相変わらず苦労してるよね…あの人も」
礼儀正しく一礼して去って行ったロイさんを見ながら、ウィルがボソリと呟く。
「そう思うなら、ロイさんに食事を運ばせるのやめなさいよ」
どう考えても、苦労をかけている側の人間が言う言葉ではないのである。私も同様に。
「そう言う意味で言ったわけじゃないんだけど…まあいいや。それより冷めないうちに食べなよ」
そう言って差し出されたのは、この地方では見慣れたスープ。
「もう飽きた…」
「文句言わないの」
いやだって、ここで足止めを喰らってからずっとこればっかりで…ん?
「今日はいつもとはちょっと変わったスープだったよ」
「…クリーム系?」
「いや、コンソメ系」
スプーンを受け取り掬って一飲みするが…
「ちょっと香辛料が効いてるよね」
私は過去にこのスープを飲んだ記憶がない。
ウィルの言葉に曖昧に頷くが、内心大慌てだ。
なぜならもうこの時点で、私の知る過去とは異なっている言うことなのだから。
確かに目覚めてからの私の行動は過去と違っただろうが…いやでも流石に、朝食の内容まで変わるのはおかしくないか?
そんなところに私は関与していない
「顔顰めながら飲むのやめなよ。自分で厨房まで行って、女将さんとあれやこれや試行錯誤してたんでしょ?」
「…へ?」
何それ全く見に覚えがな…くもない?
なぜかその瞬間、厨房でこの宿の女将さんと一緒にグツグツとスープを煮込んでいる光景が頭の中に浮かんできた。
「いくら暇だからって、普通厨房まで乗り込む?レオもそうだけど…シアも無駄に行動力がすごいよね」
感心したように頷いて見えるが、これは絶対誉められてはない。余計なことはするなと言う意味である。
と言うか、それよりも!?
存在するはずのない記憶が浮かんでくる方が問題である。
え、何…どう言うこと?
過去が変わった影響で私の記憶も修正された?
いや私が過去に戻って来る前に、過去は変わっていたわけで…
もうややこし過ぎて訳が分からない。
「ずっと眉間に皺が寄ったままだし…今度は何があったわけ?」
「いつも私が何かやらかすみたいに言うな。今回はどう考えても不可抗力だし…」
もう食事どころではないことを察されたのか、いつの間にかスープのお皿は回収され、私は顎に手を当てたまま考え込む。
よし…まず原点に戻って、こうなった原因を探ろう
今更ながらの話だが。
私は保健室で寝ていて、気が付いたらここに居た。その時、いつもと変わったことと言えば…
「あ、懐中時計型の魔道具」
十中八九あれしかない。
「…何それ?」
ウィルは怪訝な顔で首を傾げて来るが、それよりも!?
「ない!?」
咄嗟に手のひらを広げるが、左手に持っていたはずの懐中時計はどこにもない。
布団の中かと思い勢いよくめくってみたが…
「やっぱりない!?」
やはりないのである。
え、これ帰れない感じですかね…?
もう一回ここからやり直せって事ですかね???
思っていたよりも深刻なこの状況に、もう天を仰ぐしかないのであった。
そんな事をしても、神様は助けてくれないことはよく知っているのに。




