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体育祭-10

とまあこんな感じで、ウィルと殿下とは若干どころかかなり気まずくなってしまったので、お願いだから早く体育祭が終わってほしいのである。


あの後殿下は何か言おうとしていたのだが、運営関係で呼ばれてしまったため、結局その心のうちは聞けなかった。まあ何を言われても受け止められる自信はなかったので、正直ほっとしている。いや自分から仕掛けておいて、一体どういうつもりだと言う話だが。

でもこれでおそらく…


(影は炙り出せるはず)


実際、防音結界を張って口元は見えないように俯いて話していたのに、あからさまに反応を見せた奴らがいた。それが1人2人どころじゃないのが、なかなか考え物なのだが。


「あの人たち暇なのかしらね…?」


こんな所にそう何人もいていいわけはない。

はあ…嫌だ嫌だ。殿下の護衛という名目で私の監視をするだなんて。ある意味モテモテである。


ここで言う影とは、王家直轄の裏部隊のことを指す。まあ言ってしまえばエリート諜報員の集団みたいなものだ。そして、そんな彼らに命令を下せるのは…この国でただ1人だけ。


「国王陛下はよっぽど私のことが気になるようで」


周りに誰もいないのをいいことに、ついついぼやく。正直言って全く嬉しくはない。

そもそも私は、初めて出会った頃からあの人があまり好きではないのだ。何を考えているのか全く読めない。他の人みたいに聖女の力を利用しようとしているくらいならまだいいのだが、それよりももっと何か別の…


「まあ考えてもしょうがないか」


この国の最高権力者の心の内なんて、読めるはずもないのである。


今はそれよりも先生を探さなければ。

実は先生、私があの時見送ったっきり帰って来ていないらしい。確か倒れた生徒のところに行ったはずだが…あいにく誰が倒れたとか、どこへ行くとかまでは聞いていない。つまりは全くの手掛かりなし。


まあ仕事も粗方終わったため、暇つぶしがてら会場内を回ったわけだが見当たらない。

なら、保健室の方かと思って来てみたのだが…


「いないな…」


そこにも誰もいなかったのである。そう…誰も?


「ん?待って、倒れた生徒はいるのよね…じゃあ普通、保健室に運び込まれているはずじゃない?」


何かがおかしくないか?


首を傾げながら眉を顰める。

念の為中へと入り、ベットも一つ一つ確認して行ったが…


「やっぱり誰もいない…」


そのベットには人どころか使った形跡すらもないのである。


「重症だったからそのまま外部に運ばれた…?いやでも、先生がどうにか出来ないことを、教会の神官やその辺の医者がどうこうできるわけもないし…」


やはり何かがおかしい


先生は?倒れた生徒は?一体どこへ行った…?


しばし口元に手を当てながら考え込んだが、答えは出てこない。

いつもならすぐにでもウィルに相談するところだが、あいにく今はそう言う状況じゃない。もちろん殿下も同様だ。つまりは自分でどうにかするしかない。


「はあ…やらかしたな」


間の悪い自分に悪態を吐きながら、勢いよく近場のベットに座り込む。やはり体力は落ちているのか、半日ちょっと動き回っただけでもう足がへとへとだ。


「時間はあるし、しばらく休憩しよ」


そして脳内を整理しよう。


「まず、先生は誰かが倒れて呼ばれた。でも私はその誰かを知らないし、どこへ行ったのかも分からない。と言うか…呼びに来た生徒すらも覚えてないな?」


これは単純に興味がなかったから覚えてないパターンだろう。アイツから逃げようと必死になっていたのもあるし。


「その後私は、殿下からの頼みで倉庫へ備品を取りに行った…あれ、結局何の備品が必要だったんだろ?」


私はあのまま何も持たずに出て来たし、それはおそらくウィルも同様だ。そこまで余裕があったとは思えない。

つまりは誰も持って来ていないはずなのだが…さきほど殿下は何も言わなかった。


「まあ、競技は滞りなく進んでいるみたいだし別にいいか」


もしかしたら実は必要なかったパターンだったのかもしれないし。


「ただちょっとタイミングが気がかりだなぁ」


先生が呼ばれて、私は倉庫に行って…逆に言えば、先生が呼ばれなければ私は倉庫に行かなかっただろう。十中八九、アイツに押し付けていた。つまりは私が一人になることはない。


「その後倉庫に閉じ込められたのも、偶然と考えるのは流石に軽率か」


さらに言えば、あの二人組と出会ったのも。


「一連の出来事は繋がっているようにも見える。でも先生の件は…」


また別件が絡んでいるような気がするのだ。ただの勘だが。

それが何かはまだ分からないが、良いことではないのは確かだろう。


「はあ、次から次へと…」


そのままベットに倒れ込み、眉間に皺を寄せながら鈍く痛み続ける頭を抑える。


やることは山積みだが、身体が全くついていっていない。今はまだ軽い頭痛で済んでいるが、体育祭が終わったらこのまましばらく寝込むことになるだろう。


「やっぱりまずはこれをどうにか…いや、出来ないから困ってるんだけど」


手掛かりはもらったものの、現状八方塞がりである。私に一体どうしろと言う話である。


消化しきれない思いをそのままに、ベットの上でもがいて…


「ん?」


その時、腰のあたりに何か固いものを感じた。


そこにはハンカチくらいしか、入れていないはずなのだが?


不思議に思いながらもポケットに手を突っ込み、指先に触れたのは冷たい金属っぽい質感の…


「え?」


ものすごい嫌な予感がした。

恐る恐るその金属っぽい物体を握りしめ、ゆっくりとポケットから取り出す。


「うっそー…」


その手の中にあったのは、予想通りの品で…あの魔道具らしき懐中時計だったのである。


「え、私棚に返したよね?あれ、間違ってポケットに入れてた…?」


正直に言えば記憶は曖昧である。全てはあの不審者たちの所為で。

右手で光源を消した瞬間に、左手に持っていたこの懐中時計をポケットの中に入れた覚えが…なくもなくもない?


「完全にやらかしたな…」


真偽がどうであれ、ここに懐中時計があることが全てなのである。つまり私は学校の備品を無断で持ち出してしまったと言うことだ。いやまあ、まだ学内だからセーフか。


「返しに行くのめんど…」


再びあの場所に戻るのは正直気が進まない。


何気なしに懐中時計を掲げれば、光に反射して鮮烈なコバルトブルーの宝石がキラリと輝く。蓋に散りばめられたこの宝石はラピスラズリよりも透明度が高く、まるで深海のようだ。そして気がついてしまった。


「これもしかして…アウイナイト?」


その宝石の希少性に。


なぜ分かるのかって?


旅の途中で宝石商の人に、見分け方を教えてもらったことがあるのだ。宝石なんて触る機会はもうないと思っていたが、思わぬところで役に立った。確かその時の記憶によれば、この宝石は産出量が少なく加工も難しいため、かなり高値で取引されているはず。


「しかもこの量…小さいけれどかなりの値段になるわよね?」


ちょっと考えたくない。そしてますますこの懐中時計を、早く返したくなった。


「ふぁあ…」


でもそう思い通りにはいかないのである。

色々と無理をした所為か、身体は確かに休息を欲していて、眠気を意識した途端に抗えないほどの睡魔が襲ってくる。

こんな所でこんな物を持って、寝こけるわけにはいかない事は重々承知しているのだが…


「少し、だけ…」


せめてもの抵抗にぎゅっと懐中時計を握りしめ、私はそのまま夢の世界へと旅立ってしまったのであった。

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