学生も楽じゃない-2
レザリア王立学園
国内最大規模で、最難関とも言われるこの学園には、沢山の優秀な生徒たちが集まって来る。
学園内の設備も整っており、教師陣も一流…卒業生の多くが、様々な分野で活躍していることで有名だ。
そんな学園に通う生徒たちは、主に2種類の入学方式で入ってきている。
一つ目は、貴族が受ける貴族試験
これは、名前さえ書けば受かると言うものらしく…「貴族パワーぱねぇ」と言う感じである。
二つ目は、平民が受ける一般試験
これは毎年超難関で、倍率もものすごい…文字通り狭き門と言われている。
まあ裏事情をぶっちゃけると、バカな貴族どもの尻拭いに、優秀な平民たちが引き抜かれていると言う話だ。
全くもって迷惑な話である。
ちなみに私は、特別試験の特待生枠で入ってきている。
え?何それって…?
特別試験とは、なんらかの特出した特技を持つ人たちのための試験で…まあ簡単に言ってしまえば、一芸に秀でた変人・奇人と言った類の者が受けること多い。受験資格は未知数で、試験内容や合格基準もよく分かっていないが…
「これがまあ…何をしたわけでもないのに、他の生徒たちに恐れられている」
その得体の知れなさから、訳の分からない奴に絡まれることが滅多にない、とても良いポジションだと個人的には思う。
その分、交友関係を築くのには一苦労らしいが…私としては色んな意味でちょうどよい。
「この胸元のバッチも、心なしか輝いて見えるわね~」
これのおかげで、特別試験で入ってきた生徒…通称特待生だと言うことが、一目でわかる仕組みになっているのだ。
この制度を考えてくれた人に感謝しかない。
「元々はそれ…他の生徒たちが、危険人物に近寄らないように付けさせたものらしいけどね」
隣で水を差す奴には、相変わらずイラッとするが。
「誰が危険人物よ」
他の特待生は授業に出ないわ、研究室に引きこもってるわで…会ったことがないので何とも言えないが、私は至って品行方正。模範的な生徒だと言う自信がある。
「模範的な生徒は、授業中に魔法陣描いたりしないんだよ…ここ、間違えてる」
「あ、ほんとだ」
それなら魔法陣を描いてる私の隣で、律儀にその間違いを指摘するお前はどうなのかと言う話ではあるが。
こんな授業もろくに聞かない奴が、入学以来、この学年の首席の座を守り抜いているのだから…
「下の人たちは可哀想よね」
「君ももれなく俺の下だけどね?次席殿」
殴りたくなる私の衝動は、至って普通なはず。
絶対いつか必ず、コイツの上に立ってやる…!
決意を新たに、再び手元の魔法陣に向き合っている時点で、その未来は遥か先の事なのかもしれないが。
教室の一番後ろの窓側の席は、後ろに誰もおらず、教師陣の目を届きにくいので、内職するにはうってつけの場所である。
ただ一つ、隣の奴だけが難点だが…
指された場所の文字を書き換えながら、いまだに慣れないその複雑な公式に眉を顰める。
「こんなの一瞬で描ける気しない」
「慣れだよ」
慣れと言われて仕舞えば、ぐうの音も出ない。実際コイツは、難なくそれをやってのけていたのだから。
まじでコイツに苦手なことはないのか?という感じだ。
何でもかんでも涼しい顔でやってのけやがって…毎度毎度腹が立つ。
あと、教えてくれることには感謝しているが、無駄に近寄って来るな。
授業中のため、生徒からの目はないが…教壇に立つ先生からの生暖かい視線がものすごく心にくる。
お願いですから、その「仲良しだねー」みたいな顔しないでもらえますか?
断じて仲は良くない!?
他人に何を思われようが別に興味はないのだが…知り合いからのこの視線はキツい。
ねえ、先生?
みんなが問題解くのに集中してるからって、こっちにグッドサインしないでもらえます?
何も良くないですから。
昔からお茶目な人だとは思っていたが、お願いだから、今それを発揮しないでほしい。
…え?あ、ここ復習しとけって?
黒板に書かれた落書きにしか見えないメモを指差しながら、うんうんと小さく頷いている先生。ぱっと見二十代にしか見えないが、もうすぐ四十代に差し掛かることを私は知っている。10年前から全く容姿が変わりやしない。あれぞ本当の年齢詐欺…
と言うか、試験範囲教えちゃっていいんですか?
あ、いいんですね…
この適当さも、相変わらずだ。
よくこの学園に雇ってもらえたなと思う…まあコネなんだろうけど。
「相変わらず、あの人はシアに甘いね」
「まあ一応…弟子みたいなものだし」
正確に言えば違うが、間違ってもいない。
実際、基礎は全て先生に習ったのだ。そこから先は、自力で何とかする他なかったわけだが。
「こんな所にまで着いてきて…」
「え、もしかして先生の独断?」
流石にそれは予想外だった。
基本的にやる気のない人だ。上の命令以外で自分から動くことなんて、無いに等しいと思う。
「いや…教会側から、何らかの指示があったんだろうけど」
その歯切れの悪さに、どうやらこれも全てを把握しているわけでは無いのだと察する。
色んな人の思惑が絡み合って、私は今この場にいるのだろう。
全く…こんな小娘一人、その辺に放っておけば良いものを。
彼らの思いに関わらず、これが保護ではなく監視の意味合いが強いことなど、遠の昔に分かっていた。
今の不完全な私でも、その気になれば国一つ落とすことくらい容易なのだから。
誰がそんな面倒なことするか!?と言う話ではあるが。
「別にシアは、こんなもの描けなくていいと思うけど…」
だからだろう、コイツが私が魔法を学ぶことにあまり良い顔をしないのは。
顔を見ずとも、奴の顔が僅かに曇ったことが嫌でもわかる。それくらい、もう何度もした会話なのだ。
私はよく分からないが、この身体、魔法使いとしてポテンシャルもかなり高いらしい。
それこそ本気で学べば、大魔法使いになるのも夢ではないほどに。
まあ、そんな面倒なものになる気は毛頭無いのだが。
だが何も知らない周りは、そうは思わない。
ただでさえ強大な力を持つ私が、さらに力を手に入れようとしているようにしか見えないのだろう。
だからコイツは止めた…恐らくは私を思って。
「何でも備えておくに越したことはないでしょ」
分かっているのだ。平和になったこの世界で、魔法なんて必要ないことぐらい。
そもそも、私だって簡単な魔法くらい扱える。生活魔法なんかはとても便利で、旅の中でもよく多用していたものだ。
自分で言うのも何だが…同じ年齢の魔法使いたちよりは、実戦と言う状況下においては、上手く扱える自信が私にはある。
座学は言うまでもなくボロボロだが。
そんな私が、嫌いなコイツに頼み込んでまで、改めて魔法を学ぼうと思ったのは…
「自分の身ぐらい自分で護るわよ」
コイツに護られるだけのお姫様なんて、真っ平御免だった。
そんな私のちっぽけなプライドが、現状を良しとしなかっただけなのである。
「だからあんたは、自分のために生きなさい」
罪悪感で側にいられたって迷惑なだけなのだから。




