体育祭-7
まあぐだぐだ考えるのは性に合わないので、ひとまず暇潰しに倉庫内の探索を始めよう。
いつもならすぐにでも駆けつけて来そうなアイツは、おそらく殿下に足止めを喰らっているのだと思う。殿下にはそのまま引き続き頑張ってもらいたい。一応、閉じ込められている身だが、もう少し1人時間を満喫したいのが本音なのだ。
思ったより広い倉庫で、奥の方は中々に暗い。光源はないの魔法で何とかするか。複数の光の球体を指先一つで空中に灯らせ、そのまま奥の方に等間隔で並べる。
「これくらいなら私でも何とかなる~」
別に魔法は苦手ではないのだ。ただ神聖術の方が慣れているため違和感が勝ると言うだけで。
「ふんふんふーん」
鼻歌を歌いながらずんずん奥へと進んで行く。ダンジョン探索とか結構好きなため、ちょっとわくわくする。学園内の倉庫とか、絶対面白そうなものあるもん。
実際、よく分からない置き物や人形、明らかにガラクタだろうと言うものまで様々である。そんな中で私が特に気になったのは…
「おー、綺麗」
手のひらサイズの懐中時計であった。かなり細工が細かいし、宝石まであしらわれているところを見ると絶対に高いやつだ。こんな所に置いてある方がおかしい。ぱっと見錆び付いているわけでもないし、誰かの落とし物かとも思ったが…
「これ魔道具?」
僅かに魔力を感じて、思わず眉を顰める。よくよく見れば複雑な魔法式が描かれているが、あいにく私じゃ分からない。と言うよりもかなり古い魔法式なのだろう。私が習ったものとは形式が違いすぎる。
こう言った古い魔道具は、安全性が保証されているものの方が少ないため、確か見つけ次第、魔塔の方に引き渡す決まりになっていたはずだ。実際、こうした魔道具が原因で大きな事件に発展したこともあるらしい。
「いやでも学園の備品だったらなぁ」
勝手に持ち出したら、それこそ私が犯罪者になってしまう。この学園ならもしかして魔塔の許可を経て、ここに置いている可能性もなくはないし…と言うか、その可能性の方が高いか。流石にこんな所に保管しておくなよとは思うが。
「魔塔もなぁ…」
下手に関わるとめんどなことになる未来しか見えない。最悪、貴重なサンプルとして私自身が連れていかれそうだ。あそこの人たちは好奇心旺盛な分、他者への配慮が一切ない。自分さえ良ければそれでいいと言う考え。うん、関わったら絶対ろくなことないないな。
「ひとまず、この懐中時計型の魔道具は見なかったことにして…っ!?」
その瞬間、勢いよく腕を振って灯りを消す。暗くなった倉庫内で息を潜め、外の気配を探るのだが…
(やっぱりウィルじゃない。でも、この学園の生徒でもない気がする)
得体の知れない気配に眉を顰める。どうやらアイツの不安は的中してしまったらしい。全く嬉しくない。
わざわざこんな離れの倉庫に来たと言うことは、初めから私を狙って?
ここに私を閉じ込めた生徒たちと何か繋がりがある?
普通に考えたらさっきの生徒たちが雇ったごろつきとかだが、あの扉の先にいるのはそんな生優しいものではない。これでも数々の死線を潜り抜けて来た私だが、今回ばかりは相手の実力が全く読めない。
相手が気配を隠すことに特化しているのか…もしくは私じゃ敵わないほどの格上なのか。
この倉庫の出入り口は、外から鍵がかけられたあの一箇所のみ。このまま奥に逃げてもいいが、最悪袋の鼠だろう。
(なら先手必勝か)
棚の後ろに隠れながら扇子を構えて入り口の方を注視する。
ウィルへの連絡は…まあ、もうこっちに向かってるか。私が気が付けて、アイツが気が付けないことなんてないはずだし。つまり私の役割はこの場で少しでも時間を稼ぐことだ。一番最悪なのは、この不審者が他の生徒たちの方に行ってしまうこと。
(それにしても、全く動く気配がないんだけど?一体何して…)
怪訝な様子で顔を顰めたその時
「エルシア様ですね」
背後からの声にほぼ反射的に、振り返りながら扇子を振るったのだが…
「…っ」
(止められた…!たった指2本で)
不審者の首筋に吸い込まれるその直前で、扇子はびくとも動かなくなってしまった。
あり得ない…
この間合いで私が一撃入れれなかったことは今まで一度もない。いくら不意打ちだったとは言え、初見で止められる速さではなかったはずだ。しかも普通に考えたら速攻首を狙われるとは思わないだろう。
「ご無礼をお許しください」
目の前の人物を鋭く睨め付けるが、そこにいるはずなのになぜかひどく気配が薄い。この距離なら顔が見えてもいいくらいなのに、認識できるのは黒いローブを被った人物というだけだ。阻害認識の類か?でも明らかにレベルが違う。私でも看破できないほどなんて。
と言うか何で背後に…入り口の方の気配を探るが、やはりそこにはまだ誰かいる。つまりは元から二人組だったと言うことか。自分の迂闊さにもう顔を歪めるしかない。絶対またアイツにぐちぐち言われる。
「エルシア様に…聖女様にお話があり、このような場を設けさせていただきました」
「はぁ…私が聖女だと言うことも知っているのね」
一応極秘事項なはずなのに、何で知ってるんだよと呆れるしかない。まあいつかどこからは漏れ出すと思っていたが…流石に早すぎる。まだこの学園に通って3ヶ月ほどしか経っていないのに。
こんな状況でも私が比較的呑気だったのは、相手側から全く敵意を感じなかったからだろう。戦闘態勢を解くとあちらもすんなりと扇子を離してくれたし。どうやら話し合いに来たと言うのは本当らしい。一体今の私に何の用があるのかと言う感じだが。
改めて相手の全身をじっくりと観察するが、やはりよく分からない。黒いローブに覆われた中肉中背。声からして男のような気もするがそれすらも曖昧だ。
「貴方様のナイトがそろそろキレそうなので、手短にお話しさせていただきます」
「…分かったわ」
アイツがナイトと言う点に物申したかったが、ギリギリのところで飲み込んで耐える。顔を顰めてしまったのはご愛嬌だろう。
奴がキレることなんてそう無いと思うが、実際にキレたらそれはそれは面倒なのだ。できれば近寄りたく無いと思うくらいには。しかも今は体育祭の真っ最中、まだ仕事もあるのに普通に笑えない。
「エルシア様がかけられた…」
そして告げられた話の内容も、全く笑えないものになっていたのであった。




