空の旅は好きじゃない
「やだ」
木の影に隠れながらキリッとみんなを睨め付ける。嫌なものは嫌なのだ。今回ばかりは絶対に譲らない。
「一体何が嫌なわけ?普通に飛べてたでしょ」
ウィルが呆れたような顔をしてくるが、私の意思は固いのだ。他のみんなは「シアが嫌なら迂回するか」と言ってくれているので、コイツさえ諦めさせれば勝ちなのである。
え、説得…?そんなの絶対ウィルに効果ない
そのまま引き摺られていくのがオチだ
とにかく、何を言われようがここから出る気は…
「確かシア、雲の上乗れるかな?とかはしゃいで…」
なかったのに!?
「捕まえた」
「くっ…」
アイツが余計なことを口にしやがったため、思わず飛び出してしまった。
その「してやったり」って顔腹立つ…!
逃げ出そうと必死に身を捩るのだが、全く拘束が緩まない。
これ絶対、身体強化魔法使ってるな?
「もうめんどくさいし、このまま抱えて行けばいいか」
「ぎゃっ!?」
そんな奴の呟きと共に、なぜか地面から足が離れ視界が上がる。腰のあたりを支えられていることは分かるが、すごく不安定で今にも頭から落っこちそうだ。と言うかこれ、所謂俵担ぎ?
「この体勢やだ!?」
「文句言わないの」
そのままスタスタと歩き始めてしまったため、揺れるは揺れる…ちょっと待って、本当に気持ち悪い。
「ウィルー、シアちゃんの顔色悪いよ~?」
「シアさっき、おにぎり3つも食べてたからなー」
「シアさん、お水飲みますか?」
3人が後ろからついて来ているのが分かるが、ちょっと気持ち悪過ぎて顔を上げれない。地面しか見えない。
先生、そこまで言ったならコイツ止めて。
あとレオ、私のおにぎりのサイズは君たちより小さかった。従って、私が食べ過ぎというわけではない。
ロイさんお水はありがとう…でも今の体勢で飲んだら多分変なところに入ってむせる。
みんな良くも悪くもズレているため、根本的な解決をしてくれない。
このまま飛ばれたら私、本当に終わるんだけど?下丸見えじゃん…
あの木々が豆粒のように見える光景を思い出して、血の気が引いていく。
「シア大丈夫?」
だからレオの顔を見て、ホッとした私は絶対に悪くない。
「…レオ」
機嫌の悪そうなアイツのことなんて知らないから!?
どうやら青白くなっていく私の顔を見て、流石に心配してくれたらしいレオが、一瞬でウィルから助け出してくれたらしい。そのため現在はレオに横抱きにされている。うん、安定感が違うね。
「ウィルはシアの扱いが雑すぎやしないか?」
「丁寧に扱ったらそれはそれで、「は?気持ち悪…」ってシアは言うじゃん」
「貴族令嬢みたく丁寧にエスコートしたら、そりゃあシアも嫌がるだろ」
そうなのである。全くレオの言う通りなのである。
私は別に雑に扱えなんて言った覚えはないし、ただの平民に貴族令嬢並みの扱いをしてくるウィルに素直に気持ち悪いと思っただけだ。ちょっとした段差でも手を差し出されるって、貴族令嬢はそんなに危なっかしいのか?と色んな意味で心配になった。
なおその時は、手を振り払って「気持ち悪いことするな」と言った覚えがある。…これが原因か?
「俺の時は、横抱きにしただけで暴れるくせに…」
「それはウィルの日頃の行いだなー」
よく分からない2人の会話を聞き流しながら、レオに地面に下ろされたところでロイさんにお水を差し出される。流石卒がない。元々レオの護衛?側近?をしていたらしいから…あ、これレモン水だ。
いつのまにか後ろに控えていたロイさんを見れば、軽く一礼される。
「…さっぱりしていた方が飲みやすいかと思いまして」
「うん、ちょっとスッキリした。ありがとう~」
相変わらず気遣いに思わず舌を巻く。この中で誰が一番まともかと言ったら、間違いなくロイさんだろう。
「あ、じゃあ僕もシアちゃんにお茶でも…」
「却下で」
もう1人の大人である先生は、とんでもない食べ物?を作り出すか、寝てるかのどちらかなのだから。
ロイさんの方が先生よりも年下だと知った時は、本当に意味がわからなかった。頼りになるのはどう考えてもロイさんだし。先生はどちらかと言えば、私たちと一緒にふざける側なのである。
だからこそこの旅は間違いなく、ロイさんのおかげで成り立っていると言えるだろう。先生は大人という名の子供で、残りの私たちは正真正銘の子供なのだから。特に宿の手配とか、食料品の買い込みとか…いつも気付かぬうちに済ませてくれていて、本当にロイさんには頭が上がらない。
「コップお預かりします」
そんな感じで、今日も今日とて甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれるロイさんに対し…
「よし!それじゃあ「誰が一番シアちゃんの空運係に相応しいか決定戦!」を開催しよ~」
先生はまた悪ふざけを始めるのである。
え、ていうか今なんて言った?私がなんて…???
「まあ、それが一番妥当か」
「お、ウィルも珍しく乗り気じゃん!」
気付かぬうちに話は進んでいたのか、言い出した先生以外の2人もなぜかノリノリである。レオはともかく、普段ならウィルは絶対こう言う先生の悪ふざけには乗らないので、唖然とするしかない。
え、何で止めないの?と言うか、私が誰かに運ばれるのは決定なの!?
本人そっちのけで話を進めないでくれと言う感じである。こっちは空を飛びたくないって言っているのに、何で空飛ぶ前提で話が進められてるんだって言う話である。でもこうなったら最後、何を言っても止められないことも知っているため…
「はあ…」
「お疲れ様です。シアさん」
私はただただため息を吐くしかないのであった。
ロイさんの優しさがすごい身に染みる…
結局、全員に横抱きにされて空を飛ばされたわけだが…なんだかんだ言って、魔法の扱い方はウィルが飛び抜けているため快適さの点でダントツだった。飛行魔法以外にも、なんか絶対併用してるでしょ?としか思えない。魔法の併用とか器用なことをする奴に引いたのは、至って普通の感性だろう。
本音を言えばアイツに抱えられるのは嫌だったのだが、飛行型モンスターに襲われた時のことを考えると、私とウィルが一緒にいるのがどう考えても妥当だった。前衛の2人は武器持ちながら動き回るし、先生の場合…「あ、落としちゃった」とか平気で言いそうだから絶対嫌だ。悪気なくうっかりで。
そんな感じでウィルは私の空運係?に任命されたのであった。




