体育祭-5
なんやかんやで、玉入れは突風の影響により中止になった。綿毛だからね。吹き飛ばされたらなす術もないのだ。
まあ吹き飛ばしたの私だけど
わたげちゃんはああやって風に乗って遠くにタネを撒く植物なので、別に悪いことはしていない。そのうちどこかに腰を据えて、また新しいわたげちゃんが誕生することだろう。ちなみに、わたげちゃんの綿で作る毛布とかクッションは大人気なので、ちょっと勿体無い気がしなくもない。
「ねえ…大丈夫なの?」
「何が?」
しれっと騒ぎの中心から抜けて来たのだが、後ろからついて来たアイツが…どこか心配そう?な目で私を見下ろして来て、思わず怪訝な顔で首を傾げる。
体育祭は問題なく続行されそうなため、私的には何も問題はないのだが?
殿下とアンネマリーが対応してくれたため、このままスムーズに次の競技へと移行しそうである。まあこちらに向けられる視線は、明らかに増えた気がするが。
「だってその扇子…」
「あー」
アイツの視線の先は、私の手元に携えられた銀色の扇子。
そこでようやく言いたいことを察した。本当に正真正銘、私の身体を心配していたのだろう。
「これはあの力と、直接的な関係はないから大丈夫よ」
扇子をバサリと開いて自身を扇ぎながら、軽い口調でそう言ったのだが…
「つまりは間接的にはあるってことでしょ」
上手く丸め込まれてはくれないらしい。
背後からくる無言の圧に、もはやため息しか出ない。
ちゃんと説明しろってか?
めんどくさい…
「とりあえず、戻るわよ」
こう言う時は…
「お疲れ~」
先生に丸投げするに限る。
にこにことこちらに手を振って来た先生は、私の顔を見ながらどこか感心したように深く頷いた。
「シアちゃんモテモテだったね?動物は知ってたけど、植物にまでモテるとは知らなかったよ~」
「いや、あれはモテると言うか何と言うか…」
本当に、何と言えばいいのだろうか?
母親だと思われたと正直に言うのも嫌だったので、微妙な顔をしていると先生は何を思ったのか…
「あ、もしかして喉乾いた?今、お茶淹れて…」
「やめてください」
こちらに地獄への片道切符を提示して来やがった。
素早く先生の背後を取ったアイツが、ものすごい力で先生を椅子に押し留めている。先生本人は、「え?肩揉んでくれるの?」とか呑気なことを言っているが。
「あんたが淹れたお茶なんて飲めるわけがないでしょ」
実は先生、家事関係…特に料理は壊滅なのである。お茶を淹れるだけでも、なぜか泥水みたいな味になる。ただ茶葉入れてお湯を注ぐだけなのにだ。料理はもうなんか…うん、黒い炭みたいな物体が出来上がる。ちなみに焼く工程がない場合でも同様だ。
「えー、そんな事ないよね~?」
先生がこちらを見て来て、私の答えはもちろん…
「今回ばかりはコイツに同意です」
ものすごく深く頷いたわけだが、なぜか先生はショックを受けたような顔をしている。
この人、自覚ないタイプだからな…と言うより、味覚がそもそもおかしい
「あんたの味覚は当てにならないんですよ。甘いか辛いかすら曖昧なくせに」
「味覚異常と言うか何と言うか…でも先生の場合、病気の類でもないですからねぇ」
本当に本人の受け取り方に異常があるというか何と言うか。流石にこれは私でも治せない。と言うか本人は、自分がおかしいことに気が付いてないのだろうけど。
「え、何言ってるの?僕は正常だよー。さっきのお茶も、ピリリと香辛料が効いてて美味しかったよね~」
「「…」」
もう絶句である。何がどうなったら、そう言う受け取り方になるのか。
「…さっきのお茶に香辛料は入ってないよ」
「…どちらかと言うとほんのり甘かったですよ」
「あれ?」
疲れた顔をしている私たちに対して、先生はどこまでもマイペースだ。
「あ、そう言えばシアちゃん、さっき神器使ってたよね~」
そして話はなぜか本題に入っていくのである。果たして先生の味覚異常を、このまま放置しておいて良いのかは悩ましいが。
「そうそれ…神器って結局何?」
アイツは放置する道を選んだらしい。無言で隣の奴を見つめるが、あっちは顔すらこちらに向けて来ない。先生の味覚に関してはもう放っておけと言うことか。
先生も先生で真面目に考え込んでるし…もういいか、本人が気にしてないなら。
「諸説あるけど…まあ単純に、聖女だけが扱える伝説上の武器って感じかな。いや武器でもないか、最大限に能力を発揮させるための補助具的な?」
昔から神殿に保管されているらしいが、神器は色々と謎が多い。
使っている本人ですらよく分かっていない。
「自分の好きなように、形も能力も変えれますからねー」
本当に私の想像力次第なのだ。
「シアちゃん昔、空飛ぶ絨毯とかも挑戦してたよね~」
「やっぱり空飛ぶ絨毯には、ロマンが詰まってるじゃないですかー」
あれは確かにメチャクチャ頑張った。
絨毯ってふにゃふにゃしているイメージしかなかったから、どうしても人が乗れるだけの強度が保つのにものすごく苦労したのだ。
「落っこちるシアを、俺が散々回収する羽目になったアレね…」
「何よ」
嫌そうな顔をした奴をギロっと睨みつける。
こっちも散々魔法の検証に付き合わされているのだから、おあいこ様だろう。文句を言われる筋合いはない。
「だって普通に飛んだ方が早くない?」
「疲れるから嫌」
飛行術は一度だけ使ったが、安定感がなさ過ぎて嫌だったのだ。一瞬でも気を抜いたら、真っ逆さまだぞ?無駄に気疲れする。まあ私以外の人たちは「飛んだ方が楽」と言うのだが…お願いだから地上を歩かせてほしい。空の旅とか望んでない。
「いや、シアは俺が運んでたじゃん」
「…」
言われてみればそうか?
「嫌がるシアちゃんを、ウィルがいつも無理矢理抱えて飛んでたよね~」
「高所恐怖症のくせに、何で空飛ぶ絨毯には憧れるのか…」
その「やれやれ」みたいな顔やめろ!?
あと私は別に高所恐怖症ではない。ただ飛行術があんまり好きじゃないだけだ。あの何にも支えられていない感じがすごく嫌。
「でもシアちゃん、以外に大人しく抱かれてたよね?」
「まあ、安定感は一番あったんで…」
「確かにみんなで「誰が一番シアちゃんの空の旅のお供に相応しいか」って対決したよね~」
ルイスの楽しそうな声に反し、エルシアは当時のことを思い出して、ひどく苦い顔をするのであった。その隣でウィリアムは感情の読めない表情で、エルシアを見下ろしていたと言う。




