体育祭-2
「体育祭始まったね~」
「始まりましたね~」
冷たい緑茶を啜りながら、色んな意味で熱気がものすごい生徒たちをのんびりと眺める。
「もっと嫌がるかと思ったのに…貴族令嬢たちも何だかんだ楽しそうですね?」
「貴族になると、こう言う機会も中々ないからね~」
「へー」
ここは体育祭の本部テント…の隣の救護テント。隣に座るのは、我がクラスの担任ルイス先生である。
「先生って、意外と貴族の事情に詳しいですよねー」
「まあ人生経験長いからね~」
今更だが、貴族には姓があるが平民にはない。まあ別で称号的なものを、もらうこともあるのだが…今はそれは置いておこう。
つまり先生は、あのパーティーメンバーの中で、唯一の平民仲間だったわけだが…
「ん?どうしたの?」
「いえ何でもー」
改めて所作とか見ると、絶対いいところの坊ちゃんだったと思う。
下手したら元貴族か?
貴族が神殿に入る場合、家名を捨てないといけないらしいし。
神殿はどこの国にも所属しない独立機関であり、逆に言えば、単独で国家に対抗できる唯一の機関と言われている。
その付属機関である教会はどの国にも必ず置かれており、まあ簡単に言ってしまえば、超高度な医療機関と言う感じだ。そこに常駐する神官は怪我や病気、呪いの解呪のスペシャリスト。まあ他にも色々なことが出来るが。
「先生って…元は教会の神官で、神学の教師としてこの学園に来たんですよね?(設定)」
「そうだよ~」
「やっぱり貴族と関わることも多かったんですか?」
「んー…まあ、本部で働いてた時にはね?地方だとそうでもないよ」
なるほど、先生が地方の教会に行きたがっていた理由も分かる。貴族対応は確かにめんどくさい。
神殿での地位は上から…
神殿長、聖騎士長、神官長(各国の教会本部のトップ)、神官・聖騎士、神父・修道女
と言った感じになっている。
ちなみに数で言うと、神殿長・聖騎士長はもちろん1人だし、神官長も正式に認められている国の数だけ。神官・聖騎士ですら、おそらく合わせて500人にも満たないだろう。
「神官・聖騎士になるともはや才能だからね。どんなに信仰深い人でも基本、神父・修道女止まりだし」
「神聖力の有無が重要なんでしたっけ?」
「そう、その力が無いことには何も始まらないよね~」
神聖力とは、神官や聖騎士が扱う神聖術の源…魔法使いで言うところの魔力である。
「神聖力は先天性・後天性と色々あるけど、数が少ないだけにいまだ謎が多い。別に血縁とかは全然関係ないみたいだけど」
「なるほど…」
そこは魔法使いとは違うらしい。魔力の有無は基本的に、血縁関係で決まりやすいらしいから。
「神聖力を持つ人は年齢も性別も国籍もバラバラ、別に信仰深い人たちと言うわけでもない。むしろ、熱心に信仰している人の方が少ないか。正直真面目にお祈りしているのなんて、自ら進んで俗世を捨てた神父と修道女くらいじゃない?」
「…否定もできない」
確かにお祈りなんて、もう半年以上もしていない。前はパフォーマンスやら何やらで、結構やらされていたが。
あれ?私…自主的にお祈りに行ったことないかも?
「案外単純に、神様が気に入った人間に力を与えてくれているだけなのかもね~。実際、神々からの祝福だなんて言われているし」
「えー、気に入られる要素って…一体何?」
「うん、それは僕も聞きたい」
2人して「うーん…」と考え込みながら、パッと思いつくお互いの特徴を挙げていく。
「のんびりしている」
「おっちょこちょい」
「ノリが軽い」
「考える前に動く」
「事なかれ主義者」
「博愛主義者」
「…色々と適当」
「右に同じく」
「「…」」
とりあえず挙げてみたものの…「何だこれ?」と言う感じである。
「まとめると…なんか緩くてフットワークの軽い、争い事を好まない色々と適当な人たちが好みってことじゃないかな?」
「うん、言葉に並べると余計に意味がわからないですね」
こんな人たちのどこがいいのだと言う感じである。いや、私たちのことなんだけど。
「まあ少なくとも、権力とか名誉や地位には興味がないってことが重要なのかな。神殿がそう言ったことに関わり出したら、多分世界の勢力図一瞬で変わるから」
「ひぇ…」
恐ろしすぎである。今の神殿長、のんびりとした飴ちゃんくれるようなお爺さんで、本当に良かったとしか思えない。
「今思えば、内輪で揉めることってないですもんね…?」
「気のいい人たちしか居ないからね~」
そう、神殿内の空気はものすごくいいのだ。あ、吸う空気もそうだけど…ここでは雰囲気の意味でね?
みんな気さくに話しかけてくれるし、最年少である私のことも色々と可愛がってくれる。大抵神殿に行くと、カゴいっぱいのお菓子と一緒に帰宅することになるのだ。もちろん全部美味しい。
「そう言えば、この前忘れ物取りに神殿まで帰ったら…「エルシアちゃんは!?」ってみんな詰め寄られたよ~」
「うっ…」
確かによくよく考えたら、あれから一度も戻ってないし、なんか色々と死にかけたのは聞いただろうし…心配するのも無理はないだろう。今の今まで連絡一つもしなかった自分に流石に嫌気がさす。いくら行動が制限されていたからって、手紙の一つくらいは送るべきだっただろう。
「シアちゃんも余裕なかったんだから気にしなくて良いよ。ある程度は僕から伝えてたし…」
「…どの程度ですか?」
「生きてはいるよって」
「それ1番心配なやつー!?」
生きては…って、その前に「かろうじて」が付くのが目に見える。それでは心配するなという方が無理だろう。
先生は「ん?」と首を傾げているが、絶対にみんな騒いでいただろう。この人だけが1人、マイペースにお茶を啜っている姿が目に見える。
「まあ大丈夫だよ。卒業したらいつでも会えるんだから」
「そう、ですね」
そうだ、ちゃんとわかってる
目を伏せながら、氷だけになった手元のグラスを見つめる。
ーーーカラン
「この氷みたいに、そのまま溶けて無くなっていくものだと思っていたんですけどね…」
この力は
『わー!』
一際大きな歓声が上がり、ぼーっと競技トラックの方へと視線を向ける。
なるほど…ちょうどアイツが走るところか
スタート位置に着いているアイツへの声援がものすごい。一緒に走る他の生徒たちが可哀想だ。
「…シアちゃんはシアちゃんの好きにしていいよ」
隣からポツリと呟かれたその言葉に、そちらに顔を向けることなく苦笑いをこぼす。
「それ、先生が言っちゃいますか?」
「僕はシアちゃんの味方だもん」
「ふふ、それは心強いです」
ーーーパン!
スタートの合図がなり、皆が一斉に駆け出す。
「わがまま言えるだけのことは、成し遂げたんだから…シアちゃんはもっと好きに生きていいんだよ」
ぶっちぎりで、あっという間に100m走り終えた奴は…
「私はいつでも好きに生きてますよ」
真っ直ぐに私の方を見て、僅かに微笑んだ。
「始まりも終わりも…全部自分で決めたことですから」
「…そっか」
先生はどこか寂しそうな顔をしていた。でもそれ以上は何も言わなかったのは…きっと先生なりの優しさだったのだろう。




