体育祭-1
「いよいよ明日になりましたわね!」
「そうだな」
ここ数日の怒涛の忙しさを得てもなお、元気そうなアンネマリーと殿下を素直に尊敬する。
こちらは自身の机に突っ伏すのみで、返事をする気力もない。
なぜこの2人は、こんなにも元気なんだ?
それとも私が歳なだけ…?
正直、学生のノリについて行けないな…と思うことは多々あるが、正真正銘の同い年なはずである。
これでも体力には自信があったんだけど?
旅をしていれば、一日中歩き回ることなんてザラだったので、体力がなきゃ話にならないと言うものである。まあ約半年、ろくに動けなかったことを考慮すると…妥当なところなのかもしれないが。まさかここまで落ちているとは思っていなかった。ちょっとショック。
「慣れないことして疲れただけでしょ」
上から降って来た声に、意識朦朧としながら、のそのそと顔を上げる。
「冷た!?」
そして、頬に当てられたそのひんやりとした感触で、一気に目が覚めたのである。
「何すんの!?」
キリッと睨め付けるが、涼しい顔をした奴は私の問いかけには答えず、ずいっとこちらに何かを見せつけて来る。
「どっちが良い?」
「…抹茶?」
「だと思った」
なら聞くなよ!?
と言うか、問われるがままに答えたが…なんでカップアイス?
「ルイスからの差し入れだって」
「あー…なるほど」
選択肢がチョコと抹茶の時点で、色々と作為的なものを感じたのだが…先生のチョイスなら納得である。
一応生徒会の顧問を押し付けられているため、先生はちょくちょく差し入れを持って来たりする。
まあ手伝ってくれることは一切ないのだが…相変わらず、必要最低限の仕事しかこなさない人なのである。
先生は「省エネだよ~」とか言っているが、休みの日は一日中寝ることを省エネとは言わない。
しかも眠りが深すぎて、一回寝たらもう何しても起きてくれないのだ。いつになるかも分からない、先生の起床を待つのは中々に苦行…いやもう慣れたが。
本当に才能だけで、今の地位に成り上がった…成り上がらされた?人なのだろう。
本人はど田舎の教会の神父が希望だったらしいが。人生何がどう転べば、そんな田舎でスローライフを望む人が、世界を巡る旅に出るのだろうと言う感じである。
「スプーンはあっち」
「ん」
席を立って、空いているソファーへと座る。
しれっと隣に奴も座って来たが…まあ他に空いている場所もないため致し方ない。これが定位置となりつつあるのには、切実に納得がいかないが。
普通、男女で別れない?
「わたくし「まっちゃ?」と言うものは初めて聞きましたわ」
「チョコレートも少し前にこの国に入って来たものだしな」
正面の物珍しそうな2人が言う通り、どちらもこの国で一般的なものではない。
故に…殿下がバニラ、アンネマリーがストロベリーを選んだのも必然であろう。
まあチョコレートの方はバレンタイン?とか言うイベントによって、一気に知名度を広げたが。
抹茶は本当に珍しい…しかもアイス
後で先生にお店教えてもらおうと、密かに決意するのであった。
「そう言えば、さっきも思いましたのだけれど…ウィリアム様は、ルイス先生のことを呼び捨てにしていますのね?」
アンネマリーの不思議そうな問いかけに、なぜか私と殿下が固まった。
「あの人に敬称を付ける気にはなれないんですよ」
「ふむ、よく分かりませんわね」
だが当の本人は意味の分からない回答をして…
「そう言えば、エルシア!この前、美味しいクッキーをいただいて…」
アンネマリーもさして興味は無かったのか、話はすでに私の方に移っているのである。
おぅ…2人とも想像以上にドライ
アンネマリーの話に相槌を打ちながら、唯一この気持ちを共有し合える殿下とチラリと顔を見合わせ、お互い何とも言えない顔をする。
前々から思っていたが、アンネマリー…奴への対応が完全なる塩なのである。と言うか、2人で話してるところを、そもそもあまり見たことがない。そりゃあ、生徒会の仕事ではそこそこ話すが…それ以外は一切ない気がする。
ただ同じ空間にいるだけで…あれ?もしかしてあの2人仲悪いのか?
ちなみに、先生と奴が仲悪い?と言うか、奴が一方的に先生のことを嫌っているのは、昔からのことである。理由は知らないが。
「ねえ、シア」
「ん?」
そんなことを考えていたからか…
「アイス溶けてるよ?」
「…!?」
手元のアイスはまだあまり食べないうちに、ドロドロになってしまったのである。
「いやー!?これもう液体じゃん!?」
「そのまま飲めば?」
「絶対嫌!?」
アイスはアイスだから美味しいのであって、液体化したものはもはや別物だ。
「冷凍庫で再冷凍すれば…あ」
良いことを思いついてしまった。
隣の奴を見上げれば、あからさまに顔を顰められる。私が何を言い出すのか察したのだろう。
「よろしく」
嫌そうな顔で私が押し付けたカップを、渋々ながら受け取った奴は、もう片方の手をその上に掲げて…
「俺にこんなことさせるの、君くらいだからね?」
「何事も適材適所よ~」
「絶対今使う言葉じゃないから」
あっという間にアイスを凍らせてくれたのである。
「ん、こんなものじゃない?」
アイスを掬って差し出されたスプーンに、そのままパクりとかぶりつく。
「うーん…もうちょい硬くてもいい」
「我儘だね」
そう言いながらも調整してくれるのだから、やはり魔法に関してはプライドがあるのだろう。
実際、旅の途中もなんか色々とめんどくさかったのだ。魔法の結果が思った通りにいかないと、コイツは自分が納得が行くまでとことん追求したがる。そして毎度毎度、その検証に付き合わされる私たち…流石に可哀想過ぎるだろう。
「はい」
再び差し出されたスプーンにかぶりつき…
「ん!よき」
理想的な硬さのアイスに、私はオッケーサインを出すのであった。
「ふーん…」
そんな私の反応を見た奴は、そのままアイスを再び掬って自分の口へと含んだ。
…ん?そう言えば私、自分のスプーンずっと持ったままだな?
なら、今まで差し出されていたスプーンは…?
「うん、我ながらいい出来…」
「きゃー!?殿下、ご覧になられまして!?」
「ああ、流れるように「あーん」して、間接キスしてたなこの2人」
アイツの言葉を、興奮したようなアンネマリーが遮って…ん?殿下、今なんて言いました?
「可愛い…私もエルシアに「あーん」ってしたいですわ」
アンネマリーは両手を頬に当てながら、なぜかうっとりした表情をしている。
「アンネマリーは相変わらずとして…何度も言っているが、お前ら、時と場所はちゃんと選べよ?俺ら以外の人に見られたら、色々と終わるからな?」
「シアはともかく、私はちゃんと考えてますよ」
「私が考え無しみたいに言うな!?」
確かに流されてしまった自覚はあるが…
殿下からの呆れたような視線から逃れながら、改めてコイツとの距離感を気を付けようと、心に誓う私なのであった。




