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月曜日のオリーブオイル

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# 月曜日のオリーブオイル


 月曜の昼過ぎだった。


 梅雨の晴れ間で、蒸し暑い日だった。窓を少し開けると風が入ってきたが、湿気ごと入ってくる感じがして、すぐ閉めた。


 客は二人。四十代くらいの男性と、それより少し若い男性だった。若い方が、仕事着のままで来た様子だった。白いシャツに黒いエプロンの紐が首のあたりに残っていた。外してくるのを忘れたのかもしれなかった。


「シェフ、今日は早上がりですか」


 年上の方が言った。


「仕込みが早く終わったから。来週のメニューを少し変えようと思って」


「それはいいですね」


「考えが煮詰まったから。コーヒーでも飲みながら」


 私はブレンドを二つ出した。


「何を変えるんですか」


「オイルを変えようと思って。料理に使うオリーブオイル」


「また細かいところ」


「細かいところが大事なんですよ」


 年上の方が少し笑った。


「オリーブオイルって、種類があるんですか」


「ありますよ。大きく分けると、まずエクストラバージンと、そうじゃないやつに分かれる」


「エクストラバージンはよく聞く」


「オリーブを絞っただけのもの。精製してない。だから風味が残る。酸度が低いほどいいとされてて、基準があって、それを満たしたものだけそう名乗れる」


「そうじゃないやつは」


「精製してあるやつ。熱を加えたり、化学処理をして、風味や色を取り除いたやつ。それにエクストラバージンを少し混ぜたのが、ピュアオリーブオイルとか、オリーブオイルとか呼ばれてるもの。あとポマスっていうのもあって」


「ポマス」


「絞ったあとのオリーブの絞りかすから、溶剤で油を抽出したやつ。グレードとしては一番下で、値段も安い。業務用でよく使われる」


 年上の方が、少し考える顔をした。


「じゃあスーパーで売ってる安いやつは」


「スペインとかトルコとか、大量生産できる産地のやつが多い。イタリア産って書いてあっても、詰めてる場所がイタリアなだけで、オリーブ自体は別の国産ってことも普通にある」


「それは」


「法律的にはグレーというか、産地表示のルールが国によって違うんで。全部が偽物ではないけど、ちゃんと読まないとわからない」


「味は違いますか、産地で」


「違います。スペインのはあっさりしてて、クセが少ない。イタリアのはもう少し苦みというか、青い感じが出やすい。ギリシャのはしっかり風味があって、どっしりしてる。産地だけじゃなくて品種でも変わるから、一概には言えないけど」


 私はコーヒーのお代わりを注いだ。


「グレープシードオイルとかと比べてどうですか。最近そっちをよく見る気がして」


「グレープシードはクセがない。風味が少ないから、食材の味を邪魔したくないときにいい。でも多価不飽和脂肪酸が多いから、熱に弱い。炒めるのにはあんまり向かない」


「オリーブオイルは」


「一価不飽和脂肪酸が主で、熱には比較的強い。エクストラバージンは風味が飛ぶからあんまり高温調理に使わない方がいい人もいるけど、自分は使いますよ。あの風味が料理に入るのがいいから」


「体にいいのはどれですか」


「オリーブオイルはよく言われますよね。心臓病のリスクとか、オレイン酸の話とか。でも油の話は研究ごとに結論が変わったりするから、あんまり絶対的なことは言えない。とりあえずトランス脂肪酸が少ない方がいい、っていうのは共通してる」


「エクストラバージンが最善、ということにはならない」


「コスパと用途によりますよ。毎日ドレッシングに使うならいいけど、炒めものに大量に使うなら精製されたやつの方が扱いやすいし、安い。全部エクストラバージンにしてもいいけど、財布が持たない人の方が多いから」


 年上の方が少し笑った。


「結局はバランスか」


「料理はだいたいバランスで落ち着く」


「で、何に変えるんですか。メニューのオイル」


「パスタのフィニッシュに使うやつ。今はスペインのブレンドを使ってるんだけど、もう少し青い感じのあるやつにしたくて。シチリアのを試してみようかと」


「値段は」


「上がる。でも量は少しだから、皿単価で見たら誤差の範囲」


「誤差の範囲に収める計算が先にある」


「それが仕事ですよ」


 二人はしばらく話してから、立ち上がった。若い方のエプロン紐が、立ち上がった拍子に揺れた。


「ごちそうさまでした」


「またどうぞ」


 ドアが閉まった。


 オリーブオイルの話を、私はほとんど知らなかった。使っているのに、名前くらいしか知らなかった。棚から取るとき、産地を確認したことはなかった。シチリアとスペインとトルコで味が違うとすれば、これまでどんな味で作っていたのか。今さら気になった。


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