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火曜日のサプリメント

# 火曜日のサプリメント


火曜の昼過ぎは、たいてい静かだ。

今日はカウンターに一人、中年の女性が座っていた。ブレンドを頼んで、スマートフォンを見ていた。何かを調べているらしく、ときどきメモを取った。

そこへ、同年代くらいの女性が入ってきた。

「あ、いた」と言って、カウンターに近づいた。「ごめん、少し遅れた」

「全然。まだ来たばかり」

「何調べてたの」

「サプリ」

「また?」

「また」

後から来た女性がカウンターに座って、ブレンドを頼んだ。


「何のサプリ、今度は」と後から来た方が聞いた。

「睡眠。最近眠りが浅くて」と先にいた方が言った。

「薬は飲んでないの」

「薬はちょっと。まず試せるものから、と思って」

「サプリって、効くの?」

「効くやつと効かないやつがある」と先にいた女性がスマートフォンを見ながら言った。「きちんとエビデンスがあるやつと、なんとなく売ってるやつと、全然違う」

「エビデンスって、論文がある、ということ?」

「そう。ちゃんと臨床試験をやって、査読のある論文に載っているやつは、一応信用できる。そうじゃないのは怪しい」


私はコーヒーを出しながら聞いていた。


「睡眠だったら何がいいの」と後から来た方が聞いた。

「グリシンとテアニンは、論文がある」

「どういうもの?」

「グリシンはアミノ酸。体の末端の血流をよくして、深部体温を下げる。深部体温が下がると眠りやすくなる、という仕組みで。テアニンは緑茶に含まれてる成分で、リラックス効果がある。どちらも、飲んで何時間か後に効いてくる感じ」

「副作用は」

「ほぼない、とされてる。薬じゃないから、劇的に効くわけでもないんだけど」

「薬じゃないから、効果をうたえないんだよね、サプリって」

「そう。法律上、効果を明記できない。だから『睡眠をサポート』とか『おやすみ前に』とか、ぼかした書き方をしてる。でも中身を見ると、ちゃんとした成分が入ってたりする」


「マグネシウムはどう?」と後から来た方が聞いた。「最近よく聞く気がして」

「マグネシウムもいい」と先の方が言った。「睡眠に限らず、色々な酵素反応に関わってる。現代人は食事から取れる量が減ってるから、不足しやすいと言われてて」

「不足するとどうなるの」

「筋肉がつりやすくなるとか、疲れやすくなるとか、イライラしやすくなるとか。色々」

「全部当てはまる気がする」

「マグネシウムは国内のドラッグストアだと高くて。海外のサイトで買う方が、同じ成分が三分の一くらいの値段で手に入る」

「海外サイト、使ったことないけど大丈夫?」

「ちゃんとしたところを選べば大丈夫。個人輸入の範囲内だし。私はいくつか使ってるけど、問題なかった」


カウンターの少し離れたところに座っていた男性が、こちらに顔を向けた。三十代くらいで、コーヒーを飲みながら本を読んでいた。

「すみません、海外サイトって、どこを使ってますか」と聞いた。

「あ、聞こえてましたか」と先の女性が言った。「iHerbとか、Amazonの海外版とか、使ってます」

「iHerbは知ってます。使ったことはないんですが」

「何かお悩みですか」と後の女性が聞いた。

「目が疲れやすくて。仕事でずっとパソコンを見てるもので」

「それならルテインですね」と先の女性が即答した。

「ルテイン」

「目の黄斑部に蓄積する成分で、光のダメージを防ぐとされてる。これもそれなりにエビデンスがある。ただ、断言はできないですけど」

「断言はできない」

「サプリはあくまで補助なので。劇的に治るわけじゃないし、合わない人もいる。でも試す価値はあると思ってます」

「どれくらい飲めばわかるものですか」

「三ヶ月は試さないとわからないと思います。効果が出るのが遅いので」


男性がうなずいた。「詳しいですね」

「趣味みたいなもので」と先の女性が言って少し笑った。「論文読むのが好きで、気がついたら詳しくなってて」

「論文まで読むんですか」

「難しいのは読めないですけど、アブストラクトだけ読んで、大体のことはわかる程度には。PubMedというサイトで検索すると、色んな研究が出てくるので」


「疲れやすいのも気になってるんですが」と男性が続けた。「何かいいものありますか」

「疲れやすいのは、鉄不足の可能性があります。特に男性でも鉄不足の人は意外と多くて。フェリチン値って、測ったことありますか」

「ないです」

「通常の血液検査では出ないことが多いので、自分で頼まないと測ってもらえないんですが。貯蔵鉄の量で、これが低いと慢性的な疲れになりやすい」

「病院で頼めるんですか」

「頼めます。ただ、保険が効かないことも多いので、自費になることもある」

「なるほど」と男性が言った。


「コエンザイムQ10も疲れに効くって聞きますけど、どうですか」と後の女性が聞いた。

「Q10は、論文が結構ある」と先の女性が言った。「細胞のエネルギー産生に関わる成分で、加齢とともに体内の量が減るとされてる。ただ、吸収率が商品によってかなり違う。酸化型と還元型があって、還元型の方が吸収されやすい。ユビキノールって書いてあるのが還元型」

「ユビキノール」

「覚えにくいですよね。でも商品を買うときに見た方がいい。同じQ10でも、吸収率が全然違うから」

「そういう細かいことがわからなくて、結局何を買えばいいかわからなくなるんですよね」と後の女性が言った。

「そうなんですよ」と先の女性が言った。「情報が多すぎて。だから私は、自分の悩みに絞って、一個ずつ試すようにしてる。全部一度に飲んでも、何が効いてるかわからなくなるから」


「ビタミンDはどうですか」と先の女性が後の女性に言った。

「聞いたことある」

「日光に当たると体内で合成されるんだけど、在宅ワークが増えてから不足している人が増えてる、という研究がある」

「不足するとどうなるの」

「免疫機能が落ちるとか、気分が落ちやすくなるとか、骨が弱くなるとか。ただ、脂溶性だから体に蓄積する。水溶性のビタミンCと違って余分は尿で出ていかないから、過剰摂取に注意が必要」

「飲めばいいというものでもないんですね」

「適量は大丈夫。ただ、量に気をつける必要があるサプリのひとつですね」


「オメガ3はどうですか」と後の女性が聞いた。

「DHA・EPAのことですね。これは論文が多い。脳の働きをサポートするとか、血液をさらさらにするとか、炎症を抑えるとか。ただ、魚をちゃんと食べている人にはサプリで補わなくてもいい場合もある」

「サバ缶とかイワシ缶で代替できるんですよ。毎日じゃなくても、週に二、三回でも違う」

「サプリより安上がりですね」

「食べられるなら食べ物から、が基本です」と先の女性が言った。「サプリはあくまで補助。食生活を変えるのが難しいから、サプリを使う、という順番で」


「なんでそんなに詳しくなったんですか」と後の女性が聞いた。

「体の調子が悪かった時期があって、自分で調べ始めたのがきっかけで」と先の女性が言った。「医者に行っても異常なし、って言われて、でも明らかに疲れやすかったから。それで色々調べたら、鉄不足だったことがわかって」

「フェリチンが低かった?」

「そう。鉄のサプリを飲み始めたら、半年くらいで体が楽になった。それから興味を持って、色々調べるようになって。気がついたら詳しくなってた」

「体験から来てるんですね」と後の女性が言った。「だから説得力がある」

「でも、人によって合う合わないがあるから、断言はできなくて」と先の女性が言った。「これで絶対よくなる、とは言えない。ただ、試す価値はあると思って、伝えてる」


男性がコーヒーを飲み終えた。「参考になりました」と言って、メモを取った。

「断言はできないですけど、と言いながらかなり詳しく教えてしまいました」と先の女性が笑った。

「いえ、助かりました」

「鉄のサプリを買うなら、ビスグリシン酸鉄というのが吸収率が高いので。商品名より成分名で探す方がいいです」

「ビスグリシン酸鉄」と男性が繰り返した。「メモします」

男性は本を閉じて立った。会計をして、「ありがとうございました」と言って出ていった。


「なんか、いつもこうなるのよね」と先の女性が言った。

「あなたが詳しいから」

「でも好きだから、しょうがない」

「サプリの値段の差って、成分よりも宣伝費の差だったりするのよ」と先の女性が続けた。「パッケージがきれいで、CMを打って、というやつは高い。中身が同じでも」

「それは世知辛い」

「世知辛いわよね」と先の女性が言って、コーヒーを飲んだ。


二人はしばらくその後も話して、帰っていった。先の女性が会計のとき、「ここ、話しやすいですね」と言った。「静かだから」

「ありがとうございます」と私は言った。

「また来ます」と言って出ていった。


効くやつと効かないやつがある。成分が同じでも、吸収率が違う。宣伝費で値段が変わる。コーヒーも、似たようなことが言えるかもしれない。豆の質と、焙煎と、淹れ方と、全部が揃って一杯になる。どれか一つが違うと、変わるのだ。



サプリメントついつい買いすぎて余らせてます。

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