月曜日のリュック
# 月曜日のリュック
七月上旬の月曜日。
梅雨の晴れ間で、朝から強い日差しだった。湿気はそのままで、光だけが夏に近づいている。
午後になって、二人の男性が入ってきた。
三十代くらいで、二人ともリュックを背負っていた。一人は細長い縦型、もう一人は四角いボックス型だった。
「アイスコーヒーを二つ」
席に着いてリュックを下ろすとき、四角い方の男性が少し手間取っていた。
「やっぱりおろしにくいな、これ」
「でも見た目はいいじゃないですか」
「見た目はいい」
「見た目はいい」
私はコーヒーを準備しながら、その会話を聞いていた。
「最近、四角いリュック増えましたよね」と細長い方が言った。
「増えた。街で見かけると、あ、また四角いのいるって思う」
「買わないんですか」
「買えないんですよ。カラビナが付けられなくて」
「カラビナ」
「これ見てください」
四角い方の男性が自分の細長いリュックを持ち上げた。サイドのDカンにカラビナがいくつかぶら下がっていた。
「傘と、エコバッグと、あとこれはサブポーチです」
「なるほど」
「四角いやつ、Dカンが少ないか、ないかなんですよ。見た目をすっきりさせるためだと思うんですが。私には無理だ」
「機能派ですね」
「機能派です」
「四角いリュック、中はどうなってるんですかね」と細長い方が聞いた。
「仕分けが難しい。上まで四角いから、どこに何があるかわからなくなる」
「容量はありそうだけど」
「容量はある。でも出し入れがしにくい。ファスナーが背面にあるタイプだと、いちいちリュックを下ろして立てかけないといけない」
「それは面倒だ」
「昔のリュックって、上にガバッと開くやつが多かったじゃないですか。登山用みたいな」
「ありましたね。上がぱかっと開くやつ」
「あれはあれで入れにくかったけど、出し入れは早かった。今は背面ファスナーかサイドアクセスが多くなって、取り出しやすさで言ったら進化してると思うんだけど、四角いのはまた別の問題が出てきた感じがする」
私はコーヒーを二つ持っていった。
「ありがとうございます」
「丈夫さはどうなんですかね、四角いやつ」
「形を保つために芯が入ってるんですよ。だから丈夫は丈夫。でも重い」
「芯が入ってるのか」
「もちろんそうじゃないのもある。バックパックっていう言い方もありますけど、あのボックス型は形状維持のためにフレームか板が入ってて。それで重くなる」
「背負いやすさはどうですか」
「重心が高い位置に固定されるから、荷物が暴れない。その点は背負いやすい。ただ、中身が少ないときでも型崩れしないから、空気を背負ってる感じがする」
「空気を背負ってる」
「空気を背負ってる」
細長い方の男性がコーヒーを飲んだ。
「安いやつと高いやつって、何が違うんですかね」
「素材と縫製と、あとショルダーのクッションです」
「ショルダー」
「安いやつは肩紐が薄くて、重くなると食い込む。高いやつはクッションに立体構造があって、荷重が分散される。背面パッドも通気性が違う」
「蒸れるやつと蒸れないやつがあるのか」
「梅雨の時期は切実な問題です」
二人が少し笑った。
「スーツにリュック、当たり前になりましたよね」と四角い方が言った。
「昔はおかしい、みたいな空気があった」
「今はむしろスーツにショルダーバッグの方が少ない」
「電車に乗るなら、リュックは邪魔になるって言われてましたよね。前に抱えるか、棚に上げるか」
「今でもそれが正しいはずなんですけど。あんまり気にしている人を見なくなった」
「気にしている人が減ったのか、気にしなくなったのか」
「どっちですかね」
私はカウンターを拭きながら、その問いを聞いていた。
答える立場ではないので、何も言わなかった。
会計のとき、四角い方の男性がリュックを背負い直した。
「バックパック、ナップサック、デイパック、リュックサック」と細長い方が言った。
「急にどうしたんですか」
「全部同じもののことですよね」
「だいたい同じです。ナップサックは薄手の巾着型を指すことが多いですけど」
「呼び方がいっぱいある」
「呼び方がいっぱいある」
二人が出ていった。
ドアが閉まって、静かになった。
私は窓の外を見た。商店街を歩く人が何人か通った。みんなリュックを背負っていた。四角いのが、二人いた。
背負い方の正しいやり方というのも、あるらしい。肩紐を短めに調整して、リュックを背中に密着させる。腰ベルトがあるなら使う。重いものを上に入れる。それを知っていても、長い時間かけて自分なりの背負い方が出来上がっていく気がする。正しいかどうかより、慣れた方が勝つのかもしれない。
わからないけれど。
機能性重視したいけど、流行りではないですよね。




