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何者にもなれないわたしたちへ  作者: 大柑子


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3/6

1番になりたかった俺



 期末テストの成績表が配られる。


 今回も順位は振るわない。中の上。地方の国立大ならまあいけるレベル。俺は小さい紙をくしゃりと握りつぶし、ポケットの中に入れた。


 昔から、何をしても中途半端だった。中学の時は剣道部に入っていて、それなりに真面目に練習をしていた。


 でも県大会に出場したことはなく、いつも市大会で敗退。団体戦に参加できたこともなかった。


 頬杖をついて、窓の外を見る。秋空が澄み切っていて、雲ひとつない快晴だった。


 うちは野球部が強い。今年の甲子園はベスト4まで行ったらしい。


 この高校出身のプロ野球選手もたくさんいる。3年の先輩はドラフト指名を受けたと聞いた。


 心に隙間風が流れ込んでくるようだった。俺には何もない。何か欲しい。俺も、一番になってみたい。



「なあ、お前結果どうだった?」



 隣の席の辻本が声をかけてくる。


 こいつは野球部で、何回かスタメンにもなってるすごいやつだ。ピッチャーをやってるらしい。


 プロの選手になんのかな、などと思っていた。でも最近は真面目に授業を受けているようにも見える。



「まあまあ。悪くないけどよくもない」


「そっか。俺も」



 へらっと笑って辻本は成績表を見せてきた。本当に俺と同じくらいの成績で、思わず笑みが溢れる。



「一緒だわ。辻本って勉強してんの?」


「うん。受験することにしたから本格的に始めた」


「え、まじ?」



 思わず驚きを露わにする。てっきりこのまま野球の道に進むのかと思っていた。



「どこ受けんの?」


「早稲田」



 この成績では難しいのではと思ったが、口に出さなかった。


 まだ1年以上あるし、このまま判定が上がらなければ担任が止める。



「すげー、俺まだ決まってねーわ」


「そんなもんだよな」



 数学の教師が教室に入ってくる。俺たちは話すのをやめて前を向いた。


 教師が号令をかける。黒板にチョークが走る音と、教師の声が漠然と耳に入ってくる。


 じんわりと、焦りが滲み出た。


 俺は、目標すら決まっていない。




 ⸻




 それから辻本はどんどん成績を伸ばしていった。まだ野球も続けてるし、毎日練習してるのにいつ勉強しているのか不思議だった。


 俺も辻本に感化されて、本腰入れて勉強をすることにした。帰ってからも寝るまで勉強し、土日もバイトを減らして勉強した。


 ここまで頑張ったのは初めてだった。なんだかんだ、中学の時の剣道も、2年までの勉強も、これほど頑張ったことはなかった。


 俺も、何かで一番を取ってみたい。



 猛暑が来て、最後の甲子園が終わった。今年も全校応援に行った。ベスト8だった。


 辻本はスタメンには選ばれなかった。どうやって話しかけるか悩んだが、本人も特に気にしてる様子はなかった。


 彼はこの前の模試でA判定を取ったらしい。


 1年前は俺と成績が変わらなかったはずなのに、ずいぶんと差をつけられてしまった。


 でも学年一位なら、俺でもきっと取れる。まだ期末テストはあと二回ある。




 ⸻




 12月。すっかり肌寒くなって、冬休みはもうすぐだ。


 今日は期末テストの成績表配布の日。あの小さい紙に、俺の全てが詰まっている。


 出席番号順に名前が呼ばれる。担任から短く声をかけられて、みんなが小さい成績表を受け取る。


 辻本は受け取ってすぐニヤニヤしていた。たぶん良い結果だったんだろう。


 俺の番だ。教師が手渡してくる紙切れを受け取る。


 いつもは何も言わないのに、笑って「よく頑張ったな」って言われた。もしかして本当に俺は⸻。




 3位だった。


 1位にはなれなかった。


 でも不思議と、悔しさはない。むしろ、晴々としている。


 努力に結果が付いてきた。1位ではなかったけど、それでも一生懸命頑張れた。


 その事実が何より誇らしかった。



「どうだった」



 辻本がニヤつきながら話しかけてくる。俺は黙って成績表を見せた。



「すげえ!3位!?」



 思ったよりでかい声で叫ばれて、少しだけ恥ずかしかった。辻本もドヤ顔で紙を見せてきた。9位だった。



「まじですげーよ、頑張ったな」



 辻本が笑顔で言った。俺は照れ臭くて、へへっと笑って目を逸らした。



「辻本の方がすげーよ。早稲田A判定だろ」


「まあな」



 1位は取れなかった。でも清々しい良い心地だ。


 努力はいいものだと思った。俺は、この経験を高校のうちにできて良かった。


 冬が明ければ春が来る。きっと俺は、最高の大学生活を送っていることだろう。



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