駒
信夫は縁側に腰を下ろし、温もりの残る木にもたれながら日向ぼっこをしている。
手にはサンドイッチ。
のんびりと頬張り、束の間の静けさを味わっている。
穏やかなひととき。
その時――
慌ただしい足音。
息を切らした声。
セン
「お願いします……!
もっと上手くできます!」
信夫が振り向く。
ケイリンがこちらへ歩いてくる。
センはその後を必死に追いかけている。
全身が土埃にまみれ、肩で息をしている。
そのさらに後ろを、涼司が黙って歩いている。
ケイリン
「だめ。」
セン
「もう一度だけチャンスをください!
僕は――」
ケイリン
「残響術は、お前には向いていない。」
沈黙が落ちる。
信夫はすぐに身を起こす。
サンドイッチのことなど忘れて。
信夫
「ちょっと待ってください……
何があったんですか?」
ケイリンは歩みを止めない。
ケイリン
「センは失敗しました。」
セン
「違います!
ちゃんと岩を砕いたじゃないですか!」
間。
ケイリン
「荷物をまとめなさい。
日が暮れる前にここを発ちなさい。」
信夫は固まる。
信夫
「えっ、ちょっと待ってください!」
返事はない。
ケイリンは一度も振り返ることなく歩き続ける。
彼女が残していった沈黙だけが重く漂う。
涼司が立ち止まる。
ほんの一瞬。
センを見る。
表情は変わらない。
それでも何かが伝わる。
抑え込まれた感情。
ほんのわずかな悔しさにも似たもの。
セン
「涼司……
僕は……」
言葉が続かない。
涼司は何も答えない。
だが、目を逸らすこともしない。
それだけで十分だった。
やがて彼は振り返り、
ケイリンの後を追う。
センはその場に立ち尽くす。
信夫がゆっくり近づいてくる。
信夫
「……さて。」
間。
信夫
「いい知らせは……
もう根っこばかり食べなくて済むってことだ。」
沈黙。
センには笑う余裕なんてなかった。
そのまま歩き去っていく。
***
冷たい光が部屋をかすかに照らしている。
ミナは壁にもたれかかって座っている。
両手首は背中の後ろで縛られている。
沈黙。
その時――
かすかな動き。
ミナの指先がぴくりと動く。
まぶたが震える。
彼女は突然息を吸い込む。
ゆっくりと目を開ける。
視界はぼやけ、
光がやけに眩しい。
何度も瞬きをしながら、
自分がどこにいるのか確かめようとする。
呼吸が速くなる。
身体をわずかに動かす。
だが縄がそれを許さない。
視線を落とす。
手首。
縛られている。
沈黙。
記憶が蘇る。
混乱。
家。
アサ。
痛み。
一瞬、息が止まる。
その時――
物音。
足音。
ミナはゆっくりと顔を上げる。
扉が開く。
闇の中に――
一つの人影。
微動だにしない。
シェイド。
彼は動かない。
ただ見つめている。
長い沈黙が流れる。
ミナはその視線をまっすぐ受け止める。
ミナ
(弱々しく、それでも鋭く)
「ここ、どこ?」
返事はない。
ミナ
「いつまで縛っておくつもり?」
シェイド
「お前次第だ。」
その声は穏やかだ。
感情がない。
ミナはわずかに眉をひそめる。
ミナ
「人をさらっておいて、選択肢までくれるんだ。」
シェイド
「お前は『人』じゃない。」
沈黙。
ミナ
「私に何の用?」
シェイドはすぐには答えない。
ゆっくりと近づく。
シェイド
「俺は何も望んでいない。」
ミナ
「……嘘。」
シェイド
「お前は取引材料だ。
ただの交換材料にすぎない。」
ミナは眉をひそめる。
ミナ
「誰との?」
シェイドは答えない。
出口へ向かう。
ミナ
「ちょっと!
まだ話は終わってない!」
シェイドは部屋を出る。
扉を閉める。
ミナ
「戻ってこい、このサイコ野郎!」




