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潜入の夜

ミナは体を起こす。


ミナ

(慌てて)

「え?な、何のこと?」


セン

(視線を外さず)

「とぼけるな。ネックレス。

どうやって俺に気づかれずに取った?」


ミナは一歩後ずさろうとするが、背後の木に阻まれる。


ミナ

(早口で)

「えっと……それは……その……ちょっと複雑で!」


セン

(さらに詰め寄る)

「複雑とか関係ない。今すぐ教えろ。

俺が寝てる間に部屋に入ったのか?」


ミナの心臓が跳ね上がる。


ミナ

「はあ!?違う!無理!絶対ムリ!」

もっと簡単だったし!」


――その瞬間。


センの脳裏に、朝の光景がフラッシュバックする。


_


ざわつく校庭。

朝の光が葉と濡れた石畳を照らしている。


センは無表情のまま校舎へ向かって歩いている。

ポケットには、ミナのネックレス。


――あのとき。


雄輝

(大声で)

「おーい!酒井!」


センが顔を上げる。


同時に――

小さな影が背後に滑り込む。

フードを被ったミナ。


音もなく近づく。

腕がわずかに動く。

空気すら気づかないほど滑らかに。


――そして。

ネックレスが、消える。


_


(――現実に引き戻される)


センは言葉を失う。


目の前のミナを見る。


思っていた以上に――

器用で、抜け目がない。


***


学校の寮・共用スペース。

センはソファにだらりと身を沈め、虚空を見つめている。

その隣では、雄輝とヒラキが、作戦を立てられない二人の将軍のように言い合っている。


ヒラキ

「酒井?ちゃんと聞いてるか?」


セン

(心の中で)

「あの女……ほんとに変だな……もしかして、躁鬱か……?」


ヒラキ

「酒井?」


セン

(我に返って)

「……ああ、悪い。」


ヒラキは咳払いをし、わざとらしく真面目な顔になる。


ヒラキ

「いいか……今夜が最後のチャンスだ。

信夫の見回りが終わるのを待って、それから動く。」


セン

「で、その後は?」


雄輝は肩をすくめる。


雄輝

「いや……ロッカーに隠れて、様子見るとか……?」


沈黙。


セン

「……それ、さっきのよりひどくないか。」


ヒラキはため息をつく。


ヒラキ

「じゃあどうやって原校長の部屋に入るんだよ……」


そのとき。

後ろから声が飛ぶ。


ミナ

「原校長の部屋に入って、何するの?」


三人は同時に跳ね上がる。

まるで警報でも鳴ったかのように。


ミナが、いつの間にかそこに立っている。


雄輝

(完全に混乱して)

「いや全然!じゃなくて――えっと、その……聞き間違いだよ、きっと!」


ヒラキ

(引きつった笑顔で)

「ひ、日野!やあ!元気?」


センはため息をつく。


セン

「コンテストの問題、取りに行く。」


ヒラキと雄輝は内心で絶叫する。


ヒラキ

(心の中で)

「こいつ正気か!?」


雄輝

(心の中で)

「終わった……完全に終わった……」


ミナは目を細める。


ミナ

「……本気で言ってる?」


センはミナの方を見る。


セン

「ちょっと来い。」


返事も待たず、少し離れた場所へ連れていく。


セン

「コンテストの問題を手に入れるの、手伝ってくれ。」


ミナは腕を組む。警戒している。


ミナ

「なんで私がそんなことしなきゃいけないの?」


セン

「手伝えば……報酬は分ける。」


ミナ

「まだ勝てると思ってるの?

ずいぶん自信あるみたいだけど。」


セン

(眉をわずかに上げて、口の端を上げる)

「自信?違うな。現実的なだけだ。」


ミナは顔をしかめる。

その態度が気に入らない。


ミナ

(少し強がって)

「なんで私なの?」


セン

「自分で言ってただろ。ここ、誰より詳しいって。

(間)

それに……正直言って、お前、手癖いいしな。」


ミナは考えるふりをする。

まるで国際交渉でもしているかのように。


***


全校生徒百二十名が、コンテスト会場となる大ホールに集められている。

会場はこの日のために装飾されている。


壇上へ、原が歩み出る。

静寂。

足音一つひとつが、乾いた音となって響く。


「諸君。

ようこそ。

明日、本校にとって最も重要な行事の一つが行われる。

当日は報道も入る。自覚を持って臨みなさい。

このコンテストは、諸君の将来に繋がる可能性がある。

機会を掴み、結果で示せ。」


(一拍。)

鋭い視線が、会場全体をなぞる。


「なお、チーム分けは信夫さんが廊下に掲示している。

各自確認し、速やかに行動せよ。」


ヒラキ

(小声で、雄輝・セン・ミナに)

「お、今年チーム戦か。

これなら賞金も分けられるな。」


セン

(心の中で、うんざりして)

「……だる……」


原は背を向ける。

一瞬の静寂。


――次の瞬間。

控えめな拍手が広がる。


原は壇を降り、静かに会場を横切り、そのまま奥の扉から姿を消す。


ドアが閉まる。


――その瞬間。


爆発。


全員が一斉に立ち上がる。

椅子がきしむ。


そして――


人の波。

叫び声。

ぶつかる鞄。

走り出す足音。


廊下へと殺到する。

まるで、自分の未来がその先にあるかのように。


信夫

「落ち着け!走るな!

おい!危な――うわっ!」


信夫は押し流されそうになる。

誰も止まらない。


センも立ち上がる。

視線が会場をなぞる。


――ミナ。


目が合う。

一瞬。


混乱の中で、時間だけが止まる。


動かない二人。


その間を、肩や鞄、人影が流れていく。

遮る。

また遮る。


――そして。


ミナが、消える。


代わりに――


金色の子供の影。

太陽のように、まばゆい。


センは目を疑う。


目をこする。


――すべて、元に戻る。


***


ミナは校庭を歩いている。

どこか考え込んだ様子で、手袋をしたままポケットに手を入れている。


あやめ

「日野!」


その明るい声に、ミナは振り返る。


あやめ

「元気?」


ミナは警戒したまま彼女を見る。


ミナ

「何の用、水野?」


あやめ

「えっと……同じチームになったでしょ?

掲示、見てないの?」


ミナ

「見てない。」


あやめ

「藤本と酒井と一緒だよ。

……悪くない組み合わせじゃない?」


ミナは何も答えない。

目をわずかに細める。


あやめ

「まあ、とにかく……藤本と一緒に勉強してね。」


ミナ

「で、あんたは酒井とってわけ?」


あやめ

「うん、そういうこと。」


あやめは軽く微笑む。

だがその声には、わずかな緊張が混じっている。


あやめ

「それと、もう一つ……

酒井には近づかないで。」


ミナの中で、怒りがじわりと膨らむ。

拳が無意識に強く握られる。


深く息を吸う。

感情を押し殺す。


その間に、あやめは何事もなかったかのように歩き去っていく。


***


夜。


センはベッドの上で眠っている。

シーツのないままのベッド。

隣には、まだ開けられていないままの荷物。


静まり返った部屋――


その静寂を、ドン、とドアを叩く音が破る。


センは驚いて、ベッドから転げ落ちる。

重く床に落ちる。


あやめ

「酒井?あやめだけど。」


センはびくっとする。心臓が速く打つ。


あやめ

「同じチームだし……よかったら一緒に勉強しない?」


センは音を立てないように、そっと窓へ近づく。

外を確認し――静かに開ける。


あやめ

「酒井?」


ゆっくりと窓枠をまたぐ。

気配を消すように。


あやめ

「酒井?いる?」


――そのとき。


茂みから、ひょこっと顔が出る。


ミナ

「何してんの?」


不意を突かれたセンはバランスを崩す。

そのまま、芝生に落ちる。


ミナの目の前で。


センは何も言わない。


ミナの口元に、小さな笑みが浮かぶ。

――おあいこ、だ。


その瞬間。


茂みの中から、もう二つの影。


ヒラキと雄輝。


木陰に半分隠れながら現れる。


ヒラキ

「よし、準備いいか?

さっさと行くぞ。こんなとこでモタモタしてられねえ。」

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