潜入①
ミナの頭が、壁の陰からわずかに覗き、周囲の様子をうかがっている。
セン
「日野、もういいだろ?スパイ映画じゃないんだぞ…」
ミナはぴくっと体をこわばらせる。
ミナ
「愛想、置いてきたの?」
ヒラキと雄輝が、不安げに視線を交わす。
雄輝
「そんな大きい声で話すのやめて…」
ミナは小さなノートを取り出し、さっと皆に見せる。
ミナ
「いい?よく聞いて。信夫は9時に当直が終わる。部屋に戻ったら、翌朝まで一歩も出てこない。」
ヒラキ
「ってことは、9時まで待つってことか…」
ミナ
「9時から巡回が交代するの。別の警備員が寮を担当して、本館の警備は手薄になる。もしそれより前に動いたら、巡回は必ずメインの廊下を通るし、監視カメラも今より活発に動いてる。警備責任者の黒沢は、全部オフィスから監視してるの。見つかったら自分で降りてくるわ…正直、最悪よ。」
彼女はノートにルートを描き込む。
ミナ
「資料室の裏にある非常階段を使う。人通りの多い廊下と、カメラの死角じゃない場所は避ける。区切りごとに壁に張り付くか、ドアの陰に隠れる。少しずつ進むの。私の合図があるまで、誰も勝手に動かないで。」
ヒラキと雄輝は、ぽかんと口を開ける。
ヒラキ
「すご…めちゃくちゃ細かいな…」
雄輝
「なあ…なんでそんなことまで知ってるんだ?」
セン
「言っただろ…あいつは世界ができた時からいるんだよ…」
雄輝とヒラキが小さく笑う。
ミナ
(呆れたように目を回して)
「ほんと、あいつ早くどっか行かないかな…」
遠くで、信夫がようやく本館から出て、自室へと戻っていく。ミナは満足げに微笑む。
ミナ
「今よ!行くわ!」
彼女は忍者のように壁に身を寄せて進む。雄輝とヒラキも、弓のように張り詰めた様子で後に続く。
センは軽蔑したような、どこか面白がるような表情でそれを眺め、普通に歩きながら後を追う。
小さな一行は静かに中庭を進む。木々や茂みが自然の隠れ場所になっている。先頭のミナは、本館周辺の動きを鋭く観察している。
ミナ
「いい感じ…私の後ろにぴったりついて、音を立てないで。」
遠くに、本館から列をなして出てくる警備員たちの姿が見える。重装備のまま、何人かは寮へ向かい、他は外壁沿いに移動して、それぞれ夜間巡回の持ち場へ散っていく。
ヒラキ
(ひそひそ声で)
「うわ…もう動いてるのか?」
ミナ
「ええ…9時よ。裏から入る。非常階段、カメラは避けて。」
彼らはしばらく低い塀の陰に身を潜め、警備員たちが散っていくのを見守る。ミナが手を上げる。
ミナ
「今。」
彼女は音もなくサービスドアへ近づき、静かに開けて中へ滑り込む。セン、ヒラキ、雄輝も慎重に後に続き、目を見開いて中へ入っていく。
***
ミナ
「よし、中に入ったわ。壁に張り付いて、ゆっくり進んで。」
静まり返ったホールを進む一行。足音がわずかに響く。ミナは顔を上げ、周囲の様子を確認する。
彼らは教師専用の脇の廊下へと足を踏み入れる。先頭を行くミナの後ろに、セン、ヒラキ、雄輝が慎重についていく。警備員たちはすでに視界から消え、外へ散っているため、空気がわずかに和らぐ。
雄輝
「本当にここ通るのか…?」
ミナ
「ええ…非常階段は一番奥。ここが一番見張りが少ないの。」
ヒラキ
(雄輝を安心させようとして)
「大丈夫だって…先生たちはみんな帰ってるし、危なくないって…」
ミナ
「一応言っておくけど、まだ職員室で仕事してる人もいるかもしれないし…いつ巡回の監督が休憩室から出てきてもおかしくないわよ…」
ヒラキと雄輝の顔が一気に青ざめる。
雄輝
「ヒラキ、俺…無理かも…父さんにバレたら終わりだ…」
ヒラキ
(拳を握りしめて)
「落ち着け、雄輝…」
そのとき、背後で物音がして、センが振り返る。懐中電灯の光が広いホールを照らす。
セン
「隠れろ!」
雄輝とヒラキは観葉植物の陰に飛び込み、体をねじって葉の中に隠れようとする。センはミナのジャケットをつかみ、壁のくぼみに引き込む。ミナは彼に押し付けられるような形になり、顔を赤らめて戸惑う。
センは集中していて、ミナの動揺には気づかない。警備員の足音がどんどん近づいてくる。雄輝とヒラキは息を殺しすぎて顔が赤くなる。
セン
「日野…どうする?」
ミナは焦るが、考える余裕がない。
警備員が近づく。光が彼らに向けられる。完全な静寂。ミナとセンは息を止める。
――遅い。
懐中電灯の光は、すでにセンとミナに当たっていた。




