選んだ代償
朝の淡い光が、閉ざされたカーテンの隙間から差し込もうとしている。
暖炉の火はすでに消えかけており、赤く燻る熾火だけが残っている。
アサは自分の家で椅子に縛りつけられている。
両手首は背もたれの後ろで拘束されている。
彼女はゆっくりと意識を取り戻す。
視界はぼやけている。
揺らいでいる。
まるで世界そのものが形を取り戻すのに時間を必要としているかのように、部屋の輪郭が少しずつ戻ってくる。
一つの人影が彼女の前に立っている。
日野だ。
日野
「ミナはどこだ。」
その声はほとんど震えていない。
だが、そのわずかな揺らぎが切迫感を隠しきれていない。
日野
「ミナはどこにいる?」
アサ
「もう、あなたにできることは何もないわ。
あの子の運命は、もうあなたなんかより遥かに大きなものになっている。」
日野は奥歯を噛み締める。
日野
「シェイド。
あいつは何者なんだ?」
アサ
「崩壊を生き延びたのは、私だけじゃないのよ、リク。」
日野は一歩近づく。
日野
「どうしてこんなことができたんだ?」
その声はもはや厳しいだけではない。
傷ついている。
アサは小さく笑う。
喜びなどない笑いだ。
アサ
「『こんなこと』?」
しばしの沈黙。
アサは日野を真っ直ぐ見つめる。
アサ
(感情を滲ませながら)
「酒井隼人が神殿に入ってきた時…… みんな死んだ。 友達の死体の上を這って、そこから逃げ延びるしかなかった時…… 私が待っていたのは、ただ一人だけだった。」
リクは動けない。
アサ
「でも、あなたは来なかった。」
リクの唇が震える。
彼はわずかに視線を逸らす。
日野
「俺は……
君は死んだものだと思っていた……」
声が途切れる。
日野
「それに、タミは俺を頼ったんだ。
ミナを守ってほしいと。」
アサの頬を涙が伝う。
重い沈黙が落ちる。
アサ
「じゃあ、私は?」
リクは一瞬目を閉じる。
答えられない。
アサ
「あの日…私を殺したのはあなたよ…」
その言葉に怒りはない。
ただ――
空虚だけがある。
アサ
「あの時、あなたは選んだ。
私はもう、そのことを恨んではいない。」
沈黙。
アサ
「でも今さら、私になぜこんな選択をしたのかなんて聞かないで。
私たちは皆、それぞれ守るべき約束があるのだから……」
日野の頬を、一筋の涙が流れる。
止めることはできない。
彼はゆっくりと息を吐く。
そしてアサを縛っていた縄を解く。
それ以上、何も言わない。
そのまま家を出ていく。
アサは去っていく背中を見つめる。
そして一筋の涙が、静かに頬を伝う。
***
アヤは学校の廊下を駆け抜ける。
足音が壁に響く。
角を勢いよく曲がる。
危うく足を滑らせそうになるが、寸前で踏みとどまる。
ノックもせずに監視室のドアを押し開ける。
モニターには、まだ夏休み中で生徒のいない校内の監視カメラ映像が映し出されている。
黒沢はモニターの前に座っている。
今にも眠りそうな様子だ。
彼は驚いて顔を上げる。
黒沢
「小林さん?」
アヤは息を整える暇もない。
アヤ
「原はどこですか?」
黒沢はわずかに眉をひそめる。
その切迫した口調に戸惑っている。
黒沢
「ここにはいません。」
アヤは固まる。
アヤ
「いないって、どういうことですか?」
黒沢
「今朝早くに出ていきました……」
アヤ
「話さなきゃいけないんです。今すぐ。
連絡を取る方法を探してください。」
黒沢
「落ち着いてください。
何があったんですか?」
アヤ
「ミナがいなくなったんです。
シェイドに連れて行かれました。」




