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試練の門

山道の途中。


センと信夫は巨大な竹林の中を歩いている。

風が葉を揺らす。

絶え間ないざわめき。

まるで囁き声のようだった。


朝の光が木々の隙間から差し込む。

揺れる影が地面を流れていく。


湿った土の匂い。

苔の香り。

山の空気が肺を満たす。


信夫は少し歩調を落とす。


セン

「大丈夫ですか?」


信夫

「ああ……ちょっと体が固くなってるだけだ」


しばらく歩く。

やがて。

竹林が途切れる。

視界が開けた。


センは足を止める。


目の前にあったのは古い神殿。

山肌に寄り添うように建てられている。

石造りの建物。

長い年月を物語る風貌。

岩肌には苔が生え。

古い刻印が刻まれていた。


_


センと信夫は神殿の前に立つ。


軒先には風鈴。

風が吹くたびに小さな音を鳴らしていた。


そこに一人の女性が立っている。

小柄な老人だった。

だが。

不思議な威圧感がある。

銀色の髪。

無造作にまとめられた髪型。

腕には古い紋様の刺青が刻まれている。

センには見覚えのない印だった。


老女の鋭い視線が二人を見据える。

まるで値踏みするように。


ケイリン

「信夫か。久しぶりだね」


信夫

「覚えていてくれたんですか?」


ケイリン

「当然さ。前に来た時も、お前はロバみたいに息を切らしていたからね」


信夫は気まずそうな顔をする。

ケイリンの視線がセンへ向く。

鋭い。


ケイリン

「そして、お前がセンだね」


センは動けない。

その視線だけで息が詰まりそうだった。


ケイリンが近づく。

見透かされている気がする。

迷いも。

恐れも。

何もかも。


ケイリン

「お前の前にも多くの者がここへ来た。挑んだ者もいる。途中で逃げ出した者もいる。自分の弱さに負けてね」


短い沈黙。


ケイリン

「そして、死んだ者も大勢いる」


空気が重くなる。

死んだ?


ケイリン

「どうして私がお前に時間を使わなきゃならない?」


センが口を開く。

だが。

ケイリンは手を上げる。

それだけで制された。


ケイリン

「言葉はいらない。言うだけなら誰にでもできる」


センの鼓動が速くなる。

空気がさらに重くなる。


ケイリン

「私は弟子なんて欲しくなかった。覚悟も規律もないなら、今すぐ引き返しな」


センは何も言わない。


ケイリンはじっと見つめる。

口元にわずかな笑み。

だが目は鋼のようだった。


やがて背を向ける。

重い神殿の扉を開く。


ケイリン

「入りな」


センは深く息を吸う。

そして一歩踏み出した。

信夫も後に続く。


二人とも分かっていた。

これから始まるのは。

ただの修行ではない。


***


一台の車が田舎道に停まる。

ミナと日野が車を降りる。


手には荷物。


車はそのまま走り去っていった。


目の前には広い畑。

その先に一軒の古い家が建っている。

夕陽に照らされた田舎家。

雨戸は少し色褪せている。


それでも。

どこか上品な佇まいだった。


鳥たちが空へ飛び立つ。

突然の来訪者に驚いたのだろう。


ミナは目を細める。

どこか懐かしい。

だが。

思い出せない。

そんな感覚。

そして気付く。


家の隣に立つ大きな木。

その姿だけははっきり覚えていた。

ミナは父を見る。

少し呆れたように。


ミナ

「この世界中で……よりによってここなの?」


日野

「ここを知っているのは俺たちだけだ。ここなら安全だよ」


日野は石畳の小道を進む。

玄関へ向かう。


ミナも後を追う。

気乗りはしない。


玄関の扉が軋む。

家の中。

家具には薄く埃が積もっていた。


だが。

家そのものは変わっていない。

どの部屋にも過去の面影が残っている。


日野は中へ入る。

ミナは一人。

しばらく玄関先に立ち尽くす。


庭の木を見つめていた。

不意に寒気が走る。

ミナは視線を逸らす。


そして家の中へ入った。


_


ミナはかつて自分が使っていた部屋の扉を開ける。


空気は重い。

まるで時間が止まったままのようだった。


ブラインドの隙間から差し込む光。

舞い上がる埃を照らしている。


机の上には開きかけのノート。

無造作に置かれた紙。


ミナはゆっくり近づく。

指先で机の縁をなぞる。


一つ一つの動作が慎重だった。

ふと。

記憶がよぎる。


ベッドの上に座るタミ。

膝を抱えながら笑っている。

一瞬だけの光景。


だが。

胸が痛むには十分だった。


ミナはベッドに腰を下ろす。

軋む音。

静かな部屋に響く。


ミナは部屋を見回す。


その時。

机の下に何かを見つけた。


ミナは身を屈める。

そして拾い上げた。


手袋越しに伝わる木の感触。

ミナは不思議そうにそれを見つめる。


小さな木製のツバメ。

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