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それぞれの風景

訓練室。


工具の音が静かに響いている。

金属が触れ合う小さな音。

机の上には設計図。

工具。

小さな装置が並んでいた。


日野は機械部品を調整している。


ミナが近づく。

少しの間。

その様子を眺めていた。

集中した父の姿。

どこか見ていて落ち着く。


ミナ

「飽きないの?」


日野

(笑いながら)

「好きなことは飽きないよ」


短い沈黙。


ミナ

「ねえ。アエノラの神殿って...本当に何も残ってないの?」


日野

「何も残らないなんてことはない....たとえ壁が崩れてもね」


沈黙が流れる。


日野が顔を上げる。

優しい。

だが鋭い眼差し。


日野

「どうしてそんなことを聞くんだ?」


ミナ

(小さく笑う)

「別に……ちょっと気になっただけ。昔はどんな場所だったのかなって」


日野は手を止める。

ゆっくり立ち上がる。

両手を背中に回した。


日野

「ミナ。沈黙には理由があることもある」


ミナ

「お母さんのこと。知りたいと思ったことないの?」


日野

「もう知っている」


ミナ

「みんなそう言うよね....でも本当に全部知ってるの?」


日野

「過去は複雑だ。踏み込めば傷つくこともある。理解するのも簡単じゃない」


沈黙。


ミナ

「実は昨日の夜――」


原慧

「荷物はまとめたか?」


原が階段を下りてくる。

訓練室へ。


原慧

「車が外で待っている」


日野

「そんなに俺たちを追い出したいのか?」


原慧

「まあな。仕事が山ほどある」


ミナと日野は顔を見合わせる。

何も言わない。

原慧の遠慮のなさには。

今さら驚くこともできなかった。


***


車の中。


センは窓の外を眺めている。

街並みは少しずつ消えていく。

代わりに山々が姿を現していた。


セン

「これから行く場所って。どんなところなんですか?」


信夫

「あそこだよ。正面の山の上」


センは視線を向ける。

一際大きな山。

周囲の山々よりも高くそびえていた。


セン

「行ったことあるんですか?」


信夫

「ああ。一度だけな」


セン

「共鳴の道を学んだんですか?」


信夫は思わず笑う。


信夫

「まさか。共鳴の道を極められる人間なんて千人に一人いるかどうかだ」


短い沈黙。


信夫

「あの時はケイに付き添っただけだ」


セン

「原先生って...残響術の使い手じゃないんじゃなかったんですか?」


信夫

「そうでもない。基礎くらいは知ってる」


短い沈黙。


信夫

「ただ。極められなかったんだ」


センの表情が曇る。


セン

「え?」


信夫

「分かるよ。信じられないだろ?」


セン

「はい……原先生って...何でもできそうに見えるので」


信夫は笑う。


信夫

「だからだよ。たくさん失敗してきたから」


短い沈黙。


信夫

「今の慧がいる」


センは黙る。

理解したような。

していないような。


曖昧な表情。

やがて窓の外へ目を向ける。

山々は少しずつ近づいていた。


***


ミナは窓の外を眺めている。

見渡す限りの田園風景。

どこか寂れている。

だが不思議と落ち着く場所だった。


ミナはゆっくり父を見る。


ミナ

「残響術について...どこまで知ってるの?」


日野は娘を見る。

数秒。

沈黙。

ミナが簡単には引き下がらないことを理解していた。


日野

「原はセンをアエンナオリの神殿へ送った。そこで別の術を学ぶことになる。もしかしたら」


短い沈黙。


日野

「それが力を制御する助けになるかもしれない」


ミナ

「もしできなかったら?」


日野

「やるしかない」


ミナ

「どういうこと?」


日野はため息をつく。


日野

「簡単な修行じゃない。危険もある」


ミナ

「え……?」


日野

「心配するな。


日野

「命に関わると判断したら、原はセンを最後までやらせたりしない」


ミナは納得していない。

表情を見れば分かる。


日野

「そういえば、さっき何を話そうとしてたんだ?昨日の夜がどうした?」


ミナ

「あ……」


ミナ

「いや、何でもない。ただの夢だったから」


日野は静かに頷く。

それ以上は聞かなかった。

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