アエンナオリへ
翌日。
学園のロビーは賑わっている。
旅行鞄を持った生徒たち。
大きなスーツケースを引く者もいる。
二週間の休暇が始まる。
センは正面玄関の近くに立っている。
足元には鞄。
外を見つめている。
階段の下。
車はすでに到着していた。
センの脳裏に浮かぶのはミナだった。
学園祭。
雄輝
「おーい! 酒井!」
センが振り返る。
雄輝とヒラキだった。
二人とも旅行鞄を持っている。
ヒラキ
「あれ?荷物それだけか?」
セン
「ああ……俺は家には戻らないんだ。原先生に補習を受けろって言われてて。途中入学だったから」
雄輝
「へぇ
それはむしろ親切じゃないか?」
ヒラキ
「でも大丈夫?昨日のパーティー途中で帰っただろ」
セン
「ああ……ちょっと頭痛がしてさ」
その時。
あやめが横を通り過ぎる。
ヒラキを見る。
ほんの一瞬だけ。
そして歩き去ろうとする。
ヒラキは小さくため息をつく。
だが。
あやめ
「ヒラキ?」
ヒラキが振り返る。
あやめ
「よかったら今週末...公園に行かない?」
ヒラキの目が見開かれる。
そして笑う。
小さく頷く。
あやめも微笑む。
そのまま歩き去っていく。
雄輝
「すげぇな……」
ヒラキ
「何が?」
雄輝
「前より怖くなくなってないか?」
ヒラキは呆れたように空を見上げる。
そして階段を下り始める。
雄輝も後を追う。
雄輝
「本当だって!」
ヒラキ
「じゃあな酒井!二週間後な!」
雄輝
「補習頑張れよー!」
センは手を振る。
その時だった。
ロビーに足音が響く。
原が現れる。
信夫を連れて。
原慧
「酒井。行くぞ」
センは鞄を持ち上げる。
そして原のもとへ向かう。
その背後。
柱の陰からミナが姿を見せる。
いつからそこにいたのか。
誰も知らない。
ミナは黙って見つめている。
遠ざかっていくセンの背中を。
_
外は眩しいほどの陽射しだった。
センは原と信夫の隣を歩く。
階段を下りる。
車はすでにエンジンがかかっていた。
信夫はタブレットを操作している。
信夫
「さてと」
ため息。
信夫
「俺は監視室に戻るか。何かあったら――」
原慧
「信夫」
信夫
「ん?」
原慧
「センと一緒に行ってもらう」
沈黙。
時間が止まる。
信夫
「……は?」
原慧
「アエンナオリの神殿へ行ってもらう」
信夫が瞬きをする。
一回。
二回。
信夫
「待て」
車を見る。
信夫
「この車で?」
原慧
「そうだ」
信夫
「あの山奥の?怪しい神殿に?」
原慧
「そうだ」
信夫
「電波もないあの場所に?」
原慧
「その通り」
信夫
「今から?」
原慧
「出発は三十秒前の予定だった」
信夫
「いや待て!!」
運転手が後部座席のドアを開ける。
運転手
「信夫様。お荷物でしたらトランクへお入れしますが」
原慧
「ありがとう。信夫の荷物ならもう入れてある」
信夫
「どの荷物だよ!?」
センはすでに車へ乗り込んでいる。
信夫を見る。
セン
「……すみません」
信夫
「お前も知ってたのか!?裏切り者!」
信夫は額を押さえる。
信夫
「慧」
原慧
「何だ」
信夫
「いつか絶対。俺に相談せず決めたこと全部まとめて請求してやるからな」
原慧
「請求書を楽しみにしてる」
信夫は深くため息をつく。
完全に諦めた顔。
そして車へ乗り込む。
信夫
「あの神殿....暖房すらないんだぞ……」
ドアが閉まる。
車が走り出す。
原はゆっくり手を振る。
どこか満足そうな笑みを浮かべながら。




