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学園祭 ②

音楽が変わる。

ゆったりとした。

穏やかな曲。

照明も少しだけ落とされた。


ヒラキはあやめを見つめている。

迷いが消えない。


だが。

次の瞬間。

立ち上がる。


そして。

まっすぐあやめの方へ歩き出した。


あやめはダンスフロアの近くにいる。

友人二人と話していた。

まだ笑っている。


だが。

目の前に立つヒラキに気付く。

笑顔が消える。


ヒラキ

「あやめ……」


あやめ

「今度は何?」


ヒラキは少しだけ躊躇う。

それから。

自然に手を差し出した。

ダンスへ誘うように。


あやめ

「冗談でしょ?」


ジュン

「あやめを放っておいて」


あやめが立ち去ろうとする。


その瞬間。

ヒラキはあやめの腕を掴む。

そして引き寄せた。


あやめの目が見開かれる。

距離が近い。

近すぎるほどに。


二人とも動けない。

視線がぶつかる。

音楽だけが流れている。


ヒラキ

「二年前……」


短い沈黙。


ヒラキ

「突然話してくれなくなったよな。理由も分からなかった」


短い沈黙。


ヒラキ

「でも今なら分かる」


ヒラキは言葉を探す。


ヒラキ

「母さんが出て行ったばかりだった。俺……」


短い沈黙。


ヒラキ

「何も見えてなかったんだ。お前を傷つけるつもりなんてなかった。ごめん」


沈黙が落ちる。


あやめ

「どうして何も言わなかったの?」


ヒラキは目を伏せる。


ヒラキ

「分からない…あの頃は本当に余裕がなかったんだ。だから許してほしいとは言わない」


短い沈黙。


ヒラキ

「ただ……後悔してるってことだけは知ってほしかった」


あやめは何も言わない。

ただヒラキを見つめている。


その時。

別の生徒たちの笑い声が響く。

二人は反射的にそちらを見る。

現実へ引き戻されたように。


だが。


交わした視線だけは残っていた。

言葉にならなかったものを抱えたまま。


ヒラキは手を離す。


そして背を向ける。

どこか肩の力が抜けていた。

口元には小さな笑み。


遠くでユキが親指を立てている。

ヒラキは小さく笑う。


_



センは原との短い話を終え。

会場へ戻ってくる。


そして。

ミナを見つける。


ゆったりとした音楽。

ミナは男子生徒と踊っていた。


ぎこちない動き。

慣れていないのが分かる。


センの表情が曇る。

その場で立ち止まる。

数秒。

動けない。


やがて。

ゆっくり歩き出す。

ミナに気付かれないよう。

距離を保ったまま。

センは見つめる。


その一つ一つを。

細かな仕草まで。

男子生徒の肩に置かれたミナの手。

揺れる髪。

視線を合わせられずにいる様子。

その全てを。


そして。

気付けば。

自分を重ねていた。

あの男子生徒に。


ミナの手を取る自分。

腰を引き寄せる自分。

首筋にかかった髪を払う自分。


センは瞬きをする。


セン

(心の中で)

「何考えてるんだ……」


ゆっくり後ずさる。

そして背を向ける。


その時だった。

首筋を何かが撫でる。

冷たい感覚。


センが立ち止まる。

笑い声。

音楽。

何も変わらない。


だが。

何かが違う。

低い音が響く。

遠く。

どこか別の場所から。

鼓動のような音。


センは周囲を見回す。

ミナを探す。

見つからない。


そして。

いた。


人混みの向こう。

ミナの姿。

離れていく。


センは歩き出す。


セン

「ミナ?」


返事はない。

歩く速度を上げる。

だが。

追いつけない。


窓際。


次の瞬間には会場の奥。


距離が縮まらない。


世界が歪み始める。

生徒たちの顔が止まる。

色が失われる。

耳障りな悲鳴。

赤く染まる光。

装飾が崩れる。

灰になる。

炎が広がる。


センはよろめく。

そこは地獄だった。

机が倒れている。

溶け落ちる装飾。

床に横たわる無数の人影。


遠くから笑い声が聞こえる。

歪んだ。

壊れた笑い声。


焦げた臭い。

灰。

焼けた肉の臭い。


その中心。

ミナが立っている。

動かない。

ただそこにいる。

表情はない。

虚ろな目。


センを見ている。

センは手を伸ばす。


セン

「ミナ!!」


一歩踏み出す。

その瞬間。

地面が割れる。

黒い根が這い出してくる。


生き物のように。

センへ向かって伸びる。

足に絡みつく。

逃げられない。


膝をつく。


セン

「ミナ!!」


ミナの姿が崩れる。

赤い光の中で。

砂になる。

灰になる。


そして。

消える。

沈黙。


鼓動。


一度。


そしてまた一度。

次の瞬間。

音楽が戻る。

笑い声も。

光も。


全て。


世界は元通りだった。


センは膝をついている。

荒い呼吸。

周囲では生徒たちが踊っている。

何事もなかったかのように。


目の前。

ミナが立っていた。

腕を組んでいる。

呆れたような顔。


ミナ

「……何やってるの?」

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