静かな変化
ヒラキはあやめを追いかけようとする。
だが。
その前にジュンが立ちはだかる。
怒りに満ちた顔だった。
ジュン
「放っておいて!あんたみたいな奴なんか必要ないから!」
雄輝
「おい!いい加減にしろよ!」
ジュン
「いい加減にするのはそっちでしょ!こいつは最低よ!」
雄輝
「ふざけんな!ヒラキは俺が知ってる中で一番優しい奴だ!」
ジュンが鼻で笑う。
どこか苦々しく。
ジュン
「そう...それはあんたが最近のヒラキしか知らないから」
ヒラキが眉をひそめる。
意味が分からない。
ヒラキ
「……何の話だよ」
ジュンはヒラキを見つめる。
責めるような目だった。
***
センは学園の公園を歩いている。
フードを深く被ったまま。
さっきミナと口論になったばかりだった。
セン
(心の中で)
「ほんと何なんだよ………どうしてあんなにしつこいんだ……」
短い沈黙。
セン
「いや…むしろ…あのまま食い下がってほしかった……」
短い沈黙。
セン
「本当は……俺は――」
ため息。
セン
「何考えてるんだ……」
短い沈黙。
セン
「それにあの雪……どこから降ってきたんだ?」
その時。
物音が聞こえる。
すすり泣き。
少し離れたベンチ。
あやめが座っている。
顔を両手で隠したまま。
センは少しだけ迷う。
そして近づく。
何も言わず隣に腰を下ろした。
ポケットからハンカチを取り出す。
あやめへ差し出す。
あやめ
(鼻をすすりながら)
「……ありがとう」
センは小さく頷く。
長い沈黙。
風の音だけが聞こえる。
セン
「話すか?」
あやめが顔を上げる。
泣き腫らした目。
苦笑する。
あやめ
「話してどうするの?私は平気だから」
セン
「ああ……そう見えるな」
あやめが小さく笑う。
あやめ
「その方が楽なの…平気なふりをしてれば誰にも傷つけられないから」
センはゆっくり頷く。
何も言わない。
言わなくても分かる気がした。
セン
「……人は勝手なことばかり言う…黙ってると今度は勝手に決めつける」
あやめが苦笑する。
あやめ
「センは?」
あやめ
「つらくても何も言わないタイプ?」
センは地面を見る。
しばらく考える。
セン
「俺は――傷つく前に傷つけるタイプかな」
あやめはセンを見る。
初めてだった。
強がりも。
皮肉もない。
ただ真っ直ぐな目だった。
あやめ
「そんな考え方やめた方がいいよ」
風が吹く。
あやめ
「いつか本当に大切な人を傷つけることになるから」
セン
(皮肉っぽく笑って)
「それをお前が言うのか?この学校で一番トゲがある奴なのに」
あやめは黙る。
風だけが通り過ぎる。
長い沈黙。
あやめ
「たまに思うんだ...昔の私だったら今の私を嫌いになってたかもって」
セン
「まだ間に合うだろ」
あやめが目を見開く。
少し意外そうだった。
センをそんな風に思ったことはなかった。
そして。
小さく笑う。
静かな。
どこか救われたような笑顔だった。
***
(レスベスト・メディア本社ビル――社長室)
夕日がゆっくりと沈んでいく。
広く豪華な執務室。
酒井隼人は街を見下ろしている。
その隣には息子の冷煌。
向かいには総務大臣の黒川翼 。
その隣には側近の中村義。
静かに様子を見守っていた。
黒川翼
(資料を机の上へ滑らせながら)
「こちらが写真です。全てここ三か月以内に撮影されたものになります。
隼人は写真を手に取る。
素早く目を通す。
黒川翼
「男は『シェイド』と名乗っています。
回収された社員証の識別名とも一致しました」
写っている男はフルフェイスの仮面を着けている。
顔は一切見えない。
隼人は眉をひそめる。
写真を机へ放り投げた。
酒井隼人
「ふざけるな。この酒井隼人が....こんな小物のテロリストを三か月も見逃していたとでも言うのか」
黒川翼
「標的の大半は政治関係者や競合メディアでした。
警察も我々と同じように...有力者同士の争いだと考えていたのです」
短い沈黙。
黒川翼
「ですが違った。全てシェイドの仕業でした」
隼人は黙る。
遠くを見るような目。
酒井隼人
(低く)
「トラマは?何か分かったのか」
黒川が首を振る。
黒川翼
「何も。痕跡すらありません」
次の瞬間。
隼人が机の上の資料を払い落とす。
義が思わず肩を震わせる。
隼人は窓の外を見る。
酒井隼人
「シェイドが何を求めているのか調べろ。そして誰が奴を支えているのかもだ」
黒川とヨシが視線を交わす。
義が前へ出る。
タブレットを取り出した。
中村義
「現時点で明確な声明は確認されていません。攻撃対象には一定の傾向があります。政治。そしてメディアです。
沈黙。
中村義
「単なる暴力ではありません。世論そのものを狙っているように見えます」
沈黙。
隼人が口を開く。
酒井隼人
「情報班を総動員しろ。奴が残した痕跡を一つ残らず洗え。
メタデータ。
中継サーバー。
通信記録。
どんな小さな手掛かりでも拾え」
短い沈黙。
酒井隼人
「資金の流れも追え。
匿名口座。
送金履歴。
寄付金。
奴一人で動けるはずがない...必ず支援者がいる。
流れを見つけろ」
さらに続ける。
酒井隼人
「裏社会にも当たれ。
ハッカー。
港湾の連中。
運び屋。
誰かは知っている」
短い沈黙。
酒井隼人
「なら吐かせろ」
ヨシが素早くメモを取る。
酒井隼人
「奴に選ばせる。
姿を現すか...追い詰められるか。
どちらにせよミスをする」
隼人は少し間を置く。
さらに低い声で続けた。
酒井隼人
「トラマとの繋がりも調べろ。
妄想だと思っていても構わん。
古い資料。
封印された記録。
忘れられた名前。
全て掘り返せ。
古い名を利用している者がいるなら。
必ず見つけ出せ」
黒川が静かに頷く。
黒川翼
「必要な人員を動かします。
法的な支援もこちらで整えましょう」
黒川と義が立ち上がる。
部屋を出ようとした時。
隼人が呼び止める。
酒井隼人
「奴をここへ連れて来い」
冷たい声。
酒井隼人
「私の前にな。
仮面程度で私に挑んだ代償を教えてやる」
重い沈黙。
黒川は黙って頷く。
二人は部屋を後にする。
扉が閉まる。
隼人はレイコを見る。
酒井隼人
「隼人 」
短い沈黙。
酒井隼人
「陽動を準備しろ。
本物に見える餌を流す。
見世物はいらん。
欲しいのはシェイドだけだ」
レイコの口元に薄い笑みが浮かぶ。




