表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
62/63

冬の気配

週末が終わる。

そして新しい一週間が始まる。


黒い車が鏡ヶ丘高等学校の前でゆっくりと停まる。


アキが先に降りる。

車を回り込み。

後部座席のドアを開ける。


センが降りる。


朝の空気が頬を撫でる。

ひんやりとしている。

心地いい。


センは鞄を肩に掛け直す。


その時。

ほんのわずかに笑みが浮かぶ。


アキはそれを見ていた。

少しだけ。

長く。


アキ

「……」


センが顔を上げる。


セン

「何だよ?」


アキは少し迷う。

そして首を横に振った。


アキ

「いえ」


短い沈黙。


アキ

「変わられましたね」


センが瞬きをする。


セン

「変わった?」


アキ

「ええ」


短い沈黙。


アキ

「初めてこちらへお送りした時は...この学校をご覧になる目が今とはまるで違いました」


周囲では生徒たちが登校している。

話し声。

笑い声。


朝の光が校舎を照らしていた。


センはしばらく立ち尽くす。

アキの穏やかな視線を受けながら。


その時。

声が響く。


雄輝

「酒井ー!」


振り向く必要はない。

誰の声か分かる。


雄輝が駆けてくる。

鞄はずれている。

髪も少し乱れていた。


雄輝

「週末どうだった?」


その後ろをヒラキが歩いている。

ポケットに手を入れたまま。


ヒラキ

「また会えて嬉しいよ、酒井」


センは少し驚く。

そして笑う。


アキ

「補習、頑張ってください」


センはアキを見る。

いつものような冷たい目ではない。

小さく手を上げる。


車が走り去る。


校舎へ続く階段。

センは歩き出す。

足取りは自然だった。


もう誰も見ていない。

誰もひそひそ話さない。

もう。

ここは居場所だった。


***


調理室は活気に満ちている。


ボウルのぶつかる音。

笑い声。

甘い香り。


生徒たちは忙しそうに動き回っている。


ケーキ。

クッキー。

様々な料理の準備が進んでいた。


部屋の奥。

ヒラキと雄輝は小さな作業スペースを作っている。


ヒラキはケーキ生地を型へ流し込む。

集中している。

少なくともそのつもりだった。


だが視線は何度も逸れる。

少し離れた場所。

あやめが他の女子たちと笑っていた。


雄輝

「ヒラキ、危ない!」


ヒラキがはっとする。

ボウルがぐらりと揺れる。

生地が少しテーブルにこぼれた。


ヒラキ

「悪い、悪い……」


雄輝

「今日どうしたんだよ?」


ヒラキ

「別に」


短い沈黙。


ヒラキ

「ちょっと寝不足なだけだ...これ焼いてくる。すぐ戻るよ」


だが。


ヒラキの視線はあやめへ向いたまま。

前を見ていない。


その時。

足がスツールに引っ掛かる。

バランスを崩す。


教室中の視線が集まる。

ケーキ型が手から離れた。

生地が宙を舞う。


そして。


あやめの髪に直撃した。

沈黙。


あやめ

「きゃああああっ!!」


教室が爆笑に包まれる。

ヒラキは顔面蒼白だった。


ヒラキ

「あやめ! 本当にごめん!」


あやめ

「絶対わざとでしょ、このバカ!!」


あやめは走り去る。


雄輝がヒラキの肩を叩く。


雄輝

「話しかけたいからって、バニラシャンプーする必要はなかったんじゃないか?」


ヒラキが深いため息をつく。


***


いつもと変わらない朝だった。

センは壁沿いを歩く。


肩には鞄。

視線は真っ直ぐ前を向いている。


その時。

センの足が止まる。


ミナ。


二人の男子生徒に囲まれている。

一人がミナの鞄を取り上げ。

手の届かないところで振り回していた。


ミナ

「返して!」


ミナの表情が強張る。

怒りが込み上げる。

抑えられないほどに。

一歩踏み出す。

拳を握る。


その瞬間。

誰かが手首を掴んだ。


男子生徒たちが振り向く。


セン。


二人の顔色が変わる。

言葉はいらない。

男子生徒たちはすぐに鞄を放す。

そして逃げるように立ち去った。


ミナ

「そうそう! 次は私がボコボコにしてやるからね!」


ミナは鞄を取り返す。

顔を上げる。


だが。

センはもう歩き出していた。


ミナ

「セン」


センの足が止まる。

ミナが追いつく。


ミナ

「いつまで私を避けるつもり?」


センは目を逸らす。


セン

「何のことだよ……」


ミナ

「本気で言ってる?シェイドの襲撃以来、一度もまともに話してないじゃん」


セン

「俺は……少し整理したいだけだ」


センは再び歩き出す。


ミナ

「ちょっと待って」


ミナはなおも後を追う。


ミナ

「私を蚊帳の外にして楽しい?

シェイドの襲撃の夜...何を見たの?」


センは顔を背ける。


セン

「やめろよ」


ミナ

「私は助けようとしてるんだけど!」


セン

「頼んでない!」


ミナが足を止める。


セン

「助けなんていらない。放っておいてくれ!」


呼吸が浅い。

まるで目が本音を漏らしてしまうのを恐れているようだった。


その時。


雪が舞う。

一片。

また一片。

晴れた空から。

細かな雪が静かに降り始める。


センは空を見上げる。

困惑した表情。


生徒たちは歩き続ける。

誰も気づいていない。

ミナもだ。


ミナ

(冷たく)

「分かった」


短い沈黙。


ミナ

「もういい」


ミナは背を向ける。

歩き去っていく。


センは口を開く。

何か言おうとする。

だが言葉にならない。


拳を握る。


雪は止む。

まるで最初から降っていなかったかのように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ