真実への扉
夜明けが近づいている。
一台のタクシーが鏡ヶ丘高等学校の前で停まる。
アヤが降りる。
顔色は悪い。
身体もまだ思うように動かない。
アヤはシオを支える。
どうにかタクシーから降ろす。
正門の警備員たちがすぐに気付く。
互いに顔を見合わせる。
警備員たちが駆け寄る。
警備員
「小林さん!」
アヤを支える。
そしてシオにも肩を貸す。
二人を支えながら校舎へ向かう。
階段を上るのを手伝う。
***
教職員棟。
上品なキッチン。
コーヒーメーカーが小さく音を立てている。
淹れたてのコーヒーの香りが漂う。
アヤは椅子に座っている。
毛布にくるまったまま。
指先がわずかに震えていた。
日野が湯気の立つ紅茶を差し出す。
そこへ信夫が入ってくる。
信夫
「ハタさんなら寝ました...大丈夫そう」
アヤが安堵したように頷く。
調理台の近く。
原は黙って立っている。
シャツは半分ほど開いたまま。
急いで起こされたことが一目で分かる。
視線はコーヒーメーカーへ向いている。
だが何も見ていない。
沈黙を破るようにアヤが口を開く。
アヤ
「慧……ごめんなさい……」
原はすぐには答えない。
やがてゆっくり振り返る。
原慧
「謝るな」
短い沈黙。
原慧
「それに……まだ終わっていない。隼人はまだ俺がタミの弟だと知らない」
信夫が顔を上げる。
信夫
「じゃあ……シェイドはアヤのところで何をしていたんだ?酒井と組んでると思うか?」
アヤが視線を落とす。
小さく首を振る。
アヤ
「分からない」
沈黙。
原が眉をひそめる。
原慧
「いや……」
原が顔を上げる。
原慧
「セイラムの狙いはミナだった」
日野が視線を落とす。
原慧
「問題は――なぜミナなのかだ」
アヤが毛布を握り締める。
アヤ
「シェイドは私のことを知りません...だから私なら調べられます」
原慧
「駄目だ」
原がテーブルへ近づく。
原慧
「シェイドが酒井と繋がっている可能性は消えていない。それに今のお前は動ける状態じゃない...休め」
日野が深く息を吐く。
日野
「じゃあどうする?
シェイドはいつ学校を襲ってきてもおかしくない...
それに酒井隼人はもうお前が脅威だと知っている...
センを利用されるかもしれない」
原は一瞬だけ目を閉じる。
原慧
「隼人は何もしない……」
重い沈黙が落ちる。
原慧
「少なくとも今はな...まだ俺たちの目的を知らない。まずは様子を見るはずだ」
信夫
「もし酒井がセンを学園から連れ出したら……」
原慧
「いや。隼人は息子の影響力なんて恐れていない」
短い沈黙。
原慧
「むしろ利用する。センを遠ざける理由はない」
そして。
原は日野を見る。
原慧
「日野。学園祭が終わったらミナをしばらくここから遠ざける」
日野が勢いよく顔を上げる。
日野
「何だと!?正気か!?」
原慧
「お前も言っただろう...ここにいればミナは危険だ」
短い沈黙。
原慧
「それに時間が必要だ」
コーヒーは湯気を立て続けている。
誰も手をつけない。
原慧
「もうすぐ生徒たちが来る...急げ」
原は部屋を後にする。
***
朝の空気はまだ冷たい。
酒井家の廊下。
センは角を曲がる。
そして足を止める。
田辺シズが立っている。
真っ直ぐに。
微動だにせず。
その視線は冷たい。
敵意もない。
優しさもない。
センは反射的に視線を落とす。
田辺シズ
「お気をつけて、セン様」
短い沈黙。
そして。
シズが一歩横へ退く。
センのために道を開けた。
_
センは大階段を下りる。
肩には鞄。
足音が響く。
静まり返った屋敷には少し大きすぎる音だった。
隼人は玄関のそばに立っている。
まるで待っていたかのように。
センは足を止める。
酒井隼人
「早いな」
センは答えない。
酒井隼人
「次に会うのは補習の後になりそうだな」
センは何も言わない。
扉へ向かう。
手をかける。
酒井隼人
「セン」
センが目を上げる。
振り返らない。
酒井隼人
「扉を開く時というのはな……」
短い沈黙。
酒井隼人
「その先に何があるかまでは選べない」
沈黙。
センは何も答えない。
そして敷居を越える。
扉が静かに閉まる。




