友達だから
ミナは校内の公園にあるベンチに座っている。
枯れ木の間を風が吹き抜ける。
ミナは身体を小さく丸めている。
手は制服の袖の中。
少しだけ震えている。
そこへ。
ヒラキが走ってくる。
ヒラキ
「日野!」
息を切らしながら。
ヒラキ
「ごめん!
遅れた!」
呼吸を整える。
ミナ
「外じゃないと駄目だった?」
肩をすくめる。
ミナ
「すごく寒いんだけど」
ヒラキが鞄を開ける。
中からマスタード色のマフラーを取り出した。
ぎこちない動きで近づく。
そして。
ミナの首へ巻いてやる。
ヒラキ
「これなら少しはマシだろ」
ミナが目を瞬かせる。
思いがけない優しさだった。
マフラーに触れる。
小さく笑った。
ミナ
「ありがとう……」
ヒラキが隣へ座る。
そしてため息をつく。
ヒラキ
「ミナ」
少し真面目な顔。
ヒラキ
「俺たちって友達だよな?」
ミナが首を傾げる。
ミナ
「え?
うん。
もちろん」
ヒラキ
「実は相談があってさ……」
ミナがゆっくり頷く。
ヒラキ
「好きな子がいるんだ」
視線を逸らす。
ヒラキ
「前は結構仲良かったんだけど」
少し困った顔。
ヒラキ
「最近、
俺のこと見えてないみたいなんだ」
ミナ
「喧嘩したの?」
ヒラキ
「いや」
首を振る。
ヒラキ
「たぶんしてない」
少し考える。
ヒラキ
「ただ……
分かんないんだ。
なんか変わっちゃって」
ミナ
「だったら気持ちを伝えれば?」
ヒラキ
「はぁ!?
無理無理無理!
振られたらどうするんだよ!?
笑われたら!?」
ミナ
「向こうも同じこと考えてるかもしれないじゃない」
ヒラキが固まる。
ミナ
「言い出せないだけで」
ヒラキ
「そうかな……」
ミナはじっとヒラキを見る。
沈黙。
少し長い沈黙。
ミナ
「待って」
目を細める。
ミナ
「まさか……」
ヒラキが慌てて両手を振る。
ヒラキ
「違う違う違う!
何考えてんだよ!」
ミナ
「なんだ……」
安心したように息を吐く。
ミナ
「びっくりした」
ヒラキ
「おい」
ミナ
「じゃあさ」
ヒラキを見る。
ミナ
「文化祭で同じ出し物に参加すれば?」
ヒラキ
「それで?」
ミナ
「話せばいいじゃない」
ヒラキ
「そんな簡単に言うけどさ……」
ミナ
「別に大したことじゃなくていいの」
肩をすくめる。
ミナ
「どうでもいい話とか。
くだらない話とか。
何でもない時間を作るの」
ヒラキ
「なるほど……」
真剣に考える。
ミナ
「で?」
身を乗り出す。
ミナ
「その子って誰なの?」
ヒラキの顔が真っ赤になる。
ヒラキ
「誰でもない」
ミナ
「えー!
私、友達でしょ?」
ヒラキ
「国家機密だ」
ミナ
「ずるい!」
抗議する。
ミナ
「相談しといて一番大事なこと隠すの!?」
ヒラキが笑う。
ヒラキ
「ミナ、名前言ったらベンチから落ちるぞ」
ミナの目が輝く。
ミナ
「じゃあ知ってる子なんだ」
考える。
ミナ
「待って」
ヒラキを見る。
ミナ
「まさか水野?」
ヒラキ
「はぁ!?」
本気で驚く。
ヒラキ
「やめろよ!」
ヒラキ
「死ぬぞ俺!」
ミナが吹き出す。
ヒラキも苦笑する。
ミナ
「それはちょっと見てみたいかも」
ヒラキ
「向こうは挨拶する前に俺を踏みつけると思う」
二人が笑う。
冬の冷たい空気の中。
久しぶりに。
心から。
***
センがようやく外へ出る。
フードを深く被る。
そして寮へ向かって歩き出した。
校内の公園を横切る。
その時。
笑い声が聞こえた。
夕暮れの静けさの中で。
妙に楽しそうな声だった。
センの足が止まる。
視線を向ける。
ベンチ。
ミナとヒラキが並んで座っている。
楽しそうに笑っていた。
そして。
ミナの首にはマフラー。
見覚えのないものだった。
センは視線を逸らす。
だが。
またそちらを見てしまう。
まるで無意識に。
顎に力が入る。
ほんの一瞬だけ。
センは息を吸う。
そして。
無言のままフードを整える。
そのまま歩き出した。
振り返ることなく。
***
レスベスト・メディア編集部。
編集部の空気は異様なほど張り詰めている。
電話は鳴り止まない。
ニュース番組を映したモニターが並ぶ。
記者たちは普段よりも小さな声で話していた。
アヤが自分の席へ向かう。
そこで違和感に気付く。
編集幹部たちが次々と席を立っている。
向かう先は同じだ。
陳様もいる。
その後ろにはシオ。
シオはアヤを見ない。
首から下げた社員証で。
廊下の奥にあるガラス張りの会議室を開ける。
直後。
ブラインドが閉じられた。
アヤはすぐに察する。
緊急会議だ。
アヤは席に座る。
仕事をしているふりをする。
新しいファイルを開く。
二行だけ打つ。
そして消した。
アヤは立ち上がる。
***
会議室。
テーブルを囲むのは陳様。
編集幹部たち。
法務担当。
政治関係者たち。
空気は重い。
張り詰めている。
壁の大型モニターには、競合各社の記事が次々と映し出されている。
『レスベスト・メディア、爆破事件で大混乱』
『危機管理能力に重大な疑問』
『揺らぐメディアの権威』
編集幹部
「無能だと言っています」
画面を見る。
編集幹部
「管理体制の不備だとも」
短い沈黙。
編集幹部
「中には内部工作を疑う声まであります」
陳様がゆっくり立ち上がる。
両手を背中で組む。
画面を見つめる。
陳様
「当然だ」
静かな声。
陳様
「弱いメディアは無視される」
振り返る。
陳様
「危険なメディアは攻撃される」
全員を見る。
陳様
「我々のメッセージは単純でいい」
間。
陳様
「レスベスト・メディアが狙われたのは偶然ではない」
陳様
「事故でもない」
さらに一歩。
陳様
「これは自由な報道への攻撃だ」
法務担当
「ですが……」
言い淀む。
法務担当
「我々と複数の大臣事務所との関係が表に出れば――」
その時。
扉が開く。
全員の視線が向く。
アヤ。
手にはコーヒーを載せたトレー。
沈黙。
陳様がわずかに眉をひそめる。
シオが固まる。




