運命の邂逅
セイラムは二本の刃を回し始める。
その動きは、奇妙なほど滑らかだった。
紫色の刃が、非常灯の赤い光を反射する。
原は動かない。
見ているのは刃そのものではない。
その先。
次に通る軌道だった。
銃に刻まれたルーンが光る。
原は引き金を引く。
銃弾が放たれる。
完璧な一撃。
弾丸は真っ直ぐセイラムの心臓へ向かう。
だが――
キィン――!
刃が弾丸を空中で叩き落とした。
火花が散る。
原の目が細くなる。
あり得ない。
弾丸の軌道を見切るなど。
常人には不可能だ。
二発目。
三発目。
異なる角度。
異なる軌道。
それでも。
全て弾かれる。
原は判断する。
距離を詰めるしかない。
直接触れる距離まで。
原が踏み込む。
一直線に。
セイラムへ向かって。
距離が縮まる。
その瞬間――
刃が回り始める。
さらに速く。
さらに。
さらに。
紫色の残光が円を描く。
セイラムを中心に。
原は踏み込む。
刃が飛び出す。
避ける。
次の刃が来る。
反射的に後退。
セイラム自身はほとんど動いていない。
踊っているのは刃だけだ。
まるで周囲の空間そのものを支配しているかのように。
原は角度を変える。
右へフェイント。
左へ回り込む。
探す。
たった一つの隙を。
だが見つからない。
原が通ろうとする場所には。
必ず刃が先回りしている。
セイラムが仕掛ける。
渦を巻くような連続斬撃。
原は横へ跳ぶ。
そして即座に銃を向けた。
爆裂弾。
轟音。
衝撃波がセイラムを押し返す。
だが――
それだけだった。
セイラムはすぐに体勢を立て直す。
刃が再び回り始める。
今度はさらに速く。
原が踏み込む。
一歩。
二歩。
今だ。
ついに刃の内側へ入り込む。
完璧な間合い。
その瞬間――
キィン!!
一本目の刃が銃身を叩く。
同時に。
もう一本が首元を薙ぐ。
原は即座に離脱する。
距離を取る。
目を細める。
セイラムは動いていない。
一歩たりとも。
まるで世界の方が、彼を中心に回っているようだった。
原は理解する。
このまま近距離戦を続ければ危険だ。
時間が経つほど不利になる。
深く息を吸う。
迫る刃を避ける。
そして。
二本の指を自らの喉へ当てた。
原慧
「サマン」
喉元にルーンが浮かび上がる。
_
一方その頃――
ミナは森の中を走っていた。
息は速い。
喉元には、サマンのルーンが浮かび上がっている。
その振動が微かに伝わってきた。
原慧
(サマン越し)
「ミナ……
少し手を貸してもらうぞ」
ミナ
(サマン越し)
「私抜きじゃどうにもならないんですか?」
その頃。
セイラムの攻撃はさらに激しさを増していた。
原は躱す。
精密射撃。
爆発。
衝撃波が発生し、一時的にセイラムを押し返す。
原慧
(サマン越し)
「そうでもない。
どうした?
何が起きてる?」
ミナ
(サマン越し)
「学校で火災警報が鳴りました。
全員避難しましたけど――」
ミナは木々の間を駆け抜ける。
ミナ
(サマン越し)
「センがいなくなりました」
原の拳に力が入る。
原慧
(サマン越し)
「……いなくなっただと?」
ミナ
(サマン越し)
「何かを追いかけたんです。
あるいは……誰かを」
原慧
(サマン越し)
「何だと?」
その瞬間。
セイラムが動く。
原の意識が僅かに逸れた隙。
二本の刃が唸りを上げる。
渦を巻く連撃。
原は避けきれない。
刃が生み出す衝撃が正面から叩きつけられる。
吹き飛ばされる。
倒れたテーブルへ激突。
破片が舞う。
原は顔を歪める。
原慧
(サマン越し)
「今は話している場合じゃない」
原は立ち上がる。
原慧
(サマン越し)
「ルーンが必要だ」
ミナ
(サマン越し)
「でも、それじゃセンを手伝えません!」
刃が肩を掠める。
空気が裂ける音。
原は壁際まで追い込まれていた。
絶え間なく回転する刃。
精密射撃も徐々に封じられていく。
原慧
(サマン越し)
「その話はセンが見つかってからだ!」
さらに一撃。
刃が頭のすぐ横を通り過ぎる。
金属音。
戦闘の衝撃で粉塵が舞い上がる。
原慧
(サマン越し・息を切らしながら)
「ミナ!
早くしろ!」
セイラムが身を捻る。
二本の刃が獲物を狩る直前の獣のように構えられる。
粉塵の中を進む。
原を壁と刃の間に閉じ込めるつもりだった。
だが――
ドォォォン!!
凄まじい衝撃波。
ガラスが砕ける。
テーブルが吹き飛ぶ。
椅子が宙を舞う。
セイラムの身体が数メートル後方へ弾き飛ばされた。
粉塵の中から。
原が姿を現す。
冷たい目。
右手の掌にはアギス。
指の関節にはマグナ。
右目の下にはヴィディヤ。
全身の筋肉が張り詰めていた。
即座に反応できるように。
セイラムは床へ着地する。
重い音。
だが既に体勢は整っていた。
予想外の一撃に驚きながらも。
その視線は真っ直ぐ原を捉えていた。
***
森はほとんど完全な闇に包まれていた。
月明かりだけが、わずかに木々の間を照らしている。
センの呼吸は速い。
だが乱れてはいない。
目を凝らしながら、シェイドの姿を探す。
そして――
不意に。
全てが止まる。
風が止む。
葉擦れの音も消える。
静寂。
その先。
月光がわずかに差し込む場所に、一つの影が立っていた。
シェイド。
冷たい声が響く。
遠くから聞こえる残響のように。
シェイド
「セン……
ようやく会えたな」
背筋を悪寒が走る。
センは拳を握り締める。
緊張が高まる。
セン
(警戒しながら)
「俺に何の用だ?」
シェイド
「お前はまだ選んでいない」
短い沈黙。
風がわずかに吹く。
木々の枝が揺れた。
セン
「なんで俺を倉庫に誘い込んだ?
それに、なんで俺の名前を知ってる?」
シェイド
「答えを求めているくせに。
肝心な問いを避けている」
センの表情が揺れる。
怒り。
困惑。
理解できない何か。
胸の奥で、何かが軋む。
セン
(強い口調で)
「俺を洗脳でもする気か?
笑わせるな」
シェイド
「怒りはお前を盲目にする」
風が吹く。
シェイド
「そしてここでは……
落ちるのは、盲目な者だ」
センの怒りが固まる。
決意へ変わる。
筋肉が張り詰める。
今にも弾けそうに。
センはルーンナイフを抜く。
月光が刃を照らす。
そして――
投げる。
二本同時に。
一直線。
シェイドへ向かって。
だが。
シェイドは動かない。
一歩も。
瞬きすらしない。
ナイフが迫る。
その瞬間。
シェイドの手が背中へ伸びる。
シュン――
黒い刀が鞘から抜き放たれる。
月光が刃をかすめる。
たった一振り。
流れるように。
正確に。
キィン!!
キィン!!
二本のナイフが弾き飛ばされる。
木々へ突き刺さる。
センは動けない。
拳を握る。
驚愕。
そして警戒。
その狭間で固まる。
だが――
次の瞬間。
ドォン!!
凄まじい衝撃。
シェイドの身体が吹き飛ぶ。
森へ衝撃音が響く。
地面が震える。
ミナ。
サマン。
マグナ。
アギス。
ヴィディヤ。
全てのルーンを発動した状態で立っていた。




