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シェイドの従者

レスベストメディアのパーティー会場――


会場が闇に包まれる。

やがて、非常用電源が作動する。


赤みがかった薄暗い光が部屋を照らした。


空気には細かな煙が漂っている。

火薬の臭い。

埃。


咳き込む声。

倒れたままの客たちが、状況を理解しようと身を起こしていく。


原も激しく咳き込む。

顔には灰が付着していた。

だが、すぐに立ち上がる。


その時。

黒服の警備員たちが部屋へ駆け込んでくる。

倒れたテーブルを飛び越えながら。

混乱する客たちの間を縫うように。


警備員

「酒井会長!

酒井会長!」


混乱の中心で。

酒井隼人は何事もなかったかのように立ち上がる。

その動きには一切の焦りがない。

表情も変わらない。

鋭い視線が会場全体を見渡す。


酒井隼人

「何が起きている?」


警備員

「襲撃です!

建物が攻撃を受けました!」


警備員は続ける。


警備員

「すぐに避難を――」


その瞬間。

原の目が見開かれる。


アヤ。


原は勢いよく部屋を飛び出した。


_


原は廊下へ飛び出す。

警備員たちが逆方向へ走っていく。

招待客たちを避難させながら。


だが、原は気にも留めない。

今の目的は一つだけだった。

アヤを見つけること。


やがて、パーティー会場へ辿り着く。

会場は混乱の渦中にあった。

倒れたテーブル。

砕けたグラス。

怯えた客たち。


非常用電源の赤い光が、金色の壁を不気味に照らしている。

原は視線を巡らせる。

アヤを探す。


原慧

「アヤ!!」


人混みをかき分ける。

テーブルを避ける。

慌ただしく走るウェイターたちの間を抜ける。

だが――

アヤの姿は見つからない。


胸の奥で不安が膨らむ。

それでも表情は崩さない。


原慧

「アヤ!!」


その時。

混乱の中で、あるものが目に入る。


紫色の煙。


原は振り向く。

そこに、一人の黒い人影が立っていた。

嵐の中心にいるのに。

異様なほど静かだった。

動かない。


黒いコート。

裏地は深い紫。

顔を覆う黒い仮面。

シェイドの仮面によく似ている。


口元には、細く不規則な亀裂。

だがその形は――

まるで歪んだ三日月。

ねじれた笑みのようだった。


男はただ立っている。

まるで原の反応を待つように。

挑発するように。


空気が張り詰める。

紫のガスがゆっくりと広がっていく。


そして――


周囲の世界が消えていく。

原は拳を握り締める。

思考が高速で回る。


(誰だ……?)


(こいつは何者だ……?)


***


学校――


生徒たちはついに最後の避難出口を通過する。

教師たちが見守る中、金属製のゲートがゆっくりと開いていった。


校内を囲む壁の外へ出ると、夜風が頬を打つ。

閉ざされた敷地内の空気より、ずっと冷たかった。

目の前には広々とした空間が広がっている。

その先には学校の陸上競技場。

グラウンドに設置された非常灯が、湿った芝生を白く照らしていた。

生徒たちは整然と列を作りながら歩いていく。


大勢の警備員が年少の生徒たちを誘導していた。

その様子を、警備責任者である黒沢が鋭い目で見守っている。


一方、上級生たちは小声で話していた。

緊張を誤魔化すように笑う者もいる。


ヒラキと雄輝も並んで歩いていた。


ヒラキ

「マジで……

俺たち今どんな格好だよ……」


雄輝が思わず笑う。


雄輝

「それはお前だけだろ」


ヒラキが睨みつける。

その時。

センとミナも最後の避難出口を抜けてくる。


雄輝

「酒井! 日野!

大丈夫?」


セン

「まぁ……

集団で風呂に入ったみたいな状態だけどな」


突然、警備員が駆け寄ってくる。


警備員

「止まらないでください!

競技場まで進んでください!」


生徒たちは再び歩き始める。

だが――

突然。

鋭い痛みがセンの頭を貫く。


セン

「っ――!」


ミナ

「酒井!?」


ヒラキ

「酒井、大丈夫!?」


センは目を瞬かせる。

痛みを振り払おうとする。

競技場の照明。

教師たちの携帯ライト。

その光が異様に眩しい。

周囲のざわめきも耳を刺す。

まるで何倍にも増幅されたように。


その時。


シェイドの声

「セン……」


背筋に冷たいものが走る。

センの視線が人混みの向こうへ向く。

森の境界線。

そこに――

立っていた。

シェイド。

闇の中に溶け込む黒い影。

微動だにしない。

その姿だけが、はっきりと浮かび上がって見えた。


周囲の喧騒が遠のく。

生徒たちの混乱も。

教師たちの声も。

世界が一点へ収束していく。

まるで時間が遅くなったみたいに。


ミナ

「セン!」


自分の名前を呼ばれた瞬間。

センは現実へ引き戻される。

目の前にはミナ。

ヒラキ。

雄輝。

三人が怪訝そうに見ていた。

センは反射的に森を見る。


何もない。

シェイドの姿は消えていた。


センはゆっくり息を吐く。


セン

「大丈夫……

ただの頭痛だ」


雄輝とヒラキが顔を見合わせる。


ヒラキ

「……とりあえず進もう」


二人は再び人の流れへ戻っていく。

だがミナだけは動かない。

センをじっと見つめていた。

何かがおかしい。

そう感じていた。


その時。

一人の警備員が別の生徒グループへ向かった。

森へ続く場所だけが、一瞬無人になる。

センは気づく。


そして――


センは駆け出していた。

生徒たちの間をすり抜ける。

暗い森の中へ消えていく。


ミナ

「セン!

……もうっ、信じられない!」


***


レスベストメディアのパーティー会場――


原慧は、数メートル先に立つ奇妙な人影を見据えていた。

紫色のガスが部屋を満たしている。

もう振動は聞こえない。

警報も。

悲鳴も。

何もかもが、一瞬で消えていた。

まるで世界そのものが切り離されたかのように。


残されたのは――

二人だけ。

原。

そして侵入者。


黒い人影が、ゆっくりと首を傾ける。

観察するように。

待っていたかのように。


原慧

(挑発するように)

「その仮面……

その印。

お前がシェイドの“砕けた三日月”か?」


人影は動かない。

一歩も。

息一つも。

だが――

仮面の亀裂の奥から声が響く。

冷たい。

金属を擦るような声。

空っぽの箱の中で反響するような不気味な響き。


侵入者

「私は、ただの従者に過ぎない」


その声は刃のように空気を切り裂く。

人間離れした響きだった。


原慧

「なるほど。

で、役目は何だ?

シェイドの家政婦か?」


反応はない。

沈黙だけ。

異様なほど制御された沈黙。


侵入者

「挑発は無意味だ、原慧」


静かな声。


侵入者

「お前はただの変数だ。

排除すべき不純物に過ぎない。

誰もシェイドから逃れられない。

そして――

セイラムから生き延びることもな」


その名が落ちる。

処刑宣告のように。

原は冷たく笑う。

そして、スーツの上着を脱ぎ捨てた。


原慧

「最高だな」


その笑みは消えない。


原慧

「セイラムか」


上着が床へ落ちる。


原慧

「最初に叩き潰す名前が分かった」


沈黙。

次の瞬間。

セイラムが両腕を上げる。

あまりにも自然な動作だった。

カチッ。

乾いた金属音。

二本の鎖が解き放たれる。

まるで鋼鉄の蛇。

鎖の先端で湾曲した刃が展開する。


シャキン――


不吉な音。

直後。

ドォン。

二本の刃が床へ叩きつけられる。


原は瞬きをする。

ほんの一瞬。

本当に一瞬だけ。

「ああ。思ったより面倒かもしれないな」

そんな考えが頭をよぎる程度の時間。


セイラム

(静かに)

「始めよう」

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