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回想――数えろ

巨大な衝撃波が、聖域をなぎ払う。

鏡が――軋む。

甲高い、現実離れした悲鳴のような音。

ひびが走る。柱が崩れる。石が砕ける。天井が、塊ごとに崩落する。


慧は後方へ吹き飛ばされる。

石の台座に激しく叩きつけられる。

肺から、空気が抜ける。

視界が揺れる。埃。岩の破片。ルーンの欠片。

嵐のように降り注ぐ。

二度目の衝撃。

天井の一部が、完全に崩れ落ちる。


轟音。

そして――


静寂。

重い沈黙。

埃が、宙に漂う。

世界が押し潰されたように、音が消える。


慧は、苦しげに体を起こす。

視界がぼやけている。

耳鳴りが頭を貫く。

咳き込む。マスクを下げる。

血を吐く。

そして――顔を上げる。


糸の守護者が倒れている。

動かない。

ルーンの円の縁。石の塊の下。

黒いローブは裂けている。発光する糸は断ち切られ、消えていた。

顔のルーンも――もう光っていない。

死。


慧は、動きを止める。

世界が歪む。音が遠ざかる。

まるで、水の中に沈んだように。

そして――

喉に、ルーンが灯る。サマン。

声が響く。頭の中に。弱く。途切れ途切れで。

それでも――確かに。


タミ

(遠く、震えている)

「慧……」


慧の目が見開かれる。


原慧

「タミ?!」


原慧

「タミ?!」


立ち上がる。

一歩。

もう一歩。

呼吸が乱れる。

押し殺した嗚咽。


タミ

(静かに)

「慧……覚えてる?……小さい頃……」


原慧

「タミ!どこにいる?!」


沈黙。

やがて――

かすかな笑い声。


タミ

「暗い中で眠るのが怖かったの……ママは、私がモンスターを作ってるって言ってた……」


慧は拳を握る。

周囲を見渡す。

探す。

必死に。


タミ

「でも……あなたは、いつもベッドのそばにいてくれた。私が眠るまで……秒を数えてくれた」


原慧

「どこにいるか言え!」


タミ

「いつも言ってくれたよね……顔に太陽の光を思い浮かべろって……そうすれば……私は一人じゃないって……」


――理解。

慧の顔が上がる。


原慧

「そのままそこにいろ。今行く!」


走り出す。

瓦礫を飛び越える。

叫びを無視する。


タミ

「……ありがとうって、言いたかったの。あの夜たち……全部」


階段。粗い石。

駆け上がる。

風が唸る。

二段飛ばし。


タミ

「……ミナを守るって、約束して」


原慧

「タミ、今行く!」


タミ

「慧……ミナを守って。あの子は……私に起きた中で、一番美しいものだから……」


さらに加速。

息が切れる。


原慧

「ここにいる!!」


――返事がない。


原慧

「タミ?答えろ!」


沈黙。

ルーンが、ゆっくりと消える。


原慧

「嘘だろ……!」


頂上。光。

ついに、慧は頂上へとたどり着く。


二つの山の間に突き出た場所が、谷全体を見下ろしている。

太陽の光が慧の目を打つ。

視界が揺らぐが、一つの人影が落下し、激しく地面に叩きつけられるのが見える。

静寂。

視界が戻る。

そこに。光の中。動かない影。

――タミ。


原慧

「タミ!!」


慧は駆け出す。

一歩一歩が怒りと絶望の混ざり合い。

膝から崩れ落ち、震える手でタミの顔へと伸ばす。


血が頭と体から流れている。

タミの目はまだ開いている。かすかに、まだ呼吸している。


周囲は完全な静寂。

風さえ息を潜めているかのようだ。

完全な静寂。

風すら止まったように。


原慧

(砕けた声)

「ここにいる!もう少しだけ持ってくれ!」


慧は腹部に指を二本当て、治癒のルーンを発動させようとする。

タミが彼の手首を掴む。

その手は冷たい。

だが、握りはしっかりしている。

一筋の涙が、タミの頬を伝う。


タミ

(かすれた声)

「だめ……数えて……」


慧は見つめる。

理解できない。


原慧

「な、なに……?」


タミ

「数えて……最後に……もう一度」


彼女の指が、兄の指をさらに強く握る。

慧は嗚咽を飲み込むが、涙は止まらない。

叫び出したい衝動を押し殺すように唇を噛み、うなずく。


原慧

(震える声で)

「一……」


慧の手がタミの手を握り締める。

妹の体に冷たさが広がっていくのを感じる。


原慧

「二……」


かすかな微笑みがタミの顔に浮かぶ。涙を流しながらも、まるで兄の腕の中でようやく安らぎを得たかのように。


原慧

「三……」


幼い頃の記憶がタミの中に蘇る。まるで最後の巡りのように。優しく、幸せで、穏やかな光景。


原慧

「四……」


タミの首元のネックレスの光が、ゆっくりと揺らぐ。


原慧

(声を震わせて)

「五……」


ネックレスの光が、静かに消えていく。


原慧

「六……」


最後の息が漏れ、タミの顔は空を見つめたまま止まる。


原慧

「七。」


慧は動けない。呼吸すらできない。

妹の体を強く抱きしめる。


涙が止まらず流れ続け、唇が震え出す。


原慧

(ささやくように)

「殺してやる……

必ず殺してやる。」


そして、叫びが漏れる。掠れた、獣のような叫びが山に響き渡る。

その目は赤く染まり、抑えきれない黒い怒りに満ちている。


原慧

「酒井!!」


***


本殿では、まだ熱を帯びた瓦礫がゆっくりと煙を上げている。

粉塵が空中に漂い、崩れた天井の裂け目から差し込む最後の揺らめく光に捉えられている。


アサは瓦礫の中から苦しげに体を起こす。

うめき声を漏らしながら、黒いスーツに食い込んだ石の破片を引き抜く。マスクを下ろし、煙と灰で焼ける喉を押さえながら激しく咳き込む。


彼女の視線が広間を見渡す。

部屋の中央には、糸の守護者の遺体が横たわっている。

動かない。


アサはゆっくりと歩み寄る。まるで一歩一歩が重くのしかかるように。

彼女は守護者のそばに膝をつく。


その表情が固まる。


背後で、一人の男がよろめくように現れる。血に染まった胸を押さえ、息は短く、乱れている。


「アサ!」


彼女はすぐに振り返る。


「守護者が……」

(息を整えながら)

「守護者たちは、全滅だ。」


氷のような悪寒がアサの背筋を走る。まるで神殿そのものから魂が抜け落ちたかのように。


アサ

(かすれる声で)

「……何?」


「酒井隼人が……全員殺した。」


別の男が近づく。表情は硬い。


別の男

「アサ、すぐに安全な場所へ行け。今すぐだ。」


アサは動けない。言葉は口に届く前に砕ける。


別の男

「サカイにそのネックレスを奪わせるな。いいな?」


彼女はほとんど反射のようにうなずく。思考は鈍い混乱の中でぶつかり合っている。


そして——


低いひび割れるような音が、広間の奥で響く。

壁を舐める炎が揺らぎ、ゆっくりとした確かな動きに引き寄せられる。


埃と煙の向こうから、一つの影が現れる。


高く。

圧倒的で。

完全に直立している。


その足取りは瓦礫を踏み砕きながら進む。迷いも、ためらいもない。炎がその暗い姿に映り込み、恐ろしく、まるで悪魔のようだ。


その男は、夜そのものをまとっているかのようだった。


アサは凍りつく。

心臓が締め付けられる。体が動かない。


酒井隼人は、一人で現れたのではない。


地獄を連れてきた。

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