条件
ベルが鳴る。
ミナは髪を乱したまま教室を飛び出す。
日野先生が呆然と見送る中、彼女は再び信夫にぶつかりかける。
信夫は避けようとして、半ば膝をつく。
信夫
「日野!いい加減にしろ!走るな!」
その騒ぎの中、二人の生徒がセンに近づく。
西川雄輝
「おっ、やあ!俺は……えっと……」
(つまずいて前のめりになるが、すぐに立て直す)
「西川!」
藤本ヒラキ
「俺は藤本。よろしく。」
センは無表情のまま二人を見る。
灰色の瞳が、動きの止まらない二人を静かに捉えている。
彼らのぎこちない動きと、センの冷たい静けさの対比が、それだけでどこか可笑しな空気を生む。
そこへ、三人の女子生徒が笑顔で現れる。
水野あやめ
(雄輝とヒラキに)
「ちょっとどいて。」
(センに)
「はじめまして、水野です!」
森崎ジュン
「森崎です、よろしくね!」
月島ミユ
「もう学校見て回った?よかったら案内するよ!」
水野あやめ
「授業もフォローできるよ!」
信夫
「酒井。こちらへ。」
女子たちは話し続け、西川と藤本も相変わらず落ち着きなく動いている。
センは立ち上がり、冷静で抑えた様子のまま信夫の後を追う。
教室の騒がしさを背に残して。
***
センは信夫に続き、中庭にある小さな建物の一つの明るい廊下を進む。
やがて、広々とした共用スペースに出る。
光に満ちた空間で、開放的なモダンキッチンが備えられている。
明るい木製のテーブル、ばらばらに置かれた椅子、壁にはいくつかのポスター。
場所全体に、どこか温かく、親しみやすい空気が漂っている。
信夫
「こちらはあなたの学年の生徒たちが使う共用スペースです……料理も自由にできます。」
歩きながら、彼らは廊下の前を通り過ぎる。
その先で、ミナが自分の部屋のドアを塞ぐ段ボールの山をどかそうとしている。
腕より大きな箱を引っ張り、よろめき、倒れないように壁に寄りかかる。
信夫
(ため息をつきながら)
「日野、また何をやってるんだ。」
ミナ
「わ、わたしは……その……ちょっと……ドアが……」
信夫
「それを全部片付けておけ。
来なさい、酒井。部屋を案内する。」
センは数秒足を止める。
灰色の瞳がミナを見つめる。興味を引かれたように。
その分析的な視線は、彼女の不器用さ、箱に手間取る様子、そしてそのどこか滑稽な緊張感を捉える。
やがて、ゆっくりと視線を外す。
そして、落ち着いた歩調で信夫の後を追う。
***
センは自室のドアを開ける。
部屋は奇妙なほど無機質で、装飾も私物も一切ない。
シンプルなベッド、明るい木の机、閉じられたクローゼット――それだけが空間を構成している。
床のフローリングは清潔だが冷たく、白い壁は光を吸い込むようで、部屋全体にどこか無機的な空気を漂わせている。
信夫
「何かあれば、入口の部屋にいます。」
返事を待たずに、信夫は部屋を出ていく。
静寂だけが残る。
センは窓へ歩み寄り、それを開ける。
建物の一階に位置しており、夕方の冷たい空気が部屋に流れ込む。
彼は小さく息を吐く。一日の重さを吐き出すように。
ふと、下の草むらに視線が引かれる。
白い小さな輝きが、光を受けてきらめいている。
迷わず、窓から飛び降りる。
それは古びた首飾りだった。
滑らかで、ほとんど完璧な白い石がはめ込まれており、湿った草の上に落ちている。
センは身をかがめ、それを拾い上げる。
その指が石に触れた瞬間――
眩暈。
――映像が断片のように流れ込む。
巨大な鏡がひび割れる。
刻まれたルーンが砕ける。
石が崩れ落ちる。
粉塵がすべてを覆う。
押し殺された叫び。
そして――
静寂。
センは思わず首飾りを手放す。
石が指先で焼けるように熱を帯びる。
彼は草の上に膝をつく。息は荒く、心臓が激しく打っている。
センはそれを見つめる。動揺している。
やがて顔を上げる。
上の階の窓に、まだ一枚のシーツが引っかかっているのが見える。
布は風に揺れ、どこか見覚えのある影のように揺らめいている。
センはわずかに眉をひそめ、その静かな違和感に目を向ける。
***
センはベッドに横たわっている。
灰色の瞳は、手の中の小さな白いペンダントをじっと見つめている。
思考の奥に沈み込むように。
センは指先でネックレスを回す。
その形を観察する動きは、機械的で、冷たく、どこか興味を帯びている。
そのとき、窓の近くで物音がする。
彼の視線が即座に上がる。
センはわずかに眉をひそめ、外を鋭く見据える。
警戒心の滲む冷たい眼差し。
***
ミナは涙を浮かべ、芝生の上で四つん這いになりながら必死に何かを探している。
指先が草一本一本、小さな石一つ一つをなぞる。まるで、それが見つからなければすべてが終わるかのように。
ミナ
「どこ……どこにあるの……?」
背後から、低く落ち着いた男の声。
セン
「なあ……」
ミナは凍りつく。心臓が激しく打つ。
ゆっくりと振り返る。
センは窓にもたれかかり、どこか気だるそうな様子で立っている。
セン
「これ、探してるのか?」
指先でネックレスをつまみ、光を反射させる。
ミナの目が見開かれる。
息が止まり、その物がどれほど大切かが一瞬で伝わる。
考える間もなく、彼女は飛びかかるように手を伸ばす。
ミナ
(強く、怒りを含んで)
「それ、返して!」
センはかすかに笑う。ほとんど見えないほどに。
わずかに身を引き、ミナが触れられる寸前まで近づかせる。
ミナ
「今すぐ返して。」
ミナは一歩も引かない。
その視線はペンダントに釘付けで、まるで命がかかっているかのようだ。
センは動かない。無表情のまま、ネックレスを手に持ち続ける。
彼女が引かないことを、理解している。
セン
「条件がある……手を貸してほしい。」
ミナ
(皮肉っぽく)
「なに?頭が足りないから、私の半分貸してほしいの?……それ、返して。」
セン
「今朝、お前が落ちるの見た……」
(間)
「お前の頭借りても、俺は賢くならなさそうだ。」
ミナは眉をひそめる。それでも引かない。拳を握りしめる。
セン
「さっき……俺より先に教室にいたな。こそこそ入り込んで、近道も、廊下も、この学校の抜け道も知ってる。」
「だから……その大事なネックレスを取り戻したいなら……ここから抜け出すのを手伝え。」
ミナは歯を食いしばる。頭の中は混乱している。
だが、センの冷たい論理を否定できない。




