ミナ VS セン
セン
「いや……
俺、ミナは殴れませんって」
原慧
「マグナは力だけじゃなく、防御力も強化する。
心配するな。ミナも……お前もな」
ミナが挑発的に笑う。
ミナ
「なに、酒井?
私に負けるのが怖い?」
その一言が、綺麗に刺さる。
センが笑う。
セン
「いや……
水野の方がよっぽど怖い」
ミナの目つきが、一瞬で変わる。
ミナは手を伸ばす。
衝撃波が部屋を貫く。
センは壁まで吹き飛ばされる。
激突。
土煙が舞い上がる。
センは咳き込む。
セン
「……分かった。
そっちがその気なら」
次の瞬間――
センの姿がほとんど消える。
目で追えない速度。
そのまま突っ込む。
ミナはヴィディヤで強化された感覚で回避する。
だが、蹴りを完全には避けきれない。
身体が吹き飛ぶ。
床を転がる。
すぐ立ち上がる。
センが少し笑う。
それが、さらにミナを苛立たせた。
そこからは、超高速の応酬だった。
拳。
蹴り。
残像。
ミナが受け止めるたび、イージスが閃く。
センが全力で拳を振り抜く。
ミナは紙一重で回避。
直後――
センの拳が地面へ突き刺さる。
轟音。
床が砕け、瓦礫が爆発みたいに吹き上がる。
ミナの顔が青ざめる。
あれをまともに受けていたら、一撃で終わっていた。
二人は距離を取る。
荒い呼吸。
互いを睨む。
ミナは理解する。
(力は向こうが上……
長引けば負ける)
センが再び突っ込む。
ミナは高く跳ぶ。
センのTシャツを掴む。
そのまま流れるように投げ飛ばす。
センの身体が宙へ浮く。
ミナは手を向ける。
衝撃波。
センはさらに上空へ吹き飛ばされる。
ミナも跳ぶ。
そのまま蹴りで決めようとする――
だが。
センがミナの脚を掴む。
ミナの目が見開かれる。
ミナは衝撃波で振りほどこうとする。
だが、センも同時に反撃する。
二人まとめて地面へ叩き落とされる。
凄まじい土煙が部屋を包み込む。
原が咳き込む。
やがて、ゆっくり土煙が晴れていく。
ミナが目を開ける。
自分が床へ倒れていることに気づく。
そして――
センが、すぐ上にいた。
顔が触れそうなほど近い。
二人を包むように、薄い力場が展開されている。
落下の衝撃は完全に防がれていた。
センの掌のルーンが光っている。
イージス。
無意識で発動していた。
破れたTシャツの隙間から、センの筋肉が見える。
ミナの顔が熱くなる。
センは息を切らしながらミナを見る。
視線が、一瞬だけミナの唇へ落ちる。
そしてまた、目を見る。
セン
「……大丈夫?」
ミナは小さく頷く。
距離が近すぎて、頭がうまく回らない。
その時――
わざとらしい咳払い。
原だった。
センは即座に立ち上がる。
ミナも慌てて起き上がる。
原慧
「よし。
今日はここまでだ」
原は石造りの通路へ続く扉を開ける。
原慧
「ここを通って寮へ戻れ。
その姿を他の生徒に見られるのは面倒だ」
短い沈黙。
原慧
「サナーレを使って、お前たちの怪我を治しておけ」
***
ミナとセンは、地下通路を並んで歩いていた。
湿った黒い石壁が、二人の足音を小さく反響させる。
古びた松明の灯りが揺れている。
金色の光。
歪んだ影が、不規則な床へ伸びていた。
空気はひんやりとしている。
少し埃っぽい匂いもした。
二人とも何も話さない。
沈黙は重い。
けれど、不思議と嫌な感じはしなかった。
ミナは横目で、センの破れたTシャツを見てしまう。
やがて、センが口を開く。
セン
「……痛くなかったか?」
ミナ
「別に……
そっちは?」
センの口から、小さな笑いが漏れる。
その声が静かな通路へ響く。
セン
「いや……
たださ」
短い沈黙。
セン
「まさか服脱がそうとしてくるとは思わなかった」
ミナが固まる。
顔が一気に崩れる。
ミナ
「はぁ!?
ち、違っ……!
そんなつもりじゃ――」
今度はセンがはっきり笑う。
セン
「落ち着けって、日野」
(短い沈黙)
でも気になったんだけど。
なんでイージス、勝手に発動したんだ?
自分で発動するもんだと思ってた」
ミナ
「たまにあるの。
誰かが本当に危険な時、勝手に反応することが」
セン
「なるほど……」
二人はまた少し歩く。
ミナ
「……本気で言ってたの?」
セン
「何が?」
ミナ
「……水野の方が怖いって」
センは気楽そうに肩をすくめる。
セン
「もちろん違うって。
まぁ……たまにちょっとグイグイ来るけど。
なんでそんなこと聞くんだ?」
センはミナを見る。
セン
「なんでそんなこと聞くんだ?」
ミナ
「別に……」
センは軽く肩をぶつける。
ミナ
「ちょっ……!?
何すんのよ!」
セン
「嘘つくなよ。
俺たち、もうチームだろ」
ミナはため息をつく。
呆れと苛立ちが混ざった顔。
ミナ
「はぁ?
“チーム”って……
こっちは別に選んだわけじゃないんだけど」
セン
「……もしかして、
水野のこと気にしてんのか?」
ミナが一瞬固まる。
セン
「なに。
妬いてんの?」
その瞬間。
ミナの中で熱が一気に上がる。
ミナ
「はぁ!?
違うし!
変な勘違いしないで!」
ミナは足早に前へ出る。
センを追い越し、距離を取るみたいに歩いていく。
センは、その背中を見つめる。
口元には、小さな笑みが浮かんでいた。
***
原慧は、センとミナの戦いで砕け散った木片や埃を拾い集めていた。
その時、信夫が秘密の部屋へ入ってくる。
信夫
「アヤから連絡だ。
レスベストメディアのパーティー、今夜らしい」
原は頷く。
だが、ほとんど聞いていないみたいだった。
動きが少しずつ鈍くなる。
どこか上の空だった。
信夫
「……どうした?」
原の手が止まる。
重たいものが肩へ戻ってきたみたいに、長く息を吐く。
原慧
「アヤは……
俺が間違ってるんじゃないかって言ってた。
センのことだ」
信夫は静かに近づく。
椅子を引き、腰を下ろす。
まるで、原がようやく本音を置ける場所を作るみたいに。
信夫
「で、お前はどう思ってる?」
原は箒を床へ落とす。
乾いた音が、静かな部屋に響く。
そして、信夫の向かいへ座る。
原慧
「センは、酒井隼人へ辿り着くための手段だ。
それだけだ」
信夫は小さく頷く。
だが、その視線は原から逸れない。
言葉の奥を探るみたいに。
信夫
「じゃあ、なんでそんな顔してる」
原は長く黙る。
言葉を探しているみたいだった。
原慧
「アヤの調べでは……
センは、酒井の実子かもしれない」
短い沈黙。
原慧
「婚外子として生まれて……
だから養子にしたんじゃないかって」
信夫は固まる。
信夫
「……それなら、本物の綾柳ってことになるな」
沈黙が重くなる。
空気が張り詰める。
信夫
「なのに、なんで嬉しそうじゃない」
原の目が揺れる。
視線を逸らす。
答えない。
信夫
「お前が望んでたことじゃないのか?
綾柳を……
最後の一人まで壊すこと」
原はゆっくり立ち上がる。
再び、感情を閉ざした顔へ戻っていた。
原慧
「……今夜の準備をする」
信夫
「酒井隼人と向き合った時……
お前、どうするつもりだ?」
原は答えない。
木箱の上に置いていたジャケットを掴む。
そのまま出口へ向かう。
扉を出る直前。
半ば無意識みたいな声で呟く。
原慧
「悪いけど……
掃除、続き頼めるか」
そして、そのまま執務室へ続く階段を上がっていった。




