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始まりの訓練

センが勢いよく目を覚ます。

喉の奥から叫び声が漏れる。

まるで悪夢から無理やり引き戻されたみたいに。

呼吸が荒い。

速い。


だが次第に、見慣れた光景が目へ入る。

保健室。

消毒液の匂い。

センは少しずつ意識を取り戻していく。


すぐ隣では、信夫が椅子に座ったまま眠っていた。

朝の光が部屋へ差し込んでいる。

柔らかく、静かな空気。

朝だった。


センはゆっくりベッドから起き上がる。

なるべく音を立てないように。

近くの机には、綺麗に畳まれた着替えが置かれていた。

センはTシャツを広げる。

そこには――

リスのイラスト。

センは半分呆れたように、半分笑うみたいにため息をつく。


セン

「……日野」



***



新しい一週間が始まる。


生徒たちが、賑やかな校舎の廊下を行き交っていた。


ジュン

「酒井!」


ジュンがセンを追いかけるように走ってくる。

生徒の間を器用にすり抜けながら。


ジュン

「週末どうだった?

楽しかった?」


セン

「ああ……普通」


ジュン

「学園祭の話、聞いた?」


セン

「いや」


ジュン

「行くの?」


セン

「行かない」


ジュンの顔が一瞬で曇る。

セン、まったく協力的じゃない。

だがジュンはすぐに笑顔を作り直す。


ジュン

「もしかして、あやめを誘ったりしないの?」


雄輝

「セン!」


その瞬間、雄輝とヒラキがやって来る。

ジュンの会話を遮るように。


ヒラキ

(気まずそうに、小声で)

「よっ、森崎……

あやめ、元気?」


ジュンは露骨に眉をひそめる。

嫌そうな顔をしたまま、その場を離れていく。

ヒラキは気まずそうにため息をつく。


雄輝

「で、もう大丈夫なのか?」


ヒラキ

「ここ、退屈だったんじゃない?」


センは少し困惑した表情を浮かべる。


セン

「なあ……

記者たちが言ってたこと、覚えてるか?」


雄輝

「お前の兄貴のこと?

それとも、前の学校の件?」


ヒラキ

「雄輝!」


雄輝

「悪い悪い。

親父にもよく、デリカシーないって言われるんだよ」


雄輝はすぐに話題を変える。


雄輝

「……で、学園祭来るのか?」


センは少しだけ笑う。

雄輝もヒラキも、センを怖がっている様子はまったくなかった。


セン

「いや……たぶん行かない」


雄輝

「はぁ!? 嘘だろ!?」


ヒラキの顔色が悪くなる。


ヒラキ

「俺、あの祭りほんと嫌いなんだよ……」


雄輝

「アメリカンドリームだぞ!?

男子が女子を誘って、みんなで踊るんだぞ!?

めちゃくちゃロマンチックじゃん!」


ヒラキ

(怯えたような声で)

「悪夢そのものだ……」


雄輝

「水野を誘うの怖いだけだろ?」


ヒラキ

「うるさい!

そんなんじゃねぇよ!」


セン

「待て……水野のこと好きなのか?」


ヒラキ

(ほとんど叫ぶように)

「違ぇって!!」


その時。

センは、廊下の向こう側から原の視線を感じる。


セン

「じゃ、俺もう行くわ。

またあとで」


雄輝

「え? あ、ああ……またな」


ヒラキ

「またな!」



***



ミナは、騒がしい生徒たちで溢れた廊下をかき分けるように進んでいく。


立ち話で道を塞ぐグループ。

遅刻しそうで走っている生徒。

教室の場所を探して迷っている一年。


ミナは、それらを器用に避けながら進んでいく。

ようやく校庭へ出る。

だが、そこも平和じゃない。

ランニング中の運動部。

巡回している警備員。

さらに、バレーコートから飛んできたボールをぎりぎりで避ける。


そしてようやく――

人の少ない静かな場所を見つける。

ミナはそのまま芝生へ倒れ込む。

朝だけでもう疲れ切っていた。


ミナ

「やっと……」


陽の光が頬を温める。

ほんの一瞬だけ、世界が静かになる。

ミナは本を取り出し、そのまま読み始める。


その時――

影が差す。

光が遮られる。

ミナが顔を上げる。

すぐ目の前に、あやめが立っていた。

ミナはため息をつく。

だが視線は、本の文字から離さない。


ミナ

「……水野。

何?」


あやめは何も言わない。

そのまま本を軽く蹴る。

本が芝生へ落ちる。


あやめ

「センに、学園祭誘われた?」


ミナの声は冷たい。


ミナ

「なんでそんなことするわけ?」


あやめ

「もし誘われても……

断った方がいい」


ミナはゆっくり起き上がる。

芝生へ落ちた本を拾う。


ミナ

「あーはいはい。

“どうでもいいことリスト”に追加しとく」


あやめの表情が歪む。

苛立ち。

悔しさ。

何かを押し殺すみたいに。

そして、そのまま去っていく。

ミナは口元だけで少し笑う。

まるで――

小さな勝負に勝ったみたいに。



***



センは、原の執務室へ入る。

二人とも、どこか警戒した目をしていた。


原慧

「体調はどうだ」


セン

「……生きてます」


原慧

「それならよかった」


セン

「なんで傷が消えてるんですか?」


原慧

「ミナと俺で、治癒のルーンを使った」


短い沈黙。


原慧

「初歩レベルのルーンじゃ、致命傷までは治せない。

だが、浅い傷程度なら十分役に立つ」


セン

「“初歩レベル”って……

ルーンには段階があるんですか?」


原慧

「ああ」


原は静かに続ける。


原慧

「それに、発動には強い絆が必要だ。

使える人間はごくわずかしかいない」


わずかな間。


原慧

「……正直、俺も見たことがない」


原が隠し通路の装置を起動する。

重い音を立てながら、本棚がゆっくり動き始める。


原慧

「今日から、お前の訓練を始める。

ついて来い」

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