倉庫 ― ショーの始まりだ
仮面の男の一人が、最初に飛び込んでくる。
速い。
あまりにも速すぎる。
拳が、センの顔面めがけて空気を裂く。
センは反射的に後ろへ下がる。
拳が頬をかすめる。
風圧だけで、皮膚が冷たくなる。
次の一人が、もう横にいる。
センは勢いよく振り向く。
彫刻用ナイフが、ほとんど反射で振り抜かれる。
ガキィン――
刃が、その攻撃を受け止める。
男は即座にセンの手首を掴み、強引に捻り上げる。
センが顔を歪める。
ナイフが床へ落ちた。
その瞬間――
三人目が背後から現れる。
腹部への一撃。
ドゴッ。
肺の空気が一気に押し出される。
センは崩れかける。
それでも、なんとか踏みとどまる。
ギリギリで。
三人の影が、今度はゆっくりとセンの周囲を回り始める。
落ち着いた動き。
焦りはない。
まるで、勝利を確信した捕食者みたいに。
男
「……度胸はあるみたいだな」
別の男が、わずかに首を傾ける。
男
「それとも、ただの馬鹿か」
紫色のガスが、さらに迫ってくる。
どんどん近づいてくる。
センの呼吸は乱れていた。
視線が絶えず動く。
出口を探している。
どこでもいい。
ほんの少しでもいい。
その瞬間――
最初の男が再び襲いかかる。
今度は、センは下がらない。
前へ出る。
肩が男の胸へ激突する。
ドゴッ。
男が一歩後ろへ下がる。
驚いたように。
センは床に落ちていた鉄パイプを掴む。
そのまま、即座に振り抜く。
ガァン――
男は前腕で防ぐ。
だが衝撃が、倉庫全体へ響き渡る。
二人目が右側から現れる。
速すぎる。
膝蹴りが、センの腹へ突き刺さる。
センの身体が折れる。
それでも。
鉄パイプを、ほとんど見えないまま振り回す。
金属が仮面へ直撃する。
バキッ。
男がわずかによろめく。
初めての有効打。
初めて生まれる沈黙。
ひび割れた仮面の奥。
一つの目が見える。
冷たい。
人間じゃないみたいな目。
三人は、今度はゆっくり近づいてくる。
急ぎもしない。
まるで、狩りが終わったとでも言うように。
センは立ち上がろうとする。
うまく力が入らない。
腕が震えている。
呼吸もぐちゃぐちゃだった。
男
「終わりだ」
男の一人が、ゆっくり刃を持ち上げる。
センは歯を食いしばる。
だが――
その刃が届く寸前。
轟音。
眩い衝撃波が、センの周囲に広がる。
完全な球体。
光り輝くエネルギー障壁。
刃がぶつかる。
乾いた破裂音。
男の身体が吹き飛ばされる。
数メートル先の床へ叩きつけられた。
センは動けない。
呆然としている。
残る二人も、その場で止まる。
信じられないものを見るみたいに。
誰も喋らない。
誰も動かない。
そして――
闇の奥から、一つの影が現れる。
ミナ。
センへ向かって、ゆっくり歩いてくる。
その手は前へ伸ばされていた。
掌には、ルーン。
脈打つように光っている。
まるで心臓みたいに。
その表情には、もういつもの軽さはない。
冷たい。
集中している。
ほとんど威圧的なほどに。
セン
(愕然として)
「日野……?!
そこにいるな!!」
ミナ
「そこの二人、消えて。
じゃないと――ボコボコにする」
声は一切震えていない。
これほど本気のミナは、初めてだった。
男の一人が、悪魔の仮面の奥で笑う。
男
「おやおや……即席の救世主ってわけか」
残る二人が、一斉にナイフを抜く。
鈍い光が刃を照らす。
男
「ますます面白くなってきたな」
その瞬間――
ミナは二人から目を逸らさない。
だが。
倉庫全体に、足音が響く。
ゆっくり。
落ち着いた。
どこか芝居がかった足音。
男たちが振り向く。
ミナは、なお手を掲げたまま。
センは息を呑む。
そして――
聞き慣れた男の声が、闇の中から響く。
男の声
「――さて。
今夜は随分楽しそうな催しをやっているらしいな?」
柱の間から、一つの影が現れる。
その手には拳銃。
だが、普通の銃ではない。
銃身にはルーンが刻まれている。
不穏なエネルギーを脈打たせながら。
影が歩み寄る。
ゆっくりと笑みが浮かぶ。
そして、ついに闇から姿を現す。
原慧。
原慧
「これよりお見せする内容は、すべて専門家の指導のもとで行われています」
楽しげな顔で、仮面の男たちへ銃口を向ける。
原慧
「笑うのは構わない。
……泣くのは、ショーが終わってからにしてくれ」
まるで舞台の奇術師みたいに、軽く一礼する。
空気が変わる。
電気みたいな緊張が、倉庫を満たしていく。
本当の戦いが、始まる。




