似た者同士
誰かがセンの部屋のドアをノックする。
部屋の隅で、センは身体を抱えるように座り込んだまま動かない。
ヒラキ
「酒井? 大丈夫?」
沈黙。
雄輝
「話したくなったら、俺たちいるからさ……」
沈黙。
ヒラキ
「……まあ、その。
また月曜な」
数秒が過ぎる。
そして――
ポケットの中で、スマホが激しく震える。
センはスマホを取り出す。
画面には――着信。
アキ。
センは通話に出る。
心臓は、まだ激しく脈打っていた。
セン
「……もしもし」
アキ
「酒井様。お電話に出ていただき、ありがとうございます。
お取り込み中でしたら、申し訳ありません」
セン
「……別に」
アキ
「実は……本日、お迎えには伺えません」
センは何も言わない。
身体がわずかに強張る。
アキ
「お父様が……今朝の件をご存知です。
今、屋敷の前には記者たちが来ています……
ですので、今はお戻りにならない方がよろしいかと……」
セン
「……親父、自分で言えなかったのかよ」
アキ
「酒井様はお忙しい身ですので……」
センは奥歯を噛み締める。
何も言わない。
アキ
「ですが、ご安心ください。
原校長にはすでにお話しております。
今週末は、このまま学園に――」
センは苛立ったまま、通話を切る。
その直後――
再び、ドアがノックされる。
セン
「お前ら、大丈夫だって。
また月曜な」
原慧
「不正解です。」
センの動きが止まる。
原慧
「……ですが、もう一度だけ答える機会をあげましょう。」
_
センがドアを開ける。
原慧は返事を待たず、そのまま部屋へ入ってくる。
まるで、自分の部屋みたいに。
室内は薄暗い。
原慧
「君は蝙蝠か何かか?
こんな暗い部屋に籠もって」
慧はカーテンを開ける。
光が一気に部屋へ流れ込む。
そこで初めて気づく。
センが、転校してきてから一度も荷物を片づけていないことに。
そして――
散らばったままの木彫り。
小さな置物たち。
原慧
「さっきの件は――」
センが遮る。
セン
「ゴシップでも聞きに来たなら、部屋間違えてますよ。校長」
原慧はすぐには反応しない。
ほんのわずかに、視線が揺れる。
驚きと――興味。
原慧
「いや。
(間)
ただ、君の様子を確認しに来ただけだ」
センはわずかに驚く。
だが、その感情を顔には出さない。
セン
「...別に平気です」
二人は見つめ合う。
ほとんど睨み合いみたいに。
やがて慧の視線が止まる。
センの木彫りのツバメ。
翼の折れた、小さな置物。
慧はそれに近づく。
ゆっくりと、手を伸ばす。
セン
「……それ、触らないでください」
慧の動きが止まる。
宙に浮いたままの手。
そして、ゆっくりセンを見る。
原慧
「……興味深いな」
セン
「何がですか」
慧はセンへ歩み寄る。
原慧
「意外だった。
(間)
酒井の人間が、そんな取るに足らないものに執着するとは」
センの目つきが変わる。
セン
「俺の家族の話はしないでください」
原慧
「なぜ?」
センは視線を逸らさない。
真っ直ぐに。
セン
「……俺は、あいつらとは違う」
沈黙。
そして、その瞬間――
何かが変わる。
センの視線が、慧を捉える。
激しくではなく。
真正面からでもなく。
もっと深く。
まるで――
その奥に、別の何かがあるみたいに。
なぜか分からない。
だが、慧は目を逸らせなかった。
周囲の空気が、止まったように感じる。
まるで慧自身が、センの瞳の奥へ引き込まれていくようだった。
灰色だったはずのその視線が、
いつの間にか白く染まって見える。
そして、その奥にある痛み。
センが抱え込んでいるもの。
慧はゆっくり瞬きをする。
その表情が、わずかに緩む。
まるで――何かを理解したように。
だが、何も言わない。
静かに視線を外し、出口へ向かう。
原慧
「そういえば、君の運転手から連絡があった」
ドアノブに手をかける。
原慧
「父親本人は、電話もできないのか?」
セン
「……そういう父親じゃないんで」
慧の動きが、ほんのわずかに止まる。
振り返らないまま。
そして――
ドアを開ける。
そのまま、部屋を後にした。




