ビーヴへ
エマは答えない。
院長は、
さらに数秒エマを見つめる。
エマ
「……誤解です。」
院長
「ここで育ったあなたなら、
よく分かっているはずです。
(間。)
ここの子供たちは、
ただでさえ簡単ではない人生を送っています。
(さらに間。)
興味本位の記事で、
この場所を汚すことは許しません。」
エマは首を横に振る。
エマ
「記事のネタを探してるわけじゃありません……
(間。)
ただ、
資料を見せていただきたいだけです。」
院長の表情は変わらない。
そして、
わずかに声を張る。
院長
「リーさん。」
扉が開く。
リーさんが再び姿を現す。
院長
「この方をお見送りしてください。
(間。)
お話はこれで終わりです。」
エマは悟る。
これ以上、
何を言っても無駄だ。
目を伏せる。
そして、
部屋を出る。
――
扉が閉まる。
エマは不満そうに廊下を歩いていく。
リーさんが追いつく。
リーさん
「ダメだったか?」
エマはため息をつく。
エマ
「私……
ほんとバカですね……」
リーさんは微笑む。
リーさん
「何言ってる。
(間。)
お前はいつまで経っても、
私の知ってる一番賢い『ネズミのエマ』だよ。」
エマが突然、
足を止める。
表情が固まる。
何かが繋がる。
ゆっくりと振り返る。
エマ
「リーさん……
(間。)
青山ミキ先生のこと、
覚えてます?」
リーさんが笑みを浮かべる。
リーさん
「あの意地悪ばあさんを、
忘れられるものか。
(間。)
「……まあ、安らかに眠ってくれ。」
エマは数秒考える。
エマ
「青山先生が……
(間。)
自殺する場所に地下室を選んだこと、
変だと思ったことありません?」
リーさんは肩をすくめる。
リーさん
「子供に遺体を見つけさせたくなかったんだろう。」
エマはゆっくり首を横に振る。
エマ
「でも……
青山先生、
ネズミが死ぬほど怖かったんです。」
リーさんが眉をひそめる。
エマ
「地下室には、
ネズミが山ほどいた。」
沈黙。
リーさんの目が見開かれる。
エマは続ける。
もうリーさんに話しているというより、
自分の中で答えを組み立てている。
エマ
「人は……死ぬ場所に、
自分が心の底から恐れている場所なんて選ばない。
(さらに間。)
……自分で選んだんじゃないなら。」
沈黙。
エマはもう歩き出している。
リーさんはその場に立ち尽くす。
リーさん
「エマ……何をするつもりだ?」
エマが振り返る。
その顔に、
いたずらっぽい笑みが浮かぶ。
八歳の頃と、
まったく同じ笑顔。
エマ
「ネズミ……」
ウインクする。
そして、
廊下の先へ消えていく。
***
信夫は荷物をまとめる。
そして、
部屋を出る。
妙な静けさ。
風ひとつない。
鳥の鳴き声すら聞こえない。
信夫は大門まで歩いていく。
そして、
足を止める。
ケイリンが待っている。
その隣には涼司。
肩には荷物。
……涼司自身の肩に。
信夫
「何をしてるんです?」
近づいていく。
ケイリン
「涼司も一緒に行く。」
信夫は眉をひそめる。
信夫
「何も分かっていません。
(間。)
センが出て行ったのは、
あなたのせいです。」
コツン。
ケイリンの竹棒が、
信夫の額を叩く。
信夫
「痛っ!」
ケイリン
「本気で私を責めるつもり?
(間。)
自分たちが先に犯していた過ちを。」
沈黙。
ケイリン
「ケイも、信夫も……自分たちの都合のために、
何週間もあの子に真実を隠していたのでしょう?」
信夫はわずかに目を伏せる。
何も言い返せない。
信夫
「……では、どうすればいいと?」
ケイリン
「センがどこへ行ったか、
心当たりは?」
信夫
「ミナを探すって……」
ケイリンは信夫を見る。
沈黙。
信夫
「ミナですよ……ケイの姪です。」
反応なし。
信夫は小さくため息をつく。
信夫
「シェイドに攫われたんです。仮面をつけた男で、人工的なガスを使う……」
ケイリンはまだ信夫を見ている。
同じ表情。
困惑しているわけでもない。
驚いているわけでもない。
ただ――
続きを待っている。
信夫は頭を掻く。
信夫
「はい……
(間。)
今の説明じゃ、
何のことかさっぱり分かりませんよね……」
話を戻す。
信夫
「とにかくセンには、
ミナがビーヴ村に行ったって話したんです。
それで――」
言葉が止まる。
目を見開く。
信夫
「……そうか。ビーヴだ!
(さらに間。)
センはビーヴに行ったんだ!」
信夫はすぐに歩き出す。
迷いのない足取り。
ケイリンは涼司へ向き直る。
ケイリン
「センのことを頼むわ。」
涼司は頷く。
そして、
信夫の後を追っていく。
新たな旅へ向かうように。
ケイリンは二人の背中を見送る。
ケイリン
「興味深い。
(沈黙。)
今の話……一言も分からなかったわ。」
***
監視室。
シェイドは、
アジトの監視室にいる。
扉をノックする音。
そして、
誰かが入ってくる。
セイラム。
セイラム
「俺に用があるって?」
シェイドは振り返らない。
監視モニターを見つめたまま。
セイラムが近づく。
その視線も、
モニターへ向かう。
画面の中では、
アサが自宅を行ったり来たりしている。
その手には、
古びた首飾り。
彼女の首飾り。
カレス。
シェイド
「あいつがカレスを出すのは、何年ぶりだ……」
セイラム
「何をするつもりだ?」
シェイド
「ハロウィンのチームを
ビーヴへ向かわせろ。」
セイラムがシェイドを見る。
セイラム
「今夜は?」
シェイド
「ミナは俺が直接連れて行く。」
セイラム
「もし誰か来たら?」
シェイド
「来ればいい。
(間。)
「探す手間が省ける。」




