私情
センは瞑想用の座布団に座っている。
眼下には寺が広がっている。
静かだ。
薄闇を見つめ、
夜の音に耳を澄ませている。
そこへ――
提灯を手にした信夫が、
静かに近づいてくる。
隣に腰を下ろす。
二人とも何も言わない。
沈黙が流れる。
長い間。
信夫
「ミナが攫われた。」
センがわずかに信夫の方を向く。
身体が固まる。
信夫
「……シェイドに。」
センは言葉を失う。
数秒、
視線を逸らす。
セン
「……どうやって?」
信夫
「分からない……
(間。)
日野とミナは、
ビーヴ村の家にいた。」
センが立ち上がる。
信夫
「どこへ行く?」
セン
「ミナを探しに行く。」
信夫も立ち上がる。
信夫
「どこにいるかも分からないんだぞ。
(間。)
一度、学校に戻るべきだ。」
セン
「……戻ってください。」
信夫が小さく息を吐く。
センの肩に手を置く。
信夫
「酒井……」
センが信夫へ手を伸ばす。
その瞬間――
見えない力が信夫を弾き飛ばす。
信夫の身体が数メートル後ろへ滑る。
すぐに体勢を立て直す。
眉をひそめる。
そして――
動きを止める。
セン
「もう……」
(間。)
「二度と。その名前で呼ばないで。」
センはそのまま歩き去る。
信夫は動けない。
ただ、
遠ざかっていくセンを見つめている。
そして、
今まさに現れ始めたセンの力に、
言葉を失う。
***
シェイドがようやくアジトへ戻る。
冷煌との戦いの傷が、
まだ身体に残っている。
一歩進むたびに、
痛みが走る。
ハロウィンのメンバー二人に支えられながら、
監視室へ向かう。
シェイドが扉を開ける。
十数台のモニター。
ABMニュース本社ビルの爆発映像が、
繰り返し流れている。
記者
「当局は今回の爆発について、
シェイドと名乗るテロリストによる犯行と見ています。
救助隊の迅速な対応により、
幸い死傷者は確認されていません……」
部屋を沈黙が包む。
義はモニターから目を離さない。
義
「……何があった?」
シェイドは答えない。
ヨシがようやく振り返る。
義
「俺たちは何年もかけて……
この計画を築いてきた。」
セイラムは黙ってシェイドを見ている。
シェイド
「必要だった。」
義が乾いた笑いを漏らす。
義
「違う。
(間。)
あれは私情だ。」
再び沈黙。
義
「俺の知ってるシェイドは、
感情に任せて動いたりしない。」
一歩、
シェイドへ近づく。
義
「今じゃ、どのメディアもお前の話ばかりだ。
(間。)
街中が酒井の味方につく。」
さらに一歩。
義
「なら教えてくれ……
(間。)
そこまでの代償を払って、
何を得た?」
その瞬間――
シェイドが義の襟元を掴む。
一気に持ち上げる。
鬼の面からは、
何の感情も読み取れない。
だが、
掴む手に力がこもる。
義の呼吸が詰まる。
苦しそうにもがく。
セイラムがシェイドの肩に手を置く。
ただ、
それだけ。
シェイドの手から、
ゆっくりと力が抜ける。
義が床へ落ちる。
荒く息を吸う。
シェイド
「出て行きたいなら……
出て行け。
(間。)
だが――
理解できない決断を……
(さらに間。)
俺たちの大義への忠誠心の欠如と、決して混同するな。」
義は目を伏せる。
何も答えない。
そのまま部屋を出ていく。
静寂が戻る。
セイラムは数秒待つ。
セイラム
「……これからどうする?」
シェイドはもう一度、
モニターを見る。
炎。
記者たち。
鳴り響くサイレン。
シェイド
「娘を斎藤に引き渡す。
(間。)
予定通りだ。」
それ以上、
何も言わない。
シェイドは部屋を後にする。




